5月
「先輩が私に会いたいと言って下さるのは正直悪い気はしません…が、私が昨日言ったことを覚えてますか?」
「勿論。後輩ちゃんが言った言葉は全て録音しているよ」
「ちょっと引っ掛かるところがありましたが無視して続けます。今日は5月7日ですよ?」
「そんなの僕でも知ってるよー」
「知っているなら何故、一昨日、昨日、今日と部活があるのですか」
「それは勿論後輩ちゃんといたいから…」
「そんなんじゃなくって、私は週に1度の部活を認めると言ったのですよ?」
「子供のころお小遣いの前借りをしたじゃん。あんな感じで週1を前借りしたの!」
「堂々と言われても…では、今月の部活は今日で終わりってことですからね」
「分かってるよ。だから、今日はうんと充実した内容にしないと!」
「その後ろに持っているのは昨日、一昨日と被っている新聞紙かぶとですね。どれだけこどもの日を祝いたかったんですか」
「えっへへー」
「気持ち悪い笑みで被せないで下さいよ」
「嫌がらないから、つい…」
「はいはい。私もやけが回ったみたいですね。なので祝いますから早く準備して、その悲しそうな顔をいつもよりも汚い笑顔で染めなさい」
「ツンデレちゃんだねー。やっぱり好き!」
「うるさいです。頭を折りますよ」
「うーん…後輩ちゃんなら出来そうで怖いよ」
「口を動かしているせいで準備が怠ってはいませんか」
「はーい…って準備も何もこのかぶとしかないんだけど」
「……」
「何その顔!?」
「呆れました。それなのに3日連続で私を部活に呼んだのですか」
「ううっ…ごめーん」
「謝っても何も出ません。仕方がないからとっとと始めましょう」
「本当!?何する、何する!」
「祝うと言ったのは先輩です」
「うん。だから、僕を祝ってくれるんでしょ?どうやって?」
「はぁ…この流れだと祝うまで帰れませんよね。定時になっているというのに」
「僕の考えを読めてきたね」
「じゃあ1度だけいきますよ。…おめでとうございます」
「……ん?」
「今言いましたよね。何故不思議そうな顔をするのですか」
「祝う…おめでとう。うん、まあ。そういうことにもなるよね。だけどちょっと僕の想像してたのとは違うかなーって」
「何を期待していたんですか」
「こどもの日だから…ケーキを作ってくるぅ、とか?」
「今日はこどもの日ではありませんし祝って貰えてるだけありがたいと思うべきです」
「えー。でもさぁー、祝うってのはなんかこう相手を喜ばせるようなので…」
「先輩は、今ので喜ばなかったんですか?…悲しいです」
「うそん。ちが、違うよ…喜んでるから、ね?泣かないで…」
「…ずずっ…」
「僕が悪かった。喜んでいるよ。嬉しいよ。お願い。泣かないで。後輩ちゃんが泣くと僕まで悲しくなるんだ」
「…や、です…ひっく」
「泣き止むんなら何だってするから。部活だって減らすから。嬉しいよね、ね?」
「今の言葉録音しました」
「え?泣いて…ない」
「泣いている訳ありません。嘘泣きです。けれど、先程の『部活だって減らすから。嬉しいよね、ね?』という言葉は本当ですからね」
「ちょ、ちょ、待って!?何でそんなボイスレコーダー持ってるの!?」
「先輩のロッカーに入ってました」
「バレたのか!って、勝手に僕のロッカーを見るなんて後輩ちゃんはとんだハレンチ娘だよ!」
「人の声を録音しておいてそんなことよく言えますね」
「くっ、あれも聞いたのか…でも秘蔵レコーディングは聞いてないってことだからまだ安心だ…」
「っ。まだあるんですか。…でも聞きませんよ。取り合えずこれは証拠として残しておきますから」
「うわー」
「それでは定時なので帰ります」
「ううー。引き留められない僕が情けない…じゃー。またねー」




