初めての恋
とても大きい手に頭を鷲掴みされ、撫でられた。
あまりのことに呆けていると、クラスメイトたちの視線が集まっていた。
先ほどまでの空気は何処かに消え去った。
先生は気づいていない。
多分、これからも先生が怒った時だけ反省したふりをするのだろう。
真宵ががっかりしていると、その中に優しい眼差しが隠れていたことに気付く。
やはりみいこは自分のことを心配してくれていたのだ。
良い友達を持ったと感謝した。
それからあとは何事もなく過ごし、家路に着いた。
誤ったことは起きなかったが、視線は痛かった。
まるで呪詛をかけられているかのようだった。
明日から通うことになる。
今日みたいに嫌な思いをするかもしれない。
また先生にかばってもらえるだろうか。
いや、他人をあてにしてはならない。
自分のことは自分で守るべきだ。
他人に迷惑をかけてはならない。
そう自分に言い聞かせた。
秋田さんに会いたい、と思った。
「秋田さん……私、もう無理です……」
心で思っているのとは正反対に、弱音が口をついて漏れてくる。
自立しなければならないとわかっているのに、どうしてもあの人の優しい声で慰めて欲しい。
自分の心の拠り所。
これは親愛の情なのか、それとも……。
段々と芽生えてきた恋心に、真宵は次第に気づくようになっていった。
だがその相手は秋田ではない。
先生だった。
自分でも驚いた。
今までずっと懇意にしてくれていた秋田ではなく、最近優しくしてくれた熱血な先生だ。
どちらかというと苦手なタイプだったのだが、知らぬ間に心惹かれていた。
自分はああいう男らしい人が好きなのだということを自覚した。
秋田の優しさには甘えていただけなのかもしれない。
そのことを秋田に相談した。
それが秋田を悲しませることだとも知らずに。
「……真宵ちゃん、はっきり言わせてもらうけど……彼はやめといた方が良い。彼はきみが思うような人間ではないから」
「……どうしてそんなことが言えるんですか」
「それはニュ……いや、おれの勘、だけど。今時教師にそんな人物はいないと思う。いじめと向き合うのは難しい。特に中学生は一番多感な時期だからね。中には怒る教師もいるだろうけれど、生徒はそれを聞かない。ねえ、真宵ちゃん、おかしいと思わないか?」
「おかしいって……まさか、疑ってるんですか、先生のこと」
「……そういうことになるね。でも、おれはね、きみのことを思って……」
「大丈夫です。先生は信用できる人間ですから。心理カウンセリングやっているからって、秋田さんの勘が必ずしも当たるわけないと思います」
自分の思いを否定されて、思わず刺々しい口調で言ってしまう。
後悔は先に立たない。
「そっか……そうだよね、ごめん。お節介だったかな……」
真宵が声を掛けようとする前に、秋田は淋しそうな背中を晒して、どこかへ行ってしまった。
相談したのは自分なのに、結果的に彼の意見を聞かなかった。
自分は最低だ。