過去を打ち明けて、一歩前進
数か月が過ぎた。
養成施設で男性と触れ合う機会も多くなり、あれから少しずつ、男性に対する恐怖心を克服していった。
今では、男性相手に挨拶程度は交わせるようになった。
自分から話をすることはまだできないが、このままいけば順調に男性恐怖症も治るだろう。
「まよいちゃん、まよいちゃんっていくつ?」
真宵を慕っている小さな女の子が聞いた。
「十四だよ」
「え……じゃあ、ガッコーは? ガッコーいかなくていいの? ろくさいになったら、ガッコーってところにいくんだって、みんながいってたよー」
「……私はその、昔は学校行ってたんだ」
「え? ホント? じゃあどうしていかなくなったの?」
何も知らない女の子は、好奇心の塊のような瞳で真宵を見つめてくる。
ここにいる時点でとんでもない経験をしたのかもしれないが、こんな年端もいかない女の子にそんなことを教えても良いのだろうか。
「大丈夫だよ。この子は強い子だから」
「秋田さん」
真宵にずっと付き添ってくれていた心理カウンセリングの人だ。
真宵が段々と話ができるようになってきたので、今は他の人に付き添っているそうだ。
四六時中一緒というわけでもないので、少しだけだが、こうしてまた会うこともできる。
「やあ、久しぶり。真宵ちゃん、話しても大丈夫だよ。この子に親はいないけれど、ここの人たちと触れ合っているから。学校できちんとした教育を受けているのと同じさ」
「そう……ですか、なら」
真宵は女の子に過去を打ち明けた。
女の子にもわかるように言葉を探しつつ、苦しくて涙が出た。
何度も息が詰まった。
そんな自分を後押しするように、秋田は背中をさすってくれた。
女の子は黙って聞いていた。
「まよいちゃん……そんなことがあったんだね。とても、つらいこと」
女の子は泣くのを我慢しているようだった。
話している真宵の方が辛い思いをしていることがわかっているからだ、と思う。
女の子が自分に共感してくれることに真宵は感動した。
傷の舐め合いじゃない、本当の心の在り処が見つかったような気がした。
気が済むまで泣いた。
嬉しくて堪らなかった。
初めて自分が生きていて良かったと思った。
秋田が良かったねと呟いて、肩を優しく叩いてくれた。