表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/20

11:新婚家庭とは?

 



 結婚式の翌日と翌々日は新婚休暇というものをエルネスト様が取っていた。

 翌日は諸事情のため、夕方くらいまでベッドの住人になっていたが、翌々日はエルネスト様とお部屋でのんびりイチャイチャして過ごせた。

 お義父様から聞いたエルネスト様の幼いころの話を、エルネスト様視点で聞こうとしたら、キスで唇を塞がれたのは……まぁ、いい思い出としておこうかな。



 

 結婚して三日後にはエルネスト様は騎士団への出仕だったのだけど、早朝から出られたため、お見送りも出来なかった。

 完全に爆睡していたことが悔やまれる。

 朝はしっかりと休んだので、夜の帰宅時はちゃんとお出迎えしようと思っていたのだけど、深夜になっても帰られなくて、結局寝落ちしてしまっていた。


 そして朝方、ゴソゴソと動く気配でどうにか目蓋を押し上げたものの、エルネスト様に「寝てていいから」と優しく囁かれ、頭を撫でられたことだけは覚えていた。

 そして起きてダイニングに向かうと、エルネスト様は既に出仕した後だった。


 お義母様からはいつものことだし、ほぼ毎日家にいるのかいないのか分からない程度の存在だ、気にしなくていい、と言われてしまった。


「騎士様って本当に大変なお仕事なんですね」 

「そうねぇ。まぁ、あの子が不器用なだけな気もするけどねぇ」


 エルネスト様が不器用? 何でもかんでもしっかりと卒なくこなす方というイメージしかないと話すと、お義母様がくすくすと笑いながら食後のお茶を飲んだ。その仕草があまりにもエルネスト様そっくりで少し淋しさを覚えたのは内緒。


「貴女にはそんな面しか見せないようにしているだけよ」


 夫婦になったのだから、エルネストの素の部分もこれからたくさん見るようになるだろう、そのときに落胆や失望しないでいてくれると嬉しい、と言われコクコクと頷いてエルネスト様に失望することは絶対にないと返事した。




 エルネスト様と結婚して一週間と少しが経ち、待ちに待ったエルネスト様のお休みの日。

 結婚式で休んだ分、一週間より長く働いていたのは、正直引いた。それは、騎士団のシステムにだけど。

 騎士様というのはそんなにも、体力も精神力も無尽蔵なのだろうかと。


 朝、いつもの時間に起きると、隣でエルネスト様がしっかりと眠っていた。深い眠りに落ちているエルネスト様を初めて見た。力の抜けた無防備そうな寝顔に、少しだけ幼さが垣間見えた。

 頭を撫でたり、抱きしめたり、キスしたい衝動に駆られたけど、お仕事で疲れ果てられているのだからとグッと我慢した。


 そっとベッドを抜け出して朝食の席に向かうと、お義父様に起こさなかったのかと、不思議そうに聞かれた。

 どうやら、休日のエルネスト様は叩き起こさないといつまでも寝ているのだとか。


「お仕事でお疲れのようでしたので。お部屋に朝食を運んでもいいのでしょうか?」

「もちろんだよ、気にかけてくれてありがとう」


 お義父様がこくりと頷いてお礼を言う姿に、エルネスト様の雰囲気を感じる。

 この一週間とちょっと、エルネスト様と全然会えなかったのに、なぜかすぐ側にいてくれている感覚があったのは、義両親がたくさん話し掛けてくれていたからだろうなと思った。

 でもやっぱり、本物のエルネスト様じゃないと得られない栄養素があって、今はそれが不足していると感じている。


 エルネスト様の朝食を持って部屋に戻ると、エルネスト様はまだ深い眠りに就いていた。

 起こさないようにテーブルに朝食のトレーを置いて、ソファとローテーブルのある場所に移動。エルネスト様が起きられるまで、本を読んで時間を潰すことにした。

 

 もうそろそろお昼に近いかも、というくらいの時間に、エルネスト様がゴソゴソと寝返りをうったり、伸びをしていた。

 そろそろ起きられるかなと思い、ベッドのサイドテーブルに近付いてピッチャーからグラスに水を注ぎ終えたときだった。


「ん……」

「おはようご――――キャッ!?」


 エルネスト様に腕をガシッと掴まれ、ベッドの中に引きずり込まれてしまった。水をこぼさなかったことを褒めてくれていいと思う。

 

「ん…………いいにおい、する」

「あ、はい! 朝食をお持ちしてますよ」

「ちがう、リリのにおい」


 エルネスト様にギュッと抱きしめられ、もしや!? とちょっと期待したのは内緒だ。エルネスト様からスウスウと柔らかな寝息が聞こえてきて、しょんぼりしたのも内緒。


 エルネスト様は、本当に疲れていたんだろう。お昼すぎてしばらくするまで、しっかりと眠られていた。

 三時過ぎたころにやっと目覚めたらしく、大慌てて謝られてしまった。


 今まで週一回のデートは、疲れているエルネストの休日を潰していたのだと知り、申し訳ない気持ちになった。

 婚約期間中、休日はデートがしたいなんてエルネスト様に甘えてしまったせいで、休みの日なのに休めていなかったはずだ。本当はしっかりと眠っていたかっただろうに。


 それから、何度かエルネスト様のお休みの日があった。エルネスト様は外出に誘ってくれるものの、毎晩遅くに帰ってくるのだから、休日くらいはゆっくりと休んでほしい。そうは思うものの、淋しさが溢れてしまう。

 休みの朝にだけ見ることの出来る、エルネスト様の無防備な寝顔だけが、心の支えのようになっていた。


 新婚家庭って、こんな感じなのだろうか?

 友人たちから聞いていた話とちょっと違いすぎるな、とは思ったものの、気付かない振りをしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ