本当の気持ち
秋田の暗示のような独白を聞き、戸惑う真宵。
何だか気持ちを押し殺したようにも取れる。
秋田は、本当は自分のことをどう思っているのだろうか。
答えを求めるかのように、無意識に彼の服を掴んでいた。
思わず顔が少し赤くなる。
「行かなきゃ……」
どこへ、と聞く前に秋田はベッドから起き上がり、真宵の頭を撫でた。
「大丈夫。ちゃんと戻ってくるから。心配しないで」
あの時と同じように微笑んでいる。
この手を離さなければ、皆が幸せになれる。
それとも、もう会えないとわかっていて、その手を離したのかもしれない。
彼の考えていることはよくわからなかったが、その目の本気を感じ取ったから。
「……ありがとう」
お礼を言われるようなことは何一つしていない。
秋田はそれきり何も言わず、真宵に一目もくれず、素通りしていった。
真宵は悔しくて悲しくて歯噛みした。
「秋田さんっ! 秋田さん、秋田さん! 行かないでください! 行かないで……!」
自分の我儘だというのはわかっている。
それで彼を傷つけていることも。
それでも、窓から出て行こうとする病み上がりの秋田を止めずにはいられなかった。
「私、まだあの日のこと、秋田さんに謝れていないのに……!」
行って欲しくない。
先生のことも好きだが、秋田のことはもっと好きだ。
それを今日気づいたというのに。
本当の気持ちにやっと素直になれたのに。
「秋田さんのことが、好きなんです……」
自分だけが幸せになろうなんて、本当に嫌な女だ。
だが、走り出した言葉は止むことを知らない。
口をついて出た時から、深淵に封印されていた言葉が滝のように流れ出す。
「私はバカです。今の今まで自分の本当の気持ちに気づけなくて……ごめんなさい、ごめんなさい……! 秋田さんはこんなにも私のことを想ってくれていたのに……私はずっとそれを無視し続けていた……甘えていたんです。最低です。人間の屑です。死ねば良いのにって思います。そう言ってまた秋田さんや私を思ってくれている人を傷つける……私、恋なんてしなければ良かった。私が甘えなかったら、こんなことにならなかったのに……」
言葉の洪水に呑まれ、目からは大量の懺悔の滴が吐き出される。
「って思ってましたが……今は違います。空回りしてばかりでしたが……好きになってくれて……ありがとうございました……私は、生涯、あなたのことを愛し続けます……」
秋田は真宵の愛を背に受けて、颯爽と消えていった。
真宵はその背中を見送った。
見えなくなるまで見送った。
涙を拭いて、先生の様子を見に行った。
自分の心にけじめを付けるために。
「先生。良いですか……お話したいことがあります……」
起きてはいるようだが、返事はなかった。
何か思うところがあるのだろう。
「何があったのか……教えて欲しいんですが……」
「……気付いていたのか? 俺のこと」