2:気もそぞろなデート
エルネスト様にエスコートされながら植物園を見て回ることに。
この植物園にも恋人たちは多くいた。もちろん、友人たちと来ているご令嬢も多いし、長年連れ添った老夫婦なんかもいて、色とりどりの花に囲まれたとても素敵な空間である。
指を絡めて手を繋ぎ、ラブラブオーラを見せつけてくる恋人たちに目がいくのは、いまの私の心がささくれ立っているせいなのだろうか。
私とエルネスト様はいつだって基本のエスコートスタイルだ。エルネスト様の右ひじ内側に、私が左手をソッと添えるだけ。
ぶっちゃけ、これはただ並んで歩いているのと同意義なのだ。
別にこういったデートが嫌だというわけではない。
騎士団のお仕事で忙しいエルネスト様と過ごせるのは本当に嬉しいことだし、いつもなら会話も弾んでいる。
エルネスト様のお話はいつだって面白いし、私のたわいもない話を楽しそうに聞いてくださる。
そもそも、エルネスト様にお会いできただけで幸せだった…………いつもなら。
両親の会話を聞いてしまったせいで、普段は考えないこと、いつもなら気付きもしない些細なことにまでも、ふと気付いてしまう。
あのご令嬢たち、エルネスト様を見て頬を染めてるな……とかいう本当にしょうもないことだったり、いつもより体をくっつけて歩こうとしたのに、スッと避けて適度な距離を保たれたこととか。
恋人たちのように手を繋ごうとしてみても、柔らかく微笑んで頭を撫でられ、気付けばいつも通りのエスコートスタイルに戻されていたりとか。
「リリアーナ?」
「はい、なんでしょうか」
「その…………体調が悪いのかい?」
「……いえ、大丈夫です」
植物園に来て一時間も経つのに、今日はほとんど会話がなかった。エルネスト様に体調が悪いのかと心配され、大丈夫だと返事したものの、本当に大丈夫なのかは自分でもよく分からない。
私はあと半年で死んでしまうらしいのだが、体調はすこぶるいいのだ。喉風邪もしっかりと治っているし。
「本当に? まだこの前の風邪を引き摺っているとかはない? 喉は痛くない? 熱は?」
エルネスト様があまりにも心配してくるので、もしや両親が話していたことを知っているのかと疑った。だがよく考えると、二人の話具合からは私が出掛ける直前に判明したような感じだった。
そもそもエルネスト様は、先月の風邪をまだ引き摺っているのではないかといった方向の心配だったので、たぶん私が死んでしまうことは知らないのだろう。
エルネスト様は、私が死んだら悲しんでくれるだろうか? 淋しく思ってくれるだろうか?
そんなこと考えても碌なことにならないと分かっているのに、つい考えてしまう。
私が死んだあと、エルネスト様はどこかのご令嬢と結婚することになるのだろうけど、相手はどこの誰なんだろうとか。家格的に、エルネスト様が未婚でいることは難しい。そもそも、私との結婚を先延ばしにしている現状も、あまり良しとはされていない。
ただ、エルネスト様の仕事の忙しさもあり、結婚後は私が家で一人きりになってしまう可能性が高いことなどから、仕事が落ち着くまでは、と先送りになっていた。
私は気にしないと言うけれど、エルネスト様は納得してくれない。
若いころにしか出来ないことが沢山ある、いまは日常を楽しんでと言うばかりだ。
あまり会話が弾まない中、少し休憩しようとなり、植物園内にあるカフェに立ち寄った。
いつもの私なら、ここでスイーツを四個頼んでエルネスト様と分けっこするのだけど、今日は食べられそうにない。
「えっ、一個で良いのかい?」
いつも全部ぺろりと食べるのにどうしたんだい、と聞かれて、いや分けっこしてるしと答えると、エルネスト様がクスクスと笑いながら、ごめんねと謝ってくれた。たとえエルネスト様がそれぞれ一口くらいしか食べてなくても分けっこしているのだ。私一人では、全部は食べてない。
エルネスト様が本当に体調が悪いんじゃないかと心配してくれるのが、嬉しいような悲しいような。大丈夫だと言うたびに、エルネスト様に嘘を吐いてしまっているのだ。それが余計なストレスとなり胃がキリキリと痛んできた。
あまり食欲はなかったけど、これ以上心配させてはいけないと注文したレモンパイは、物凄く美味しかった。
「さて、そろそろ帰ろうか?」
「っ…………!」
気がついたら、いつもならもう帰る時間になっていた。
騎士団でお仕事が忙しいエルネスト様。週一回しかない貴重な休日を、私とのデートに充ててくださっている。
エルネスト様には、自分だけのお時間もちゃんと確保してほしいのだけれど、いつだって私を優先してくれる。それは愉悦に感じるほどに嬉しいのだけれど、それと同時に甘えすぎてはいけないとも思えてくる。
だから、三時過ぎには家に帰りたいと数年前から言い続けていた。なので、ここ最近は何も言わなくてもそのくらいが解散の時間になっていた。
でも……今日は…………まだ一緒にいたい。
今日くらいは、わがままを言ってもいいだろうか?
私に残されている時間は少ないらしいから、ちょっとくらい甘えて、わがままを言っても許されるかな?
エルネスト様に愛されているんだと、もっと実感したい。
言葉だけではなく、体感したいのだ。
もっと大人のふれあいをしたい。
抱きしめて、キスしてほしい。
「あのっ――――」