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十話以内で終わる予定です。よろしくお願いします。


「ふわわわ」


 アミーリアは辺りを見回して気の抜けた声を上げた。

 だってどこもかしこもキラキラしてピカピカしてちかちかしていたからだ。なんなら今アミーリアが歩いているこの廊下だってピカピカしている。アミーリアの使い古した汚れた靴で歩くのが申し訳ないほどだった。


「アミーリア様、ちゃんと前を向いてください。コケますよ」


 言われた傍から金ぴかで何やら高そうな壺にぶつかりそうになってぐいとアミーリアは引っ張られた。


「あ、ありがとうルーク」


 勢いあまってルークに凭れ掛かる格好になってしまったことに顔を赤らめてアミーリアは素早く体勢を立て直した。


「ル、ルーク、私こんな凄いところ初めて来たわ。ここは何?」


「ここは王宮のホールですよ聖女アミーリア様。今夜は王宮の夜会なんです」


 申し訳なさそうな声でルークが言う。


 王宮は知っている。昔聖女になりたての時に一度来たことがある、とアミーリアは思い出した。国王様とか偉い人達に挨拶した覚えがある。挨拶のほかにもなんか色々な手続き?とかしてサインをさせられた。

 いや、その時アミーリアは字が書けなかったから親指にインクを塗られて紙に押し付けただけだ。『おじいちゃん』が怒ったような顔をしていたけどアミーリアはよくわからなかった。


「王宮は一度来たことがあるけどこんなにピカピカしていなかったわ。それにこんなに人がいなかったし」


 ホールの中には沢山の人がいた。どの人もこの場所と同じくピカピカのキラキラで変な目でアミーリアを見ていた。


「ねえ、私ここにきて良かったの?」


 アミーリアは自分の服を引っ張って少しでも皺を伸ばしながらルークに問いかける。

 物凄く場違いな気がする。アミーリアの服は聖女を表す白いストンとした服だ。申し訳程度に刺繍が施されているが着古して大分よれている。それでもこれと同じ服を二着しかアミーリアは持っていなかったので仕方がない。


「ボイデル司教の御命令です。ほらちゃんと招待状もありますよ。ダニエル殿下のご招待ですから」


 怒りを呑み込んだような声音でルークが言うのでアミーリアは何か自分が粗相をしたと思いルークに謝った。アミーリアの謝罪にルークははっと目を見開き無理に笑顔を作るとアミーリアに語り掛けた。


「アミーリア様は謝罪するようなことは何もされていませんよ。それよりあちらに行きましょう。美味しそうな食べ物が沢山あります」


 笑顔でアミーリアを促す。その後に呟いた言葉は小さすぎてアミーリアは聞き取れなかった。


「アミーリア様すみません辛い思いをさせて……でももう少し……やっと証拠も証言もそろいました。俺があなたを救い出しますから……」








 ごっくんとアミーリアは唾を飲み込んだ。

 目の前には見たこともないご馳走の数々。大きなお肉にいい匂いのするソースがかかったもの、パリパリの香ばしそうな焦げ目の付いたお肉、色とりどりの野菜の餡がかかった大きなお魚、小さく切った瑞々しいお野菜をお魚の切り身で巻いてこれも何やら美味しそうなソースがかかっている。そのほかにも見たこともないお料理が所狭しと並んでいる。


「こ、こ、これ、食べてもいいのかしら」


 ルークは微笑んでアミーリアを椅子に座らせると料理を皿にとってアミーリアに差しだした。


「~~~!!!」


 一口食べたアミーリアは言葉にならない声を上げて夢中で料理を平らげた。

 二皿目を平らげたところでアミーリアはハッと顔を上げる。


「ごめんなさい!私自分ばっかり。ルークも食べたいよね?」


「いえ、俺はいりません。それより今度はあちらにあるスイーツでも取ってきましょう」


 ルークはそんなことを言うけれどいつもルークはアミーリアに色々な食べ物を持ってきてくれるのだ。ルークのおかげでいつもひもじかったアミーリアはかなり助かっている。ここはこんなにお料理が沢山あるのだからルークも食べて欲しい。そう思いながらアミーリアはルークも一緒に食べましょうと促した時だった。



「アミーリア!!偽聖女アミーリア!!出てこい!!!」


 ホールに大声が響き渡った。




 ん?私の事?

 アミーリアは首をかしげてルークを見た。


「チッ」


 ルークは小さく舌打ちをするとアミーリアを優しく促した。


「アミーリア様参りましょう」




 声のする方に歩いていく。アミーリアとルークはホールの一番前の方まで出て来た。

 皆がいるこの場所より一段高い場所に、皆よりももっと金ぴかな男女が一組いた。


 その金ぴかな男の人はアミーリアに向かって指を突き付けた。


「偽聖女アミーリア!お前が大司教を唆し聖女の名を騙った極悪人であることは調べがついている!よって第一王子ダニエル・ルー・クラフトの名において聖女の身分を剥奪し、また、婚約をここに破棄する!!」


 アミーリアはこてんと首を傾けた。

 金ぴかの男の人が言っている意味がよくわからなかったからだ。


 アミーリアの仕草に苛立ったダニエルはもう一度指を突き付け声を張り上げた。


「聞こえなかったのか!!婚約破棄すると言っているんだ!!」


「あの……」


 躊躇いがちにアミーリアが口を開く。


「コンヤクハキって何ですか?」


 その言葉を聞いてアミーリアの後ろにいたルークは吹き出しそうになった。アミーリアが傷つくことを思って胸が痛かったがアミーリアは婚約破棄という言葉の意味さえ知らなかったようだ。


「婚約破棄っていうのは婚約を取りやめるということです。婚約は知っていますか?」


 後ろからルークが囁くとアミーリアは頷いた。


「それくらい知っているわ。結婚する約束の事でしょう?え?婚約?誰と誰が?」


 そうしてアミーリアは目の前の金ぴかな男の人に訊ねた。


「あの~私、知らないうちに誰かと婚約?していたんですか?」


 アミーリアのその言葉に周りで事の成り行きを見守っていた貴族たちは騒めいた。

 彼らはアミーリアが婚約者であるダニエルの威光を笠に着て傍若無人に振る舞っているとの噂を幾度となく耳にしていたし、アミーリアが侯爵令嬢であるフレデリーカを虐げるのでダニエルが庇っているとの噂も何度も耳にしていた。


「貴様っ!しらを切るつもりかっ!そんなことをしても無駄だ!ここで婚約は破棄するんだからなっ!」


 周囲のざわめきで己の不利を悟ったダニエルが大声を上げる。それに寄り添ったフレデリーカは「酷いですわアミーリア様!」とウソ泣きをしてダニエルの腕にぶら下がった。


「あ、い、いえ、あの、私はコンヤクハキ?してもぜんぜん構いません!えっと……それで私はどなたと婚約していたんでしょう?その人を呼んでもらえますか?」


 目の前で泣かれたアミーリアは焦って急いでコンヤクハキなるものをしようと決意した。日々のお勤めで忙しく全く気が付かなかったが自分は婚約なるものをしていたらしい。よくわからないが目の前の金ぴかな女の人が泣いているのであればコンヤクハキをした方が良いだろう。


 アミーリアの言葉に周りの観衆はまた騒めく。


「お!お前と婚約していたのはこの私だっ!お前は私の婚約者であることを笠に着て贅沢の限りを尽くしあまつさえフレデリーカを苛めていたであろう!言い逃れしても無駄だっ!」


 ダニエルの言葉にアミーリアは心底驚いた。


「え?初対面ですよね?」


 アミーリアは知らないうちに婚約したのは少なくとも顔見知りの誰かだろうと思っていたのだ。

 聖女のお勤めとして水害に見舞われた領地に出向いて復興のお祈りをした。凶作に見舞われた領地に赴いて豊穣のお祈りもした。疫病に見舞われた領地に赴いて快癒のお祈りもした。その度に沢山の感謝の言葉をいただいた。それに一々頷いていたのでそのどれかが婚約の承諾だったのかもしれないと思っていたのだ。


「違うっ!五年前に会ったことがある。初対面ではないっ!」


 五年前……五年前……五年前と言えばアミーリアが聖女になったころだ。


「あっ!思い出した!」


 聖女だと言われ辺境から王都に連れてこられた時に一度王宮に挨拶に来たことがある。その時にこの金ぴかな男の人もいた気がする。その時は金ぴかで偉そうな子供だった。

『おじいちゃん』が物凄く嫌そうな顔をしてこの人を見ていたし、王様に何か文句を言っていたようだがアミーリアには言葉が難しすぎてよくわからなかった。


「ほら見ろ!私とお前は初対面ではない。二度目だ!」


 ダニエルはふんぞり返ってそう言った後、己の失言を悟った。


「ダニエル殿下はアミーリア様に会うのは五年ぶりですか。それでどうしたらアミーリア様が殿下の威光を笠に着ただのフレデリーカ・ティリット侯爵令嬢を苛めただのと噂になるのでしょう?」


 アミーリアの後ろで低い声がした。周囲を凍らせるようなその声はルークのものだ。アミーリアは怖くて後ろを振り向けなかった。


「何だ貴様は!引っこんでいろ!」


 ダニエルの言葉にもルークはひるまなかった。


「私は聖騎士、聖女様をお守りするのが役目です。第一王子殿下といえ聖女様の名誉を損なう言動を見過ごすわけにはまいりません」


「えーい黙れ!この私に―――」


 激昂するダニエルに横から言葉がかけられた。


「殿下、お言葉を遮って申し訳ありません。私も一言よろしいでしょうか」


 進み出てきたのは黒縁眼鏡を掛けた理知的な青年。輝く銀髪に眼鏡の奥の涼し気なサファイアブルーの瞳。少々酷薄にも見える非常に整った顔立ちのこの青年はダニエル第一王子の側近、宰相の息子のアーノルド・セイヤーズ侯爵令息だった。




 







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