第七章:境界の塔
草原を抜け、ジュリたちは銀髪の少女・セラの後を追っていた。
空は徐々に赤く染まり、塔の影が地平線にうっすらと現れ始める。
「ねえ、セラ。あなた、どうして私たちのことを知ってたの?」
ジュリが問いかける。
「知ってたわけじゃない。ただ、ここを抜けてきた人間は大体同じ顔をしてるのよ」
セラは肩越しに微笑む。「何かを失って、それでも探してる顔」
カイルは眉をひそめた。「境界の塔って、何なんだ?裂け目と関係あるのか?」
セラはしばらく黙った後、小さく吐息を漏らす。
「私も全部を知ってるわけじゃない。ただあそこには、世界の外側から来た人間の痕跡が残ってる」
その言葉に、ジュリの胸がざわめく。
「外側……それって、異世界から来た人のこと……?」
セラは足を止め、振り返った。
「あなたのお兄さんも、そこに辿り着こうとしてたんじゃない?」
ジュリは息を呑む。兄がこの世界で何をしていたのか、そこに答えがあるのかもしれない。
塔に近づくにつれ、空気はひんやりと冷たくなり、風の音が低く唸るように響き始めた。
塔は思ったよりも古く、壁はひび割れ、蔦が絡みついている。
「入る前に言っとくけど、この塔は試練を課すわ」
セラは真剣な表情になる。
「試練?」
「人によって違うわ。だから、助け合えるところまで一緒に行くけど、最後は……自分で越えて」
ジュリは深く頷いた。
兄を追いかけると決めたあの日から、自分の足で進む覚悟はしてきた。
塔の中は静かだった。
最初の部屋の扉を開けると、そこには鏡がひとつだけ置かれていた。
「鏡……?」
ジュリが近づくと、鏡の中に映った自分が微かに笑った。
やっと会えるね、お兄ちゃん。
「……!」
鏡の中の自分が、口を動かしたのだ。だが、現実のジュリは声を出していない。
「ジュリ、下がれ!」
カイルが声を上げたが、次の瞬間、鏡から影が滲み出す。
「これは!まさか、試練」
リシェルが魔法の紋章を描き、カイルが剣を抜く。
ジュリは目を閉じ、深呼吸する。
「私は負けない。兄を、取り戻すんだから!」
影が襲いかかる刹那、ジュリの魔力が弾けた。彼女の心の奥から、小さな光があふれ出し、影を切り裂く。
影は悲鳴を上げ、霧のように消えていった。
「終わった……の?」
そう呟いたとき、塔の奥から重い扉が開く音が響いた。
「君、なかなかやるじゃない!」
セラがにやりと笑う。「でも、これからが本番だよ」
ジュリは拳を握りしめた。
「行こう。きっと、兄の手がかりが待ってる」
裂け目の秘密、兄の足跡、そしてこの世界の真実。
物語は、いよいよ核心へと近づいていく。