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作者: 滝沢洋一

凛とした静けさの中、足音だけが響いていた。


誰一人としていないはずの室内に、完全武装した存在が扉の前に立ちはだかった。


「開けろ」


「御方様に会いに?」


「用事がある、それだけだ」


「・・・・・、改めてご身分を拝見いたします」






「また随分とまあ、無理をしたようですね」


「そっちこそ」


にっこりと笑って甘茶の入った器を持って話しかける相手に対して、此方はげんなりとした様子で答えた。


「毎度思うが・・・よく飲めるな、それ。


口の中が甘すぎて悶絶する」


「美味しいですよ、あなたも如何ですか?」


「絶対に飲まない!誰が飲むか!!」


叫ぶと「水!」と外に向かって声を上げた。


「あれ、飲まないのですか・・・・美味しいのですけどねぇ」


「そんな激甘砂糖水なんて誰が飲むか!」


美味しそうにぐいっと飲む相手に対して、本当に嫌そうな顔で応酬した。


「それで?ちゃんと承認されるのか、あれ」


「あなたが眼前にて承認した者達のことを誰が拒絶すると思うのですか?


ましてや祝い事であれば尚のことではありませんか」


「まあそうだろうけど・・・・嫌がらせする奴はいるからな」


「まあそんな方はイワナガ様くらいでしょうねぇ・・・・あなたに対して面と向かって嫌がらせをされるのは」


途端に殺気と殺意が室内を包み込んだ。


触れれば気が狂うほどの怒りと、憎悪がそこには滲んでいた。


「・・・もう一度その名を出せしてみろ、如何に観音と言えども斬るぞ」


「おお、怖い」


にこりと笑うと、表情を隠すためなのか、茶器に入っているものを飲み干した。


「それはそうと・・・殿、いい加減身なりに気遣っては如何ですか?」


「・・・・はあ?」


毒気を抜かれたかのように声を上げた。


「いい歳をしたあなたですから、身分相応のものもいるでしょう?」


「あのなぁ・・・・」


「身なりを整えて、身分に相応しい振る舞いをするのも大事ですよ。


あなたときたら仕事が忙しい、面倒くさいとだらしない恰好ばかりで・・・・」


「それについてはまた今度!!」


言うと、脱兎の如くその場から離れようとした。


「他人にばかり見栄えの良いものを与えて、己は身分不相応のものを身に付けてはなりませんよ?


人間は身分相応のものを身に付けていて、初めて己と相対するに相応しいのか否かを決めるものですからね」


「そうは言ってもなぁ!!


仕事で汚れても良いものが一番早いんだよ!!」


逃げるかのように部屋を飛び出した。






(まったくもう・・・・観音の奴ときたら・・・)


「おう、随分と悩んでいるようだが、何事だ」


「三将様・・・」


熊のようなガッチリした体格に、茶目っ気たっぷりの笑顔で声をかけてきた。


「なんだなんだ、また衣服のことで言われたのか?」


「・・・・・」


「どうやらそのようだな、流石にもう少し考えた方がいいと思うぞ」


「・・・・お前に言われたくない」


子供のように頬を膨らましながら、憮然と答えた。


「はははっ!まあそういうところがお前らしいのだけどな!!


御方様に何か用か?」


何度もその体格に相応しい力で肩を叩きながら問い質した。


「痛いなぁ・・・承認されているのか、確認しようと思って」


「なんだぁ?まだそんなことを言っているのか・・・」


呆れたように声を上げた。


「お前が立ち会っているのに文句を言うのはイワナガくらい・・・・っと、悪い」


殺意に塗りこめられた怒りの眼光を目にして、詫びるように手を上げた。


「お前にとっては禁忌だったな、すまない」


「・・・・わかればよろしい」


腰に佩いている剣から、暗褐色の輝きが漏れ出ていた。


その輝きは漆黒の黒、すべてを飲み込み塗りつぶし、どんな存在に対しても等しく死を与える輝きだった。


「執務室にいる筈だ、護衛将にその刃を向けるなよ?」


「・・・わかっている」


すれ違いざまになだめるように肩を叩くと、


「あいつもなぁ、もう少し丸くなると良いのだが・・・・」


誰に聞かせるでもなく呟いた。






凛とした静けさの中、足音だけが響いていた。


誰一人としていないはずの室内に、完全武装した存在が扉の前に立ちはだかった。


「開けろ」


「御方様に会いに?」


「用事がある、それだけだ」


「・・・・・、改めてご身分を拝見いたします」


身分を示す剣を入念に確認すると、


「畏まりました・・・・・様、お入りください」


両開きの扉を開けた。


「助かる」


礼を言って入ると、ずかずかと大股で机の前へと歩いた。


「御方様、少し話があります」


「・・・・何の用ですか」


来訪の要件を既に察知しているのか、困ったような、怒ったような顔を上げて対応した。


「あの者達の祝辞、参列して良いか?」


「・・・・・何を言っているのです」


心底驚いたように何度も瞬きした。


「明けの明星と暗褐色を持って参列したらまずいでしょう」


「・・・・それは確かに」


にこりと笑って、


「そうは行ってもあなたが承認したものですからね、駄目とは誰も言えないでしょう」


「言わせませんよ」


言うことを聞かない子供を諭すかのように話した。


「もう一振りの剣を抜かなければ困りませんよ」


「・・・・か、まあ確かに」


困ったように呟いた。


「馬鹿どもが何かしたその時には・・・・」


「あなたがいるのに何かするのは余程の者でしょう、それこそあの者達くらいというもの」


「まあ、若気の至りで随分と暴れましたからね・・・・」


「そういうわけで良いですよ、ただし邪魔をしないように。


人間の婚儀にあなたが参列することは許しません」


「流石に大問題ですよ、・・・・・が参列するなんて」

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