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7/20

7:再検査の結果は…………

 



 エルネスト様はむっつりなのか、そうじゃないのか、疑惑をいだきはしているものの、エルネスト様に抱きしめられてニコニコになってしまっている。

 だって、勇気を出して押し倒そうそしたらめちゃくちゃ愛されてるのが分かって、いま幸せの頂点なのだ。我ながらチョロいとは思う。現金すぎやしないかと言われても構わない。私は満足である。


「リリアーナ、伯爵家に戻って、ご両親に話を聞こう?」

「……はい」

「何があっても君を見捨てはしない。何が何でも助かる手だてを探してみせるから。ね?」

「っ、はい」


 エルネスト様の優しさが心に染み込んでくる。

 きっと大丈夫、なんとかなると思えてきた。

 本当にあと半年しか生きられなくても、これからエルネスト様と沢山の思い出を作り、それをたくさん胸に詰め込んで、眠れるのならそれでいいと思えた。


「私は諦めないよ? リリは死なせない。絶対に」


 エルネスト様の力強い宣言に、ポロリとまた涙が流れた。こんなにも愛されていたのに、あんなふうに責めて申し訳なかった。ごめんなさいと謝ると、ありがとうがいいと言われた。


「エルネスト様、ありがとうございます」

「うん。そういう素直なリリが大好きだよ」

「っ……!」


 エルネスト様の箍が外れたらしく、さっきから甘々で心臓が止まりそうだった。




 エルネスト様の家の馬車に乗り込み、我が家へ緊急帰宅することになった。


 来るときは向かい合って座っていたけど、いまは隣り合って座り、手は奇跡の恋人繋ぎ。

 さっきワーワー言ったことをしっかり聞いてくれてたらしくて、繋いだ手を持ち上げて、手の甲にキスまでしてくれた。




 馬車を降り、家の玄関の前で立ち止まる。

 これから両親に話を聞かなきゃいけない。覚悟は決まったけど、やっぱり怖いのは怖い。自然と体が震えだす。

 エルネスト様が大丈夫だよと言い、柔らかく抱きしめてくれた。

 兎にも角にも、いまは真実を知ることが先決だ。


 家に入り、両親に話があるからサロンで話せないかと言うと、お母様が頑張って平静を装って「何かしら? いい話?」なんて楽しそうに聞いてくれた。目元が真っ赤になっているのに。お父様は、いつも通りだけど、妙にお母様に寄り添っていた。


 両親に執務室前で漏れ聞こえたことを伝えると、泣きながら抱きしめられた。

 丈夫に産んであげられなくてごめんね、恨んでいい、いつまでも愛していると泣きながら何度も何度も謝られた。

 やはり聞き間違いとかでもなく、本当に余命半年なのかと落胆した。


「ごめんね」

「謝らないで、お母様」


 ふと、この両親の下に生まれることが出来てよかったなと思った。この二人だからこそ、私は私らしくのびのびと過ごせてきたのだろう。

 こんなに愛してくれているのに、恨むことなんて出来るわけがない。


「コンテスティ伯爵、少しお話を聞かせてくださいませんか?」

「エルネスト君、私も君に話さねばと思っていたんだ」


 少し厳しい表情のエルネスト様が、両親に医師について聞きたい、診断結果も見せてほしいと、頼み込んでいた。


 両親から話を聞きつつ、エルネスト様が診断書などの書類を確認して、難しい顔をしていた。


「やっぱり、あと半年……?」

「いや。何かが可怪しいんだ」


 エルネスト様が、診断書とは別に緩和ケアの契約書も入っていると見せてくれた。そこには、苦しさを紛らわせることの出来る薬があり、それを定期購入すると、自宅でゆっくり過ごせるのだとか。

 まぁ、優しい気遣いね、なんて私たち家族は感動していたけど、エルネスト様は「詐欺だな」と断言していた。

 聞けば、ここ最近妙に重篤な病だと診断されている人が多いのだとか。しかも下位の貴族ばかりが。


「医者の名前が違うが、文字が似通っている。コンテスティ伯爵、リリアーナを我が家の専属医に診せて再検査しても?」

「そうだね、誤診や詐欺といった可能性にすがりたい気持ちもある。頼んでもいいかい?」


 そうして、エルネスト様に侯爵家のお医者様を呼んでもらったのだけど、その日の内に『健康優良児』という診断をされてしまった。しかも、ちょっとお菓子を食べ過ぎだから、そこは注意しなさいというお小言付きで。




「リリ、出ておいで」

「無理っ」


 私は現在、ベッドの中に籠城中である。

 そりゃ、死なないことが分かったんだから、よかったんだけど。それとこれとは別というか、つい数時間前にやらかした黒歴史が鮮明に脳内に残っているのだ。恥ずかしすぎて、ベッドから出られる気がしない。


「リーリ、喜びを二人で分かち合いたいんだ、顔を見せて? 君が健康で本当によかった。それに、結婚式の話もしたいんだけど?」

「結婚式?」

「うん、リリを不安にさせてたからね。話を進めようかってさっき伯爵と相談してたんだよ?」

「っ、ほんと?」

「あぁ」


 現金な私は、エルネスト様のその言葉に、ベッドから飛び出してエルネスト様に抱きついた。


「あはは。うん、リリアーナはこれくらい元気じゃないとね」


 余命半年と勘違いして、婚約者を押し倒して黒歴史は作ったけど、結果は最高の一日になった。

 

「いつ? いつ結婚式!?」

「ん? すぐにでも」


 エルネスト様の言った『すぐにでも』が本気ですぐだったことは、このときのふわふわとした私はまだ知らない――――。


 ちなみに、詐欺行為をした医師はエルネスト様経由で騎士団に報告が行ったそう。また侯爵家からも医師会に報告がされ、逮捕に至ったらしい。

 詐欺を働いた理由は、資金繰りが厳しくなったことだったらしい。

 恐ろしいことに、緩和ケアとして渡していた薬の中には毒に等しいものもあったそう。

 ゆくゆくは、詐欺から殺人未遂としての捜査に変わるだろうとエルネスト様から聞いて、身震いがした。

 もし診断書を信じていたら、本当に半年後には死んでいたのかもしれない。




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