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第三章:森に眠る影

オルダの街を目指して歩き始めたジュリは、三日目の夕暮れ、深い森にさしかかっていた。

「思ったよりも道、わかりにくいな」

リィンのくれた地図を見ながら、ジュリは小さくため息をついた。

草原とは違い、木々が空を覆い、日が落ちるのも早い。森は冷たい静寂に包まれ、何かが潜んでいそうな気配すらある。

不安が膨らむ中で、どこかから微かな音がした。

枝を踏みしめる足音。それも、一つじゃない。

「誰かいるの?」

声に応えるように、茂みの向こうから三つの影が現れた。

その格好は旅人のようでありながら、腰には武器。表情には警戒心と、どこか計算高い笑みが浮かんでいた。

「こんなとこで一人旅とは、物好きだな」

ジュリは身構えた。緊張で、指先が震える。

「私は、ただ通りすがりで……」

「そうか。だったら、ちょっとした通行料をもらうだけだ。な?」

男たちの手が、剣の柄に触れる。

その瞬間、ジュリの胸に一筋の電流のような感覚が走った。

男たちが一歩踏み出した瞬間、ジュリの意識が一瞬、遠のいた。

気がついた時、体の奥から、熱のようなものが噴き上がっていた。

  「やめて――!」

叫びと同時に、地面に光の輪が走った。

男たちの足元から突風のような圧力が吹き上がり、三人の身体が吹き飛ばされ、地面    に転がった。

「なっ!?」

彼らは慌てて立ち上がろうとするが、その周囲には半透明の光の壁が現れていた。

まるで、ジュリの意志を代弁するように、森の風が護るように渦巻いていた。

(なに、今の……私が、やったの?)

驚きと恐れで、ジュリはその場に立ち尽くした。

だが、その場にさらに、もう一人の影が姿を現した。

「おい、立ってる場合じゃないぞ。危ない」

背後から聞こえた声に振り向くと、そこには長いマントを羽織った青年がいた。

鋭い目つきに、落ち着いた動作。手には細身の剣。

「君、魔力が暴走しかけてる。まずは深呼吸して、力を静めろ」

「ま、魔力? わたしが? でも……」

「説明はあと。まずは安全確保だ」

青年は素早く一人目の男に近づき、その剣を蹴り飛ばして気絶させた。他の二人も、その素早い動きに圧倒され、逃げ出していく。

やがて場が静まり、ジュリの呼吸も落ち着いたころ、青年はようやく名乗った。

「俺はカイル。放浪の剣士だ。君の力が気になってな」

「……ありがとう、助けてくれて。でも、私自分が何をしたのか、分からなくて」

「ああ、あれは《心律魔法》だと思う。感情を引き金に発動する、極めて稀な魔法形態だ」

「心律……?」

「君が“この世界の者”じゃないなら、納得がいく。迷い人には、時折、強力な魔力を宿す者が現れる」

カイルは腰を下ろし、焚き火の準備を始めながら話を続けた。

「この世界 -エルファリアは今、不穏な空気に包まれてる。数年前から、“亀裂”が各地に生まれてるんだ。空間そのものがゆがんで、異界と繋がってしまう」

「異界?」

「君の世界のような、別の世界。最近では“迷い人”の数も急増してる。何か、原因があるはずだ」

ジュリの胸に、またひとつ重みが加わる。

(お兄ちゃんも、その“亀裂”に巻き込まれたのかも……)

その夜、ジュリとカイルは焚き火を囲みながら、静かに語らい合った。

カイルは寡黙だが、根は優しい人間のようだった。

翌朝、ジュリは意を決して言った。

「あの……もし良かったら、一緒に旅をしてくれませんか?」

カイルはしばらく黙っていたが、やがて口元をわずかに緩めて言った。

「……分かったよ。お嬢さんの護衛、しばらく引き受けよう」

こうして、ジュリの旅路に新たな仲間が加わった。


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