変わらない友達
そろそろ自立する時がやってきた。
社会に出るにはもう十分なくらい、心の傷も癒えてきたからだ。
自らの足で学校に行き、ここ以外の人と関わらなければならない。
正直、真宵はまだ怖いと思っている。
いつまたこの心が壊れてもおかしくはないし、不安定な状態に陥らないとも限らない。
色々な人に迷惑をかけて、支えてもらって、今ここに立っている。
――以前通っていた学校の校門前に。
足が竦む。体が強張る。視線が痛い。
不登校だった人物がいきなり現れたとなると、周囲の注目の的となるのは当然のことだ。
誰もが怪訝そうな顔で、無言で問い詰めてくる。
何故来たと。
もう来なくて良いのにと思われているに違いない。
友達とは別れたままで、この二年、一切口を聞けなかった。
今更声を掛けたところで以前のように仲良くしてくれるわけがない。
何も言わずに去って、冷たい奴だと思われているのだと、そう思っていた。
止めようのない不安を掻き消すように、友達が元気な笑顔で駆け寄ってきた。
「……真宵? 真宵だよね?」
「……え、う、うん」
顔を見るなり、いきなり抱き付いてきたので、びっくりして頷くことしかできなかった。
「良かったあ……連絡くれないから心配したんだよ……」
「ごめん……」
自分の体中に友達の体温が伝わってきて暖かかった。
真宵はここ最近、人肌の温もりをいやというほど味わった。
変わらぬ友人の優しさに、思わず顔が綻んでしまう。
「学校に来られるようになった?」
「うん、今日から通うつもり」
「そっか。じゃあ教室まで案内するよ」
「……ありがと、みいこ」
色々な気持ちをいっぱい込めて礼を言った。
みいこはただ笑っていた。
教室へ行く途中、みいこは何も聞かなかった。
その代わり、真宵がいなくなってからのクラスのこと、進路のこと、先生が変わったことを話してくれた。
みいこに気を遣わせていることが胸に痞えて、どうしようもなく心苦しい。
友達ならば自分から話すべきだ。
大丈夫だ、女の子に話せたのだから。
きっと今回も上手くいく。
「……あのさ、みいこ」
「ん、何?」
「私が学校をずっと休んでた理由はね……」
「待って。言わないで」
みいこは真宵の口元に手を覆い被せてきた。
真宵はみいこの挙動に何でと口の中で呟く。
「聞きたくないの。そういう話は」
解放されると喘ぐように空気を吸い込み、弱々しい声で聞いた。
あるいは、涙声で。
「どうして……」