6月
「雨も滴るいい女って後輩ちゃんのためにあるような言葉だね」
「ゴミ捨てで外に出たせいで濡れただけです。勝手にそんなこと言わないで下さい。バカップルでもあるまいし」
「良いじゃん。良いじゃん。バカップルだって良いじゃんー…あ、そうだ。バカップルで思い出したんだけどさ」
「唐突に何ですか」
「先月さー、電車に乗ってたら『はい、たーくん。あーん』『こ、こういうの恥ずかしいな…あーん』みたいな感じで食べさせあうバカップルを見たんだよ」
「それは災難ですね」
「でさぁ。そのままどうするのかなって見てたら男の方が意を決して口を開いて女の子からのあーんを待ったんだよ」
「ああ。女性の方が食べさせる側ですね」
「でもね。おっ、食べるんだ。と思って更に見続けてたらべちゃって食塊が落ちてさ。それも男の制服に」
「学生のバカップル程質の悪いものはありません」
「それで女の子も焦ってさ。何とか彼に食べさせようと口に運ぶけど口の端に付いたりとか溢してたりとかしちゃってさ、何だか見てるだけで可哀想だったよ」
「そうですか」
「うん。そうだった」
「それで何を言いたいのですか」
「んー?あー、バカップルも頑張ってるんだよってこと。だから邪険にしちゃー、ダメダメよ」
「先輩はバカップル肯定派ですか」
「そう言う後輩ちゃんは否定派?」
「当たり前です。あんな公害はこの世から駆除すべきです」
「何か発想が偏ってるなー」
「先輩に言われたくありません」
「だって、僕らもバカップルみたいなもんだよ?だから自分自身を否定しているのに」
「はぁ?付き合ってすらいませんけど」
「イヤよイヤよも好きの内って言葉を知らないのかい?鈍感さんな後輩ちゃん」
「自分の気持ちくらい分かりますから変な捏造しないで下さい」
「ちぇー。だってさ、こんな物置で毎週男と女が会ってるってなったらさ。これって付き合ってるも同然じゃない?」
「違いますよ。先輩の変な常識で語らないで下さい。それに大体好きでここで先輩と会ってるんじゃないですし」
「ななっ!?酷いぞー」
「酷いのは先輩の頭の中です」
「そうだよね。顔は酷くないからねー」
「ナルシストはゴミです」
「嘘だよ!?軽いジョークだったからね!」
「まあ、先輩は顔と髪の毛の色だけは素敵ですよ。けどナルシストは嫌いですから」
「おふん。そんな正直に言われると照れるんだけど」
「嘘ですよ」
「ええっ!そんな嘘ないでしょー。精神的に来るうそだなー」
「本当に勿体ないですね。それで王子さまみたいな性格をしていたらモテたんでしょうけど」
「後輩ちゃん以外にモテる気ないし」
「何ですか、それ」
「バカップルの真似事。みたいな?」
「…いりませんよ。では、定時なので」
「あら、もうこんな時間?」
「はい。お先に失礼します」
「ん。またねー」




