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13/20

13:長期の任務

 



 ◇◇◇◇◇




 珍しく夕方前に仕事から戻られたエルネスト様。

 たまたま侍女と窓の外を眺めて話していたら、エルネスト様が馬を走らせこちらに向かって来ている姿が見えた。

 初めは近くを通るだけなのかもしれない、と過剰な期待をしないようにしつつも、窓に張り付いてジッと見ていたのだけれど、敷地に入ってこられたのを見て、鼓動がありえないほど早くなった。


 騎士服がカッコイイ。馬を走らせる姿、馬から降りる姿もカッコイイ。結婚してもこのときめきが落ち着くことはなく、とにかく毎日素敵に見えるのが不思議ではある。


 忘れ物か何かを取りに来ただけだと自分に言い聞かせていたが、エルネスト様が従僕に馬を預ける姿を見て、帰ってきたのだとようやく脳に届いた。

 こんな早い時間に帰ってくることなんてなくて、もしかして体調が悪いのかもと不安になる。

 慌てて部屋から飛び出してエントランスに向かうと、エルネスト様がふわりと微笑み「ただいま」と言いながら両腕を広げて迎えてくれた。


 ――――よかった!


 怪我や体調じゃなかったらしい。

 ポスリと広い腕の中に飛び込むと、柔らかなキスを頬にされて、天に昇るような気持ちだった。


「おかえりなさい!」


 平日の明るい内に、こうやって触れ合えることや『おかえり』と言えることが嬉しくて嬉しくて、エルネスト様の背中に腕を回すと、ありえないほどにきつく抱きしめられた。


 部屋で話したいことがあって、早く帰ってきたのだと言われた。仕事が早く終わったんじゃなかったんだと気分は一瞬で落ち込んだものの、それでもエルネスト様と同じ時間を過ごせること自体は嬉しい。




 主寝室に行きソファに横並びで座ると、エルネスト様が意を決したような表情になった。


「リリアーナ、実はね――――」


 来週から長期の任務で家を空けることになる、と言われた。

 長期って、どれくらいなの? 何の任務? 家を空けるってことは、帰ってこないという意味よね? どこに行くの? 危険はないの?

 聞きたいことが多すぎて、頭の中がパニックになりかけた。ちらりとエルネスト様の表情をみてハッとなる。眉が少し下がり、注意深く私の反応を伺っているようだった。

 慌てて表情を取り繕う。


「そうなのですね。任務の内容は聞いても?」

「ん……」


 来週から王太子殿下が約二ヵ月の外遊をするらしい。元々は副団長の隊が同行する予定だったが、そもそもの外遊の予定が後ろにズレたらしく、外遊期間と副隊長の奥さんの臨月が被ってしまったのだとか。副隊長はギリギリまで悩んだものの、エルネスト様に任せるようにしたとのことだった。


「私も今日知らされたんだ。結婚後半年は長期の任務はなしと伝えていたんだが……」


 ということは、エルネスト様は騎士団内でも本当に頼られている存在であり、大きな仕事を任せられる人物だと認識されているということだ。

 大抜擢なのだから、笑顔で送り出したいと思った。

 だって、エルネスト様の騎士になるという夢が叶い、いまも歩み続けているのだから。

 

 毎日、朝早くから夜遅くまで真剣に働かれているのを知っている。それなのに悲しい顔なんて出来ない。淋しいなんて言いたくない。


「エルネスト様が皆様に頼られる存在なのだと知れて、私は誇らしいです。危険は少なさそうでホッとしました」

「ん。ありがとう、リリアーナ」


 エルネスト様にギュッと抱きしめられて、初めはそっと触れるだけのキス。そして、少しずつ深くなって大人のキスに。


「リリ、いいかい?」

「っ――――聞かないでくださいっ」

「あはは! ん、愛してるよ」

「私もです」


 この日、私は大人の階段をまたちょっと登った。ベッドの中で抱き合い、キスをし、微笑み合う。なんというか夫婦という感じがして、ちょっと擽ったさもある。

 幸せってこういうことなんだろうなぁ。




 諸事情で遅くなった夕食を二人で食べつつ、外遊で訪れる国のことを聞いたり、こういう特産品があるけど欲しいものはないか? なんて話もした。


「エルネスト様が無事に戻って来られることが、一番のプレゼントです」

「リリ……! あぁっ、もう。可愛すぎてだめだ」


 エルネスト様が両手で顔を覆い天を仰いでいた。エルネスト様、よくこの仕草をしているけど、どういう意味があるのかな? こういうとき、口籠って教えてくれないのよね。耳がちょっと赤いから、恥ずかしがっているとか? いつもスマートなエルネスト様がまさかね?




 エルネスト様の出発の日。

 日も昇っていない朝方から出発の準備を始めていた。エルネスト様にはいつものように寝てていいからと言われたけど、絶対に見送りするんだと決めていた。

 

 玄関先に立ち、エルネスト様に抱きつく。両頬に手を添えると、クワッと目を見開かれた。何らかの意図を察したようにエルネスト様が少し屈んでくれた。

 背伸びをして、自らそっと唇を重ねる。

 心臓が爆発しそうだった。はしたないと思われたらどうしようという不安もあった。でもエルネスト様がグッと腰を抱いてきて、きつくきつく抱きしめてくれたから、喜んでくれたようだった。


「無事のお帰りを願っています」

「超特急で帰る」

「無理はしないでくださいね?」

「んっ」


 馬を走らせながら王城へと向かって行く、エルネスト様の後ろ姿を見つめる。


 ――――いってらっしゃい。




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