最悪の死に方
へたくそ
私の父親は、他所の女と駆け落ちして心中した。病んだお母さんと、まだ小学生の私を捨てて。それからお母さんと私は、母方の祖父母と4人で暮らし始めた。お母さんも祖母もよく私にあんな父親みたいになったらダメと口うるさく言って来ていた。確かにあんな最悪な死に方なんて、私もごめんだ。子供を作るくらい好きになって愛し合った人を捨ててまで他所の女と心中なんて、信じられない。一人でも愛してくれる人がいるのに、私にはそんな人きっと一人もいないのに。もしも誰か一人でも私のことを愛してくれたらなにかは変わったのかも知れない。ずっと消えない希死念慮も、周りの人間への妬みも、愛されたい願望も。
そんな私にも今は感情を動かされる人がいる。夜の街で出会った同性の少女だ。本名も年齢も知らない彼女は、私の醜い本音を知ったうえで受け入れてくれている。周りからしたらそれだけと言ってしまうことに、私はひどく惹かれていた。同性に惹かれたのも別にレズというわけではない。男と違って身体目当てじゃないから消去法で、というだけだ。当人は私の恋情も、なぜ好きになったのかもきっと知っているのだろう。それを知ったうえで一緒にいて話を聞いてくれるのが、さらに好きになってしまう。そんな自分に自己嫌悪しても彼女はまた慰めてくれる。なんていい人なのだろう。もしいつか自分をちゃんと愛してくれたら、そんな夢をいつも見てしまう。私にそんな資格なんてないのに。
何度目かの会った時、その日に特別何かがあったわけではないのに、何故か好きが我慢できなくなった。これまではちゃんと抑えられていたのに、言うことを我慢できないくらいに。それでも言ったら全てが壊れるし、自分がそんな感情を抱いてはいけないこともわかってるし、察したうえで言わないでくれているのだから、本当にダメと分かっているのに。
「ごめん、好きです。」
「え?」
やってしまった。自分は理性のある人間という生物なのに。なんで自分は気持ち悪いと自覚しているのに言ってしまったのか。前を見るのが怖い。眼を見たくない。せっかく受け入れてもらえたのにまた拒まれたくない。でも会話をしないといけなくて、口を開かないと、なんて言い訳をすればいいだろう。
「その、」
「大丈夫だよ。知ってたから」
「え、、、?」
「好きにさせることをしちゃったのもわかるし、ちゃんと見てたから気づいてたよ。大丈夫、拒まないよ」
これまでで一番の間違いなのに、いつの間にか最悪な状況から、最高の状況になっていました。自分が一番欲しかった言葉。好きな人に受け入れてもらえた幸せ。きっとこの人に愛されるために生きてきたんだろうなと、そう思えた瞬間でした。
「ほんとに?」
「ほんと、だから泣かないで」
私が気づいていなかったようで、どうやらいつの間にか涙が出ていたようです。言ってしまった時から出ていたのか、それとも受け入れられて出たのか。それはわからないですけど、今は泣くことをやめて前を見ないと。
「ありがとう」
私の人生が本当に初めて報われた瞬間でした。
そして互いに本名を伝えあい、身体を重ね、一度家に帰宅しました。ああ、なんて私は幸せなのでしょう。家につきお酒を開け、湯船に水をため、今日の幸せな時間を振り返っていました。
湯船に水を入れ終わり、十分によったらレイに電話をかけ、身体を湯船に沈めました。
「もしもし?今日はありがと。ほんとに幸せだったよ~」
「もしかして今お風呂?私もあんなに好いてもらえてうれしいよ」
「そーお風呂~今から死のうかなーって思って」
「え?なんで?せっかく幸せになれたのに?」
「だからだよ。幸せなものがなくなるくらいなら、レイに愛されて満たされてるまま終わらせたいから。好きな人の声を聴きたいからってトラウマになることするなんて、私もお父さんのこと言えないね」
「ほんとだよ!なんでそんな最悪な死に方をするの!一緒にいるって約束したじゃん!」
「ごめんね」
お父さんの気持ちも少しはわかって終われてよかったな。だって、こんなにも満たされて幸せで、こんな私には相応しくない、最悪だけど最高な死に方なんだから。




