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16/20

16:とりあえず、押し倒そう。

 



 予定通りの日程でエルネスト様が戻られた。

 玄関でお出迎えすると、両腕を広げで抱きしめようとしてこられた。ササッと後退りすると、エルネスト様が衝撃を受けたような顔でヨロリとたたらを踏んでいた。

 ちょっとだけ罪悪感が芽生えたものの、このあとのための行動なので許してほしい。


「お帰りなさいませ。先に汗を流してきてください」

「…………うん。臭い?」


 エルネスト様が騎士服の袖や胸元の布地を持ち上げて、スンスンと匂いを嗅いで首を傾げていた。

 多少埃っぽくあるというか、海の匂いもするけど、別に嫌な匂いではない。ただ、私は計画を遂行したいのだ。


 首をかしげたまたのエルネスト様が、従僕に荷物を預けて私室へと入って行った。

 義両親は出かけてもらっているし、使用人たちには例のことを話し合うので二階には近づかないようにと言い含めておいたので、二階は完全に私のバトルフィールドである。

 グルングルンと腕を回し、準備運動をして、エルネスト様の私室の扉の前に立った。

 



 こっそりと扉を開き、抜き足差し足でエルネスト様の背後に立つ。振り向かずに「どうしたの?」と聞かれたが気のせいということにした。

 おりゃぁ!と叫びながらエルネスト様の背中に飛び付いて、エルネスト様ごとベッドに倒れ込むように押し倒した。


「リリ!? 危ないよ!?」


 エルネスト様は私をおぶるような体勢でベッドに顔面からダイブしていたけど、まぁこれも気のせいだろう。

 うつ伏せのエルネスト様を跨いで、ちょっと仰向けになってと言うと、何を企んでいるのか教えてと言われたが無視。両手を頭の上に置いてと言うと、かなり素直に動いてくれた。


「っ、つぎは?」


 なぜが期待に満ちあふれた目で見つめてくる。エルネスト様の襟元に外しかけていたクラヴァットがあったので、シュパッと引き抜いてエルネスト様の手首を縛った。固く縛ったら痛いかなと思って、ふんわりとだけど。


「くっ……」


 エルネスト様がなぜが頬を染めて喜んでいる。なぜだ。普通は恐怖で顔面蒼白になるものなんじゃないの?

 

「リリアーナ? 何がしたいんだい?」

「エルネスト様を押し倒してます」

「うん。それからっ?」


 エルネスト様の目が爛々としている。期待に満ち溢れた声と表情というか、なんかニヤけてる? 口の端がふにょふにょと動いて、笑顔を我慢しているような反応だった。


「浮気相手様が妊娠したそうなので」

「っ…………は?」

「私が妊娠すれば、変なのが湧かなくなりますよね?」「いや、待って…………う、浮気相手って………………誰の!?」


 エルネスト様が慌てふためいて、手首を縛っていたクラヴァットを引きちぎってしまった。比喩でなく、物理的に。布って引き裂けるものなんだ?

 ガシリと両方の二の腕を掴まれてしまった。そして、エルネスト様はノーモーションで上半身を起こした。腹筋の力ってすごいのね?


 エルネスト様の太ももの上に跨っていたので、反動でちょっと後ろに揺らいだものの、エルネスト様がしっかりと支えてくれた。


「エルネスト様、手首が……」


 クラヴァットを引きちぎったせいで、エルネスト様の手首が赤く擦れていた。ちょっと痛そう。

 

「そんなことより、浮気って誰が!?」

「エルネスト様が?」

「……なんでちょっと疑問形なんだ?」


 エルネスト様に半月前の出来事を話した。


「同僚と名乗る、金髪ゆるふわウェーブ、赤っぽい瞳で流し目がち。妖艶系の顔立ちで、唇はぽってりとしていた。身長は一七〇センチよりは少し低いくらい。細身だけど、お胸はたわわ。爪の先までしっかりと手入れしていて、平民とは思えない、妊娠六ヵ月くらいの女性が別れてくれと言いに屋敷に来ました」


 一息でエルネスト様に伝えると、顔面蒼白のまま固まってしまった。名前を呼んでも、顔の前で手を振っても反応がない。

 これはもしや黒? それだけはないと思っていたんだけど?

 まさかの反応に、ちょっとだけ泣きそうになってしまった。鼻の奥がヅンと痛んで視界が揺らぐ。


「な…………名前は分かるのかい?」

「……ジェーン・ドゥ派生の名前を使われていましたので、どこのどなたかは存じ上げませんが、第二部隊の腕章を付けて、騎士団の事務服を着用されていました」

「騎士団には、妊娠している者はいないはずだ。リリアーナの言ったような顔と体型の者はいる気がするが…………髪色も髪型も違うから別人だとは思う……」


 なるほど、と言いつつエルネスト様の胸元のボタンを外していたら、エルネスト様に手首をがっしりと掴まれて止められてしまった。

 今いいとこなんだから止めないで欲しい。

 エルネスト様の鍛え上げられた雄っぱいを見るのは、結構好きなのだ。


「なにをなさるんですか」

「こっちのセリフだが!?」

「え? とりあえず、押し倒そうかと思いまして?」


 そう言うと、エルネスト様の顔が爆発でもするのかというくらいに、一瞬で真っ赤になった。そして、両手で顔を覆うと「もう、可愛すぎる」とか「ここで襲ったら有耶無耶になるっ」とかなんとかもごもごと呟いていた。


 エルネスト様の琴線がどこにあるのか、いまいち分からないけれど、どうやら喜んでいるらしい。

 エルネスト様ってもしやマゾっ気があるのかしら?




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