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ギャグシリーズ

転生令嬢は裏切り婚約者王子をあの遊戯で弄ぶ

作者: 青帯

シュールなギャグアクションの作品です。

肩の力を抜いてお楽しみ下さい。


 夜の王宮の庭園に二人きり。

 庭の湖に満月が映っていてとても綺麗。

 ロマンチックだわ。


「マリアンヌ。悪いが死んでもらう」


 雰囲気に浸っていたのに、殿下はなんてことを────。


 フェルデン王国第一王子アルフレド。

 金色のサラサラの髪。

 整った顔立ちに澄んだ青い瞳。

 王国内の女性たちの憧れの的。

 そして私の婚約者。


 それなのにマントをひるがえして腰から抜き放った剣を私に向けている。


「アルフレド殿下。どうして婚約者のわたくしを? 理由をお聞かせ願いますかしら?」


 一方の私マリアンヌも名家とうたわれるベルティーナ公爵家令嬢。

 容姿も申し分ないと思う。

 銀髪と銀色の瞳の美さをめられることは少なくない。

 そして赤い唇はルビーのようだなどと噂されている。


 お似合いの二人と言われていたのに、なぜ────。


「モニカから頼まれたのだ。マリアンヌさえいなくなれば一緒になれるからと」


 ローレン伯爵家令嬢モニカ。

 アルフレドとは幼なじみで仲が良いことは知っている。

 だけどどんな理由があろうと、殺人教唆さつじんきょうさはNGでしょ。


「君との婚約は父が決めたことで覆せない。だからこうするしかないんだ。悪く思わないでくれ」


 殿下も殿下だわ。

 親に逆らえないから私を殺すなんて。

 あーあ。

 幻滅しちゃった。


「覚悟はいいか?」


 私はドレスの帯から扇を引き抜くと顔の前で広げた。


「クス」


 笑ってしまっている口元を隠す。


「何がおかしい?」


「殿下ではわたくしに勝てませんわ」


「強がっても無駄だぞ」


「事実を言っているまでですわ」


「恐怖で気が触れてしまったようだな。すぐ楽にしてやろう」


「ふふ。どこからでも参られませ」


 私は扇を持っていない左手でドレスのすそを持ち上げて軽く礼をした。


 裾を手放した瞬間、鳥の鳴き声が聞こえた。

 それを合図にするかのようにアルフレドが動いた。


「せいっ!」


 アルフレドが突きを放ってきた。

 だが広げた扇で剣先をさえぎる。


 衝撃音と共に火花が散った。


「この扇は鉄扇てっせんですの」


「なんのっ!」


 次に繰り出された横なぎの斬撃も鉄扇で軽々と受け止めた。


「私は幼少期から剣術を習ってきた! 防ぎ切れるものではないぞ!」


 突き。

 振り下ろし。

 薙ぎ払い。


 アルフレドが波状攻撃を仕掛けてきた。


 だが私はその場から一歩も動くことなく攻撃を防ぎ切った。


「はあっ……、はあっ……」


 攻撃が止んだ。

 アルフレドが息切れしている。


「今度はこちらの番ですわね」


 私は鉄扇をたたんだ。


「腹」


 私はそう言った数秒後、たたんだ扇の先でアルフレドのみぞおちを突いた。


「ぐっ!」


 アルフレドがくぐもった声を漏らした。


「おなかを攻撃すると言いましたでしょう? 次。右足」


 私は体を低く沈めてアルフレドの右足の腿を扇で叩いた。


「あう!」


 悲鳴に似た声が上がった。

 アルフレドが右足を引きずりながら後退した。

 私を見る目に恐怖が浮かんでいる。


 打撃予報。

 攻撃箇所を告げているにもかかわらず対処できない。

 それはとてつもない実力差があるということ。

 アルフレドはようやく理解できたらしい。 


「さあ! 次は小手こてですわ!」


 私は素早く踏み込み、アルフレドの手を鉄扇で打ち上げた。


「ああっ!」


 剣が夜空に舞って私の後ろの地面に刺さった。


「マリアンヌ……。なぜ君はそんなに強いんだ?」


 アルフレドが信じられないといった表情をしている。


「殿下以上の稽古けいこを積んでいただけですわ。もう不慮の死を遂げたくはありませんもの」


「もう?」


 あっ、いけない。


「なんでもありませんわ」


 扇を広げて目を伏せた。


 昔の記憶が頭を過る。

 マリアンヌになる前の記憶だ。

 私は日本人のOLだったけれど、通り魔に刺されて命を落としてしまった。


 マリアンヌに転生したとき、そんな死に方は絶対したくないと思った。

 だから公爵の父に頼んで優秀な師をつけてもらって護身術を学んだ。

 それこそ必死で。


 通り魔のことを思い出してイライラしてきてしまったわ。

 もうちょっと意地悪をしちゃおうかしら。


「殿下。ひとつゲームをしませんこと?」


「ゲーム?」


 アルフレドが怪訝そうな顔をした。


「元の世界……、もとい、異国のお菓子を使ったちょっとした遊戯ですわ」


 私は懐の包みから棒状の細長いお菓子を一本取り出した。

 ほとんどの部分はチョコレートでコーティングされているが、そうでない端をつまんで持っている。


「ポッ○ーゲーム。受けてくださるかしら?」


 風が吹いた。

 湖面がさざめき、庭園の木々の枝が音を立てた。


「ポッ○ーゲーム、だと?」


「このお菓子を二人で口にくわえて互いに食べ進めるゲームですわ」


「そんなことをして、どうなるというんだ?」


 私は振り返って地面に刺さっている剣を見つめた。


「わたくしはあの剣を背にして立つことにします。殿下はわたくしの前に立っていただきます。その状態でポッ○ーを食べ進めればどうなりますかしら?」


 アルフレドは少し考えこんでから、はっとした。


「距離が縮まって、剣に手が届く?」


「その通りですわ。つまり再びわたくしを殺すチャンスが巡ってくるということ。それにルビーのようだと言われているわたくしの唇を奪えるかもしれませんわね。殿下にとっては良いことずくめでしてよ」


「……受けよう」


 私が扇をたたんで帯に差し込むのを見て、アルフレドが承諾した。


「うふふ。そうこなくては」


 私は剣を背にして立った。

 アルフレドはそのすぐ前に立っている。


「ではポッ○ーを」


 私がチョコレートのついていない側を、アルフレドがついている側を口に咥えた。

 互いの顔がまさに目と鼻の先にある。


 中世の貴族令嬢と王子が至近距離で見つめ合っているのは、きっと絵になるわね。

 二人の間にはポッ○ーがなければだけど。

 今はシュールな絵だわ。


 ともかく、ゲーム開始ね。


 私は右手を上げてクイクイと動かした。

 さあ、いらっしゃい。

 ポッ○ーを咥えていてしゃべれないけれど、手でそう伝えた。


 アルフレドが青い目を見開いた。


 カリカリカリ!


 凄いスピードでポッ○ーを食べ進めてくるわ。

 私だって!


 カリカリカリ!


 二人の間のポッ○ーがあっという間に短くなる。

 そして唇が触れあうと思った瞬間────。


 アルフレドが後ろに跳んだ。

 右手には剣が握られている。

 それだけでなく左手には鉄扇。

 私の帯から抜き取ったのは分かっている。


 アルフレドが口の中のポッ○ーをごくりと飲み込んで剣をこちらに向けた。


「どうやら私の勝ちだな」


 私もポッ○ーを飲み込んだ。


「甘い。まさしくポッ○ーのように甘いですわ」


 両手を肩の高さに持ち上げる。

 そして手の平を上に向けた状態で肩をすくめた。


「何だと?」


「ポッ○ーにはある薬を仕込んでおきましたの」


「まさか、毒!? だがそれではお前も」


「違いますわ。私には効果のない薬ですのよ。自分に惚れ込んでも仕方ありませんもの」


 アルフレドは眉間みけんしわを寄せていたが、やがて頬を赤らめた。

 そして剣を鞘に納めて片膝をつくと頭を下げた。


「私は何をしていたのだろう」


 アルフレドが両手で扇を差し出してきた。

 私はそれを受け取って反対の左手を少し上げた。


「マリアンヌ。君を心から愛している」


 アルフレドが私の左手を取って手の甲にキスをした。


「ポッ○ーに仕込んであったぐすり効果覿面こうかてきめんですわね。おーほっほっほ」


 私は右手の扇で顔をあおぎながら高笑いした。


 これでアルフレドは私の意のまま。

 さあモニカ。

 覚悟なさい。

 

 でもどうしましょう。

 うーん。

 あっ、そうだわ!


 惚れ薬は調合次第で別の相手に惚れさせることもできるから、魔王にでも惚れせてやろうかしら。


 盛る方法はもちろん、アルフレドとのポッ○ーゲーム♪

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