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最強の盲目剣士、“心の目”を開眼した経緯を語る

掲載日:2026/05/15

 私は王都新聞社の記者だ。

 今日取材するのは剣士。それもただの剣士じゃない。なんと“盲目”の剣士だ。


 彼は王都から少し離れた町に居を構える。

 住所を訪ねると、その名声には不釣り合いといえるほど小さな家だった。

 ノックをすると――


「いらっしゃいませ」


 エプロン姿のおっとりした女性が出迎えてくれた。既婚者だと聞いているので、奥さんだろう。

 剣士の妻というと、いかにも凛とした女性を想像してしまうが、案外こういった女性を好むものなのかもしれない。


「取材を申し込んでいた新聞社の者ですが」


「主人から聞いております。こちらへどうぞ」


 奥の一室に案内される。


 一対一のテーブル席の片方に、本日の取材相手――盲目剣士リンゲルが座っていた。

 黒髪で身長は高く細身、ゆったりとしたシャツとズボンを着ている。

 特筆すべきはなんといってもその目だ。痛々しい火傷跡があり、完全に塞がっている。

 この顔を見て「実は目が見えている」「盲目を装っている」と思う人間はいないだろう。

 リンゲルが立ち上がる。


「お待ちしていました。初めまして」


「初めまして」


 物腰は柔らかかった。

 この男が世界剣術大会三連覇、ビドール紛争での150人斬り、グロス巨岩斬りなど数々の偉業を成し遂げた、最強の盲目剣士。

 現在“世界最高の剣士”とされる剣聖ブラードも、リンゲルとの勝負を避けていると言われる。

 少なくとも、暗闇での戦いであればすでに世界最強に違いない。


 リンゲルの方から杖も使わず歩み寄ってきて、握手を交わす。

 全く危なげがなく、とても見えていないようには見えない。

 私は掌を彼の目の前で振ってみる。


「おや、来たばかりでいきなり別れの挨拶ですか?」


「……!」


 私は思わずこう尋ねてしまう。


「あの……見えてますか?」


「見えてますよ。といっても、目で見ているわけではありませんが」


「“心の目”と言われる技術ですね」


「ええ、一応そのように自称しています」


「私の顔も見えている?」


「見えていますよ。そうだ、なんならあなたの絵でも描いてみましょうか」


 リンゲルはペンでノートに絵を描き始めた。

 まもなく似顔絵が描き上がる。


 剣士なので上手くはないが、私の特徴をよくとらえていた。

 驚くことに、私の唇近くにある大きめのホクロまで描かれている。

 盲目の人は嗅覚や聴覚が優れているというが、これは見えてなければ不可能な所業だ。


「どんな風に見えてるんですか」


「普通に見えますよ。いわゆる健常者の人と同じようにね。私の両目はこの通りですが、その両目の上に新しい両目が生まれた、というような感じでしょうか」


「ですが、それだと夜は見えないのでは?」


「それが暗闇でも普通に見えるんですよ。昼間のようにくっきりとね。光を頼りにしていないからできる芸当なのでしょうね」


 昼間は健常者と同等に見えるし、夜の暗闇でもくっきり見える。

 これでは――


「なんだか、普通の人より優れているぐらいですね」


「そうなんですよ。盲目剣士なんて言われるけど、時折詐欺をしているような気持ちにもなりますよ」


 リンゲルは苦笑いを浮かべた。

 なかなかユーモラスな面もあるようだ。


 とはいえ、人より優れた視界を持っているから最強の剣士になれるかというと、そんなわけがない。

 取材を進めていくうち、彼の血のにじむような努力の日々も浮き彫りになっていく。


 剣を握り、汗を流し尽くすほどだった修行の険しさ――

 盲目の剣士として名を上げていく中での強敵との戦い――

 戦いの日々で出会えた運命の相手である奥さんとの馴れ初め――


 リンゲルの話を聞いて「羨ましい」とか「自分も目を潰してみよう」などと考える者はまずいないであろう過酷な日々だった。

 彼は詐欺師などではない。れっきとした武人である。


 そして、私はいよいよ肝心な質問に移る。


「あなたが“心の目”を開眼したきっかけはなんだったのでしょう?」


「これまで話したことはありませんでしたが、特別にお教えしましょう」


 それはありがたい。私のメモを取る手にも力が入る。


「私は元は王国の正規兵を務めており、18の時、炎の魔法を浴びてしまい視力を失いました」


 このことは知っている人間も多い。


「これをきっかけに、私は兵士を辞めました。しかし、さほど悲観はしていませんでした。傷病手当はたっぷり出るし、これで戦わなくて済む、なんて思ってたぐらいです」


 この前向きさは、後々盲目剣士として再起する時にも生かされるのだろう。


「ある日、私が家のベッドでゴロゴロしていると、当時は若かったですし、まあなんというか、ムラムラしたわけですね」


 リンゲルが少し顔を赤らめる。


「私も男です。ベッドの下にそういう本を隠してある。さっそくページを開いたのですが……見れない! まさに絶望でした」


 本を何度も開くような動作をする。


「それからの私は、ひたすらその本を凝視しました。見たい、見たい、見たい、見たい、見たい……寝食も忘れて、おそらく三日三晩はやっていたと思います。そうしたら突然! 私はあの素晴らしい本を見られるようになったんです! これが私が“心の目”を会得したきっかけでした……! あの時の感動は今でも忘れません!」


 私はすぐにこう返した。


「えーと、記事では厳しい修行の末開眼したということにしておきますね」






お読み下さいましてありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
 絶体絶命から生存本能を刺激されて、覚醒する主人公も数多いるので、きっと別の本能で覚醒したのでしょう(美談)
愛しの奥方(当時は恋人)の笑顔をもう一度見たいと願い、涙も出ることのない枯れ果ててしまった瞳で絶望に喘ぎ、彼女が得意とする刺繍の入ったハンカチーフ、その刺繍を見て褒めることも出来ないと両の手で広げたま…
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