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 にんまり笑ってルーファスはダニエルとフレデリーカに近づくと大きな声で言った。


「なんと素晴らしい!本物の聖女様は一日パン一つで街中の掃除までしてくださるとは!ああ、もちろん清貧な聖女様ですからお金をとるなんてことはなさらないでしょう!もちろんダニエル殿下もそれに協力なさるのでしょう?なんて言ったって深い絆で結ばれたお二人ですからね!」


 ルーファスの言葉にダニエルは顔を引きつらせる。


「ど、どうして私がそんなことを……」


「あれ?フレデリーカ・ティリット侯爵令嬢は本物の聖女様なんですよね?嘘ですか?第一王子が公の場で嘘をついたと……?」


 ルーファスが鋭い目でねめつけるとダニエルは「う、嘘ではない!」と叫んだ。


「なあんだ、では何も問題ありませんね!お二人で街の掃除と各領地へのお祈り、頑張ってくださいね!」


 そこでルーファスは観衆の方を向き、声高々に叫んだ。


「皆さま!本物の聖女様と、深い愛で結ばれたダニエル殿下は無償で毎日街中の清掃をしてくださるそうです!!なんと素晴らしいことでしょう!!もちろん教会の方々もご協力くださることでしょう。清貧な本物の聖女様ですから高い寄付金をとるなんてこともなさらないでしょう。聖女様が清貧なのですから教会の方々もそれに準ずることでしょう。なんと!なんと素晴らしい本物の聖女様なのでしょう!!はい、皆さま拍手~~!!」 


 ルーファスの声に合わせて盛大な拍手が巻き起こった。


 純粋に感動して拍手をしている者もあれば裏を読み自分が、自分の領地がどう立ち回れば良いかを考えながら拍手をしている者もいる。

 それによって彼らの命運は分かれていくのだろう。


 鳴り止まぬ拍手の中ルーファスはアミーリアを振り返った。


 アミーリアは感動の涙を浮かべ一心不乱に拍手をしている。


「聖女様、いえ、アミーリア様、辺境に帰りましょう」


「えっ!?帰ってもいいの?」


 目を丸くするアミーリアの手を取って早足に会場を後にしながらルーファスは言った。


「いいんですよ。アミーリア様は聖女じゃないんですからどこへ行こうと自由です。ご両親の元に帰りましょう」


「やったぁ――!!」


 本日二回目、アミーリアは両手のこぶしを突き上げて飛び跳ねると一目散に駆け出したのだった。









 ルーファスはアミーリアを馬に同乗させ昼夜問わず駆け通しに駆けてたった二日間でクルーズ辺境伯領にたどり着いた。追手がかかることを恐れたせいである。


 追手は二つ。一つ目はダニエルやボイデル司教の手の者だ。

 彼らはもちろん本物の聖女がアミーリアだと知っている。彼らの計画ではフレデリーカを本物の聖女として発表、ダニエルはフレデリーカを婚約者に挿げ替える。しかしフレデリーカに聖女の力が無ければ早晩彼らの計画は破綻する。だからアミーリアを断罪し、捕え、罰として聖女の従者として働けと言いくるめて引き続き聖女の仕事をさせるつもりでいた。名声はフレデリーカのもの。そしてアミーリアは搾取され続けるのだ。ダニエルは愛するフレデリーカと結婚できるうえ、聖女の夫として王太子に一歩近づく。そしてボイデル司教は大司教になるための後ろ盾を得るというものだった。

 その計画にはアミーリアが欠かせない。だからルーファスは皆に讃えられ彼らが拍手に包まれているうちに急ぎ王宮を出たのだ。夜会後に密かに追手がかかることを恐れて最短で辺境伯領に戻った。


 二つ目は国王の手の者だ。

 国王からの追手は直ぐにかかる恐れは少ないと思われた。国王は宰相を伴って外遊中だ。しかし宰相の息子のアーノルド・セイヤーズ侯爵令息がどう出てくるかわからなかった。彼はダニエル達の断罪に協力してくれた。結局断罪はしなかったが彼がアミーリアを王家に縛り付けたいと考えていればアミーリアを引き戻すべく追手を差し向けてくるだろう。国王はダニエルとの婚約によって聖女を王家に縛り付けようとした。フレデリーカが聖女だと信じてくれればよいがそんなに簡単に騙されてはくれないだろう。すぐの追手はかからずとも後日王命でアミーリアを呼び出すことは十分考えられる。これについては父である辺境伯と急ぎ相談する必要があるとルーファスは考えていた。


 王命を断ることは辺境伯とて難しい。しかしルーファスは必ず父が、兄がアミーリアを守ってくれると信じていた。

 ルーファスが聖騎士として中央教会に潜り込んで二年。クルーズ辺境伯家の人々はルーファスの報告によってアミーリアの現状を知り、胸を痛め、情報を集めたり手立てを考えたりルーファスのバックアップをしてくれていた。アミーリアもその家族も辺境伯領の村の出身だ。辺境では領主と領民の距離が近い。クルーズ辺境伯家は領民を愛し、領民に慕われる一族であった。

 

 




 夜会から二日後の夜、ヘロヘロになって領主の館にたどり着いたルーファスとアミーリアを見てクルーズ辺境伯たちは驚きの声を上げた。


 ルーファスはまずアミーリアを客間で休ませるように頼み、自身は父のクルーズ辺境伯と兄のバートランドに事情を説明した。


「でかした!」


 辺境伯はルーファスの背中をバーンと叩いた。


「追手は任せとけ!」


 バートランドは剣を腰に帯びると部屋から出ていこうとする。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!ダニエル殿下やボイデル司教の追手は秘密裏に来るだろうからやっつけてしまっても問題ないが王宮からの正式な使者が来たら切り殺したら不味いだろう」


「大丈夫だ、うまく隠す!」


 引き止めようとするルーファスに強引な解決策を告げてバートランドは再び部屋から出ようとする。

 それを追おうとして身体が泳いだ。体力が限界だったのだ。


「ルーファス、事情はわかった。まずはゆっくり寝ろ」


「そうだ俺たちに任せとけ!」


 父と兄の言葉に「脳筋に任せておけない……」と呟いたがそれは夢の中だ。ルーファスは辺境伯に担がれてベッドに放り込まれた。








 次の日、ぐっすり寝て早朝目覚めたルーファスは早速辺境伯と今後の相談をすることにした。

 早朝にもかかわらず辺境伯は既に起きていたので朝食を摂りながら話をしようということでダイニングに向かった。


「父上、俺たちがクルーズ辺境伯領にたどり着いたことはあちらにはすぐに知られると思います」


 朝食をモリモリ食べながらルーファスが言うと辺境伯が頷いた。


「ああ、アミーリアちゃんの家族もこの領にいることだしな。アミーリアちゃんの家族はここで保護することにした。もう使いは出している。お前の正体については?」


「宰相の息子のアーノルドは知っています。ダニエル殿下にばらすかどうかはわかりませんが国王陛下には知られるでしょう」


 それに王宮からここまでこっそり逃げてきたわけではない。とにかく早く辺境伯領にたどり着くことを最優先にしたのだ。目撃証言を追っていけばルーファスとアミーリアがクルーズ辺境伯領に逃げ込んだことはすぐにわかるだろう。


 ドカドカと靴音がしてバートランドがダイニングに入ってくるとどっかりと椅子に腰を下ろした。


「俺にも朝飯を頼む。できれば分厚いステーキを焼いてくれ!」


 侍従に頼むとルーファスの方を向いてニカッと笑った。


「ネズミがひい……ふう……十人程か。ふん縛って牢に放り込んできた」


「兄上……ありがとうございます」


 ルーファスは頭を下げた。


「なんの可愛い弟と未来の義妹の為だ、気にすることは無い」


「バートランド、朝食を摂る前に着替えてきたらどうだ?私たちは気にしないが……」


 バートランドの服のそこここにべったりとついているのは血の跡だ。もちろんバートランドには怪我一つない。

 辺境伯の言葉にバートランドは自身の服を見下ろした。


「ふむ……それもそうだな。未来の義妹に怖がられる訳にはいかない」


「兄上!義妹とは……」


 何か誤解がある……ルーファスは焦ってバートランドに問いただそうとした。

 バートランドがダイニングを出ようとした時に行く手を遮って部屋に入ってきたのはシェリル辺境伯夫人。つまりルーファスの母だ。


「ルーファス、今日アミーリアちゃんと結婚しなさい!」


 朝の挨拶もすっ飛ばしてのシェリル辺境伯夫人の第一声にルーファスは目を剥いた。



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