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1:余命はあと半年!?

 



「あの子がまさか……」

「しかし、医師がそうだと言うんだ」

「あんなに元気なのに……半年後には死んでしまうなんて」


 ――――え?


 婚約者であるエルネスト様とのデートに向かっている途中だった。

 お父様の執務室の前をルンルンと通り過ぎようとしていたところで、両親の話し声が漏れ聞こえた。二人とも鼻声で、お母様は本気で泣いているっぽかった。


 漏れ聞こえる声があまりにも真剣すぎて、盗み聞きはいけないと分かってはいるものの、ついつい聞いてしまう。

 両親は何かの書類を見ながら何かの間違いじゃないのかとか、治療法がなぜないんだとか、死ぬ間際まで緩和ケアで穏やかに過ごせるようにも出来るとかの話をしていた。


 半年後には死ぬって、誰が?

 この家には健康な人しかいない。親族の誰かだろうか……と、両親が『子』と呼びそうな親族を記憶の中で探っていたら、お母様の「あの子はまだ一九歳なのよ!? 結婚もまだなのにっ……」という泣き叫ぶ声が廊下に響き渡った。


 ……この家にも、親族にも、一九歳で未婚の娘なんて、私しかいないじゃないの。どういうこと?


「アンナ、声を落とすんだ! リリアーナに聞かれたらどうする」


 お父様、しっかりと聞いてしまいましたよ、なんて気軽に言いながら執務室に入るなんてできないほどに、本気でヘビーな内容だった。

 しばらく二人の会話をぼーっと聞いていたものの、エルネスト様との待ち合わせに遅れてしまうと気付いて、両親には何も言えないままで慌てて家を出た。


 馬車の中で、さきほど聞いてしまった両親の会話を思い出しては、悶々と考え込む。話していたのはきっと私のことだ。

 死に至るほどの病気って、いったいなんなんだろうか。

 先月、酷い喉風邪を引いて医師の診察を受けた。ついでに健康診断もどうかと言われて、風邪が治ってから受けていたのだけれど。どうやらその診断結果に何か書いてあったようだった。

 半年後って年明けごろってことなのよね?

 私に残された時間は、それだけなの?


 お母様が嘆いていたように、私はまだ結婚していない。早い子だと一六歳には既に結婚していたりするのに。いまだにプロポーズをしてもらっていない。

 エルネスト様とは仲はいい。そもそも婚約者だし、毎週のようにデートもしている。だけどそれだけ。キスも何もなし。手を繋いだのさえ数回だけ。


 エルネスト様は騎士だから高潔なんだと思うことにしているものの、流石に奥手すぎるんじゃないかなんて友人たちに言われている。実は私もそう思っている。

 いまは結婚している友人たちだが、彼女たちがまだ未婚のころに聞いていた恋バナは、いつだって知らない世界かというほどに、大人の世界だったのだ。

 指を絡めて手を繋いだとか、深いキスに腰を抜かしたとか、二人きりのときに押し倒されたとか。赤面しながら前のめりで聞いていた。主に、羨ましくて。




 悶々とした気分のまま城下町の広場に到着してしまった。

 エルネスト様とはこの広場の噴水近くで待ち合わせをしている。この広場には馬車を置くスペースが沢山用意されているので、恋人たちが待ち合わせをする定番の場所となっている。

 もちろん、それ以外の目的でこの広場を利用する人は多い。散歩や出店での買いもの、友人たちとの待ち合わせなど、さまざまな目的で訪れている人で溢れている。

 

 馬車から下りて、約束の場所へと向かう。

 白いハイドランジアの花束を抱えたエルネスト様が、噴水の側に立っていた。

 サイドを刈り上げたサラサラな金色の髪を横に流して見た目は爽やかだけど、待ち合わせの際に遠くから見ていると、氷のように冷たい『近寄るなオーラ』が出ているのがよく分かる。

 気軽に話しかけてはいけないような、話しかけても睥睨されてしまうような雰囲気なのだ。


 エルネスト様は、人当たりがいい。それは騎士様をしているからというのもあるのだろうが、たぶん元来からの人の良さ、みたいなものを感じる。

 そのせいなのか、こういった恋人たちの待ち合わせ場所でも、積極的な女性に声をかけられてしまうことが多かった。そして、いつのころからかエルネスト様は氷のような『近寄るなオーラ』を出すようになっていた。

 でも、私を見つけた瞬間にエメラルドグリーンの瞳を柔らかく細め、春が訪れたような微笑みで迎えてくれる。

 こういうとき、私って愛されているんだなぁと実感する。


「今日は植物園に行くと約束していたのに、つい花束を持ってきちゃったよ」

「ありがとうございます」


 ハイドランジアを受け取り、ゆっくりと息を吸い込む。胸いっぱいにハイドランジア特有の瑞々しさとエルネスト様からの愛が広がっていく。手荷物になるからと言われて馬車に預けていたら、エルネスト様がそっと頭を撫でてくれた。


「なくなりはしないから、そんな悲しい顔をしないでくれ」

「っ、はい!」


 さっき聞いてしまった言葉で頭の中がどんよりとしていた。それが表情に出ていたらしい。どうやら花束をすぐに手放さなきゃいけないことを悲しんでいると勘違いしたらしい。

 エルネスト様に心配かけてはいけないと、急いで笑顔を貼り付けた。


 


妄想が爆発したので、長編化というか、続編にお付き合いください!


ブクマや評価などしていただけますと、作者の励みになりますので、ぜひっ!!!!!

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