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第一章:目覚めの地

柔らかい風が草をなで、遠くで鳥のような鳴き声が聞こえる。

ジュリはその音に耳を澄ませながら、慎重に一歩を踏み出した。

目の前に広がる草原は、どこまでも続いていた。けれどその広さが、逆に不安をかき立てる。

(どこ、ここ……)

足元には見たことのない白い花が咲いている。花びらは小さく、触れた指先が微かに温かく感じるのは、気のせいだろうか。

「お兄ちゃん……」

声に出して呼んでみる。けれど返事はない。辺りには、自分以外の気配が感じられなかった。

胸の奥に広がる焦りを押し込めながら、ジュリは歩き出した。手がかりはない。でも、止まっていたくはなかった。

しばらく歩いた先、草原の端にぽつんと立つ木を見つけた。

その下に、小さな人影が見える。

「あの、すみません!」

思わず駆け寄り、声をかけた。

振り向いたのは、自分と同じくらいの年頃の男の子だった。銀色の髪に、淡い緑の瞳。どこか異国的な雰囲気がある。

「君、もしかして“来たばかり”か?」

「来たばかりって……どういう意味ですか?」

少し驚いたような顔で、男の子はジュリを見つめた。

「そっか。なら説明した方がいいかもな。ちょっと座らない? 立ち話より、落ち着くと思う」

そう言って、彼は木の根元に腰を下ろした。ジュリも戸惑いながらもその隣に座る。

「名前、聞いてもいいかな?」

「……ジュリ。高校生です。多分、日本って国に住んでて……」

僕はリィン。ここの近くの村で暮らしてる」

リィンは柔らかく笑った。

「この場所は“エルファリア”って呼ばれてる世界。たまに、君みたいに他の世界から落ちてくる人がいるんだ。そういう人たちを、この辺じゃ“迷い人”って呼んでる」

「夢……、じゃないんだ」

「僕も最初はそう思った。でも、目が覚めても終わらなかったから、諦めて順応したよ」

リィンは軽く笑いながら、空を見上げた。

「君、誰か探してるんでしょ?」

ジュリははっとして、リィンの顔を見た。

「……なんで、分かったの?」

「その顔、誰かを待ってるような目をしてた。大事な人、なんだよね?」

少しの沈黙の後、ジュリは小さく頷いた。

「兄が一緒にいたんです。でも、目が覚めたら私だけで……」

「そっか」

リィンは真剣な眼差しでうなずいた。

「大丈夫。この世界は広いけど、君はひとりじゃない。僕もそうだったから……少しくらいなら力になれると思う」

その言葉に、ジュリの胸にほんの少し、温かさが差した気がした。

——こうして、ジュリの長い旅が始まった


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