12:騎士団でのエルネスト
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ずっと大切に思っていた、愛しいリリアーナとの結婚。
初夜は翌朝になってしまったものの、明るい中での――――「おいっ!」
せっかく、可愛らしく恥じらうリリアーナを記憶の中から呼び出していたのに、副団長のムサい声で遮られてしまった。
私の可憐なリリアーナを、おっさんの声でかき消すのは罪に等しいと言ってもいいんじゃなかろうか?
「なぁ、聞いていたのか!?」
「いえ全く」
「ちゃんと聞けよ!」
結婚して一ヵ月とちょっと。リリアーナとの時間が全く取れていない。
休日だけでもしっかりと愛し合いたいのだが、本気で疲れ果てていることと、リリアーナの優しすぎる気遣いで、いつも昼過ぎまで寝てしまうという体たらくだ。
せめて昼からでもどこかに出かけようかと誘うものの、リリアーナはフルフルと首を振り、部屋でゆっくりしようと言う。少し頬を染めて、私といられるならどこでも幸せなのだとまで言ってくれる。
健気なリリアーナの優しさを無下にも出来ず、部屋でのんびりと過ごしていると、いつの間にか寝落ちしてしまっている。
リリアーナが自分の部屋にいる、それだけで完璧かつ幸せな空間になっていて、気が緩んでしまうのだ。
「でだな、来週から始まる王太子殿下の外遊、お前の隊が同行だからな?」
「は!?」
「睨むなよ」
王太子殿下の護衛は、基本的に副団長が率いる第一部隊が担っている。
私の第二部隊は王子殿下や王女殿下、また王族に連なる王位継承権持ちの方々の護衛部隊であって、両陛下と王太子殿下は担当外だ。
「だって、嫁さん臨月で生まれそうなんだよ」
「っ…………そう、でしょうけど…………」
そう言うなら私だって新婚だ。いま一番盛り上がって愛を深めたい時期なのに。
だが、新しい命の誕生に立ち会わせないという選択肢は、絶対にない。どちらが大切だとか比べようがないことは分かっている。飲み込むしかないと分かっている。
「っ……分かりました」
「すまんな」
副団長に、第一部隊と第二部隊の混合で護衛を組むように言われた。
第一部隊だけだと、私の指揮が上手く通らない可能性がある。ただ、王太子殿下の護衛をしなれているのは第一部隊だ。なので、混合部隊なのだと。
本来であれば、慣れている第一部隊のみで編成した方が殿下もこちらも安心だ。こればっかりは、私の力不足のせいなので、副団長に迷惑をかけることを謝ると、気にするなど背中を叩かれた。
「外遊先で嫁さんに綺麗な宝石や布でも買って帰ってこい。新婚なのに毎夜淋しい思いをさせるからな!」
「…………別に、私がいなくともリリアーナは爆睡してますよ」
初夜以降、そういった雰囲気にならず、ずっとお預けを食らっている。そういった鬱憤が溜まりに溜まりまくり、ありえないほど冷たい声が出てしまった。
「………………おいおい……お前、今日はもう帰れ」
「まだ昼ですし、食べているところですし、午後は書類整理が――――」
「飯は食っていいから、すぐ帰れ! 副団長命令だ!」
そんな横暴なと文句を言ったが、副団長は一切聞く耳を持たず。団長に確認を取ると「いいよー。書類は副団長にさせるから」とフワッと笑って言い放たれた。長がいいと言うなら、まぁいいか。
「はっ、え、や、待て」
「ではよろしくお願いいたします。間違いなどありましたら、明日以降で副団長にお戻しします」
「え、いや、やっぱなし! やっぱな――――」
副団長が何か騒いでいたが、私は愛しのリリアーナの下へ帰るべく、早歩きで騎士団舎を出た。
急な予定変更なので迎えの馬車はいない。厩舎に行き愛馬の鼻筋を撫でながらリリアーナにどう伝えようかと悩む。
愛馬を走らせ家に戻ると、リリアーナが驚き交じりの満面の笑みで二階から駆け下りて来てくれた。オレンジ色の髪をフワフワと揺らし、まるで妖精のようだった。
あぁ、出来ることなら今すぐ抱きかかえて主寝室に連れ込みたい。
脳内に溢れかえる妄想を押し留めて、リリアーナに微笑みかけ、頬にキスをする。
「ただいま」
「おかえりなさい!」
あぁ、今からリリアーナの表情を曇らせるのかと思うと、胃が痛い。きっと彼女はすぐに笑顔で取り繕う。だから嫌なんだ。幸せいっぱいの毎日にしてあげたいのに。
結婚後も我慢させて我慢させて……我慢続きの毎日にしてしまっている。非常に不甲斐ない。
「リリアーナ、実はね――――」
船に揺られ、大海原を眺めながら愛しい妻の笑顔を思い出す。
まだ日が明けきれていない早朝、頑張って起きてくれた。玄関先でリリアーナからの抱擁とキス。顔を真っ赤にさせながら「無事のお帰りを願っています」と控えめに『早く帰ってきてね』と言ってくれた。言葉にはしていなかったが、意訳するとそういうことだろう。
この任務後の休暇申請は既に出していて、ちゃんと受理されている。
戻ったら、いっぱいいっぱい愛し合おう。たくさん愛でて、たくさんの埋め合わせをして、リリアーナの心からの微笑みを見たい。
そのためにも、まずは目の前の仕事をやり通し、怪我なく戻らねばな。




