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【連載版】勘違い令嬢は、奥手な婚約者を押し倒した  作者: 笛路 @書籍・コミカライズ進行中


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5/20

5:だって、あと半年なんだもん!




 ◇◇◇◇◇




 エルネスト様の優しい声と、少しだけ悲しそうな顔で、ちょこっとだけ現実に引き戻されてしまった。


 ………………あ、え……ここからどうしたらいいんだっけ? キキキキキスって、していいのよね? だってみんなこっそりしてるって言ってたし。唇をチョンッて触れさせたらいいの? あれっ? 唇って、アヒルみたいに尖らせた方がいいの? でもなんだかマヌケよね? あっ、押し倒したんだから、とりあえず服脱がせないとよね? 


 頭の中が完全にパニックだった。

 淑女教育も終わっているし、夜のお作法もふわっと教えられた。殿方に任せてればいいとかいう雑なものだったけど、先にお嫁に行った友人たちから色々聞かされているので、耳年増になってしまっている。

 耳年増なだけで、なんの経験もないのだから、ここからどうしたらいいのかは、ぶっちゃけ全くわからない。

 それでも押し倒したからには……と、エルネスト様のシャツのボタンをプチプチと外したら、思いのほか逞しい胸筋が出てきて、顔から火が出そうになった。


 結構細身なエルネスト様。

 第二隊長という役職を与えられているいまは、デスクワークも多くなっているらしいけれど、毎日のように鍛錬は続けていると言っていた。いつ何があっても、リリアーナを守れるからね、とよく言ってくれている。だから、困ったことがあったら、必ずエルネスト様に言うように、と。

 出会ったころに、騎士見習いだと言っていたことをふと思い出した。あれから正式な騎士様になり、第二隊長に任命されても、本当にずっとずっと鍛錬を続けていたのだろう。

 それが、逞しく隆起する胸筋に表れていた。


「ふ、ぁ…………」


 大好きなエルネスト様を押し倒し、襲っているという事実が、全身に巡っている血液を沸騰させる。

 体が、全身が熱い。喉が詰まったように締め付けられ、息が出来ない。苦しい。

 え、もしかしてもう死んじゃうの? それは嫌だ。本懐を遂げねばここまで恥をさらしている意味がない。

 ってか、本懐ってなんだろう? まぁいいや、とりあえず続けよう。余計なことを考えない、これが大切だ。たぶん。


 盛大に恥をさらしているのは、ちゃんと理解しているのだ。ただ、それをやってでも、私たちの関係を進めたいのだ。

 命が終わりに近づいているから、余計に。


「リリ、聞いてる? 駄目だよ?」

「っ、止めないでよ!」


 エルネスト様の優しい声が、妙にイラつく。私はこんなに欲しているし、頑張っているのに、エルネスト様はなんでこんなに冷静なのかと。


 いつだってそうだ。


 最近の恋人たちはこういうのが流行っているらしい、やってみたいと言っても、無理をしないでと頭を撫でてくる。指を絡めて恋人繋ぎすることの何が無理なのか。


 勇気を出して、みんなこっそりキスしてるんだってと話したときもそうだった、無理しないで、自分たちのペースでいこうと。そのペースが恐ろしく遅いから焦れているのに。


 ソッと体を寄り添わせれば、スッと半歩遠のかれる。柔らかな笑顔でごめんね近すぎたねと言い。違う、近づきたいのだ、そしてわざと近づいたのに。


 今までのことを一瞬で色々と思い出してしまい、感情の昂りが限界に達してしまった。

 喉がギュッと締まって、声が出ない。代わりに涙がボタボタと落ち続け、エルネスト様の胸を濡らしていく。


「なんで……」

 

 なんでこんなにも行動しているのに、エルネスト様に伝わらないのか。大好きなのに、愛されているはずなのに、いつまで待っても距離が縮まらない。

 いつまでも、幼い子どものように扱われる。

 私はもう大人だ。友人たちは既に子どもがいる。私だって産める年齢なのだ。


「リリ、聞いてる?」

「やだ」

「どうしたんだい? なんで今日はそんなにわがままなんだい?」


 エルネスト様の仕方のない子だというような表情と声にモヤモヤする。

 あぁ、いつだってそうだった。エルネスト様は私を幼い子どもとしか見ていないのだから、こういう態度なのだろう。

 

 落ち着いてと言われた。

 時間はあるんだから、お互いが納得できるように話し合おうと。

 エルネスト様はそうだろう。時間はまだまだある。

 たけど、私には時間がない。何の病気かはまだ分からないけれど、医師の診断書に半年の命だと書いてあったのだから、半年後には死んでしまうのだろう。

 治療法はないらしく、薬で緩和させて自宅で看取る方向にするなんて話までしていたんだから。


 エルネスト様と結婚したかった。

 大好きなエルネスト様と、毎日楽しく過ごして、愛し合って、赤ちゃんを授かれたら、どんなに幸せだっただろうか。

 でももう、それは叶わない夢なのだ。

 

 病魔に侵された体に赤ちゃんを迎えることなんて出来ない。死ぬと分かっていながらエルネスト様と結婚なんて出来ない。

 だから、キスくらいしてくれてもいいじゃない。思い出をくれてもいいじゃない。それを心に大切にしまって逝きたいのだ。


「キスしたいの」

「駄目だよ。なんでそんなに焦ってるの?」

「っ…………! だって、あと半年しかないんだもん! エルネスト様のばかぁぁぁぁ!」




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