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四章 再会

「ごめん、そろそろ準備して」

 アイトに言われ、俺達は首を傾げる。急にどうしたのだろう?

「この後は皆にも参加してもらわないといけないんだ」

 参加するって、あのゲームに……?

 緊張が走る。今のところ誰も死んでいないとはいえ、命がかかっていることに違いはないのだから。

 でも、とスズエの方を見る。彼女は死ぬことすらいとわず、俺達を助けてくれた。

「……分かった、行こう」

 俺達の覚悟を見て、アイトは小さく頷く。

 俺達が配置につくためにアイトについていった。

「……ん……」

 後ろから、声が聞こえた気がした。



 シルヤ君が泣き止み、合流すると同時に上に上がるよう指示をされる。次のフロアに上がると、アイトが「あ、来たね」と棺の上に座っていた。ほかの人達もそれぞれの場所に座っている。

「やっほ、ユウヤ」

「やぁ、アイト」

 敵ではないと分かっているからこその余裕。彼は立ち上がってボク達の方を見た。

「よくここまで来たね」

「おかげさまでね」

 ボクはアイト側にいるほかの六人を見る。……人形、というわけじゃなさそうだ。

「ここから、君達に仲間が増えるよ。仲良くしてね」

 ニコニコしている幼馴染にある種の安心感を得る。……どうやったのか分からないけど、みんな生きている。

 いや、みんなじゃない。あと一人、生死不明の子がいる。

 自己紹介も終え、ペア発表……というわけではなく。

「それじゃ、君達は……」

 アイトが何か指示を出そうとしたその時、走ってくる音が聞こえてきた。

 ローファーの、コツコツという音……。

「アイト!」

 女の子の声。この、声は……。

 声のした方を見ると、そこには……。

「スズエさん!?大丈夫なの!?」

 アイトが慌てて息を切らしている少女のそばに駆け寄る。

 そう、スズエさんだった。でも、少し変わったところがある。

 なんと、髪が白色になっているのだ。それに頭には包帯を巻いているし、顔にガーゼも貼られている。

「何とかね。まだ頭とか痛むけど……」

「ダメだよ、無茶しちゃ!まだ動いたら……!」

「言うほど無茶してないよ」

 まさかの出来事に、全員が目を丸くしていた。

「す、ず、ね……?」

「シルヤ、ごめんね。お姉ちゃんがそばにいてあげられなくて」

 優しく笑いかけるスズエさんに、はじかれるようにシルヤ君は抱きしめた。

「スズ姉ー!無事でよかったー!」

「シルヤの方も、無事で安心したよ」

「……え、きょうだい?親友じゃなくて?」

 全員が目を丸くする。そりゃそうなるよね、親友って言っていたし。

「てかなんで髪の毛白くなってんだよ!?若白髪!?」

「違うから。一日で白髪になってたまるか」

「あー……薬の副作用だって。本当に危険な状態だったからね……」

 シルヤ君が泣きそうになっている。そういえば髪の毛を触るのが好きだったんだっけ?

「スズエ、つらかったでしょう……!」

「兄さん、落ち着いて……」

 エレンさんもギュウギュウと抱きしめている。

「……えっと、ちょっと待ってー。頭が追い付かないんだけどー」

 ケイさんが止める。急激な情報量に混乱しているようだ。

「その話はあと。今は見守ってあげましょう?」

 アリカさんに言われ、今のところこれ以上は何も聞かないことにしたらしい。

「それにしても……本当に無事でよかった……」

「あ、ユウヤが泣いてるー」

「こっちは状況が分かってなかったんだし、当然だろ?」

 安心感からか、ボクも涙を流してしまう。アイトもからかっているけど、安心した表情を浮かべていた。

 とりあえずロビーに行こう、とスズエさんに言われ、全員でそちらに向かう。

「……それで、スズエ。大丈夫?」

「助けて」

 レイさんがスズエさんに声をかける。スズエさんはいまだにシルヤ君とエレンさんに泣きつかれていた。

「おーい、シルヤ。スズエも座れないから離れてやれー……」

 ラン君の言葉に二人はようやく離れる。

「ほら、スズエ、座ってください」

 そしてエレンさんがスズエさんを支えて椅子に座らせた。

「あー……いた……」

「大丈夫ですか!?」

「あ、うん。……あのくそ親父にかなり殴られたりけられたりしてね……今度会ったら覚えておけよ、あのヤロー……」

 忌々しげにつぶやくスズエさんにフウ君がギュゥウと抱き着く。

「フウ、どうしたんだ?」

「ニャー!よかったニャー……」

「えっと、スズちゃん、でいいんだよねー?なんで俺達の名前を?」

 ケイさんが聞いてくる。そういえばそうだ。なんでボク達の名前を知っているんだろうか?エレンさんが兄だってことも知っているようだったし……。



「なんで俺達の名前を?」

 金髪の男性――ケイさんがスズエに聞いてくる。そういえば、助けてくれた時も俺達の名前を呼んでいたような……?

「……ユウヤさんは、心当たりあるんじゃないですか?」

 突然ユウヤに話をふられた。彼に何が……?と見ると、心当たりがあるのか目を見開いていた。

「もしかして……」

 そしてユウヤはマフラーをほどく。

 首にかかっていたのは、鍵の形のネックレス。……正確には、チェーンに鍵の飾りをつけたものだった。

 スズエも、ポケットから何かを取り出した。

 ――それは、ユウヤが首にかけているものとまったく同じ鍵だった。

「……白い髪の女性に渡されたんです。確か、ユウヤさんと同じものだったって記憶していて」

「……君も、「繰り返した」んだね」

 ユウヤの言葉に、スズエはコクッと頷く。

 ……繰り返した?どういう意味……?

「さすがにそうじゃないと、みんなを助け出すなんて出来ないですよ」

「……それもそうか」

 俺達からしたら何が何だか分からないんだけど……。

「というか、みんながここにいるってことは私二週間ぐらい寝てたってこと!?」

「ついさっきまで寝てたって言うなら、そうだね」

「ご、ごめんなさい、大事な時にそばにいられなくて……」

 今気付いたように尋ね、謝ってくる。

「いや、仕方ないでしょ……君、あの怪我じゃ意識あったとしても俺達が行くのを許さなかったよ……」

 俺が言って聞かせると、スズエは目を丸くした。なんだろうかその反応?

「……タカシさんが言うのは分かるけど、まさかレイさんに言われるとは……」

「君の中で俺ってどんなイメージなの?」

「あー、うん……まぁ、スズエさんが言いたいことは分かるよ……」

「警戒心強いけど気を許した相手には懐いてくるネコ」

 一体俺は君に何をしたんだい?

 そうツッコミたくなる。確かに警戒心強い自覚はあるけど。そしてユウヤ、君は同意しないで。

「実際、その通りなんだよね……」

「うんなんか分からないけどごめんね?」

 なんで謝っているんだろ……。

 その理由はユウヤの口から聞かされた。

「まぁ、「君のための舞台」なんて言われたら、警戒しない方がおかしいでしょ」

「そうなんですけどね……露骨に避けられていた時はさすがに傷つきましたよ」

 そんなことをしていたのか……そりゃあ驚かれるな、うん。

 なんて自分の記憶にないことを思いながら頭を回転させる。

「……えっと……つまり、スズエとユウヤさんはどんな展開になるかって分かってたんすか?」

 ランが尋ねるが、「正直、こんな展開になるとは思ってなかったよ」とユウヤが答えた。

「そうですね……私も想定外でした」

 それにやはり疑問符が浮かぶ。どういう意味?

「……何人かは、死ぬんですよ。それを助けようとしてて……」

「ユウヤさんは、何度も繰り返しているんですよね?私はこの一回だけなんですけど……」

「うん。それに、スズエさんが最初からいないってことも初めてだったよ」

 そうだったんだ……。確かに、アイトもかなり焦っていたような気がするけど……。

「もともと、全員に最初の試練をやらせる予定だったんだよ。スズエさんはその最初の試練が「二つあった」」

「え、どういう……」

「……なんで、スズエさんだけがあそこに捕らえられていたのかって考えたことない?あそこで、スズエさんが起きてこなかったら……って」

 その言葉に、俺は身が震える。

 スズエが起きてこなかったら……俺達は、死んでいた。

 そもそもの話、ほかの人が起きてくることが条件なんて本当に奇跡の生存でしかない。本気で殺す気だったのか……と恐ろしくなった。

「もちろん、スズエさんは起きてこないハズだったし仮に起きてきても妨害して失敗させるつもりだった。……だから、成功してしまったことに焦っているんだよ」

「……そうだね。だからせめて私を動けないようにしようって思っていたんだろうね」

 なるほど……確かにそんな運が絡むゲーム、普通に考えて失敗するに決まっているだろう。でも、スズエは……その確率をやってのけた。相手にしては脅威になるだろう。

 でも、そのスズエも復活した。つまり……。

「ここからは、私も協力します。いいよな?アイト」

「もちろん。ボクも協力する」

 スズエがアイトに確認すると、彼は頷いた。この二人が協力してくれるなら、こちらとしても心強い。

「まずは……首輪の解除からしましょうかね」

 そう言って、スズエはアイトからパソコンを渡された。

「私はここにいるので、何かあったら呼んでください」

 さすがにまだ本調子というわけではないので……と困ったように言われる。それなら仕方ないか……。

「ニャー……」

「フウはここにいるか?」

 引っ付いているフウをスズエが撫でると、彼はコクッと頷いた。

 そのまま、俺達は探索を始める。すでに解いたのか、罠らしい罠はなかった。

「すごいね……スズエ、本当に頭いいんだ」

「そうだね……」

 おかげで探索もやりやすくなった。

「それにしても……気付いた?」

「どうしたんですか?マイカさん」

「スズちゃん、ユウヤ君を見てちょっとだけ赤くなってたんだよ」

 あー……とさっきのスズエを思い出す。確かに、あれは恋をしている目だった。……ユウヤも同じようなものだったと思うけど、あれは気付いていないんだろうなぁ……。

「ユウヤさん、スズ姉のこと好きっすか?」

 ……遠くでシルヤが聞いている。ユウヤは「えっ!?」と動揺していた。

「う、うん……そりゃ好きだけど……」

「恋愛的な意味でっすよ?」

 あー、楽しんでるな、あれ。

 確かに、ユウヤの反応は面白いけど。

「……ノーコメントで」

 ユウヤは顔を真っ赤にしながらそれだけ言って一人探索に向かった。

「うわわっ!?」

 ……結構動揺しているみたいだけど。

 あそこまで動揺しているユウヤなんて初めて見たかもしれない。

「あの、なんか大きな音が聞こえてきたんですけど……」

 ヒョコッとスズエが顔を出す。「気にしなくていいよ」と俺が笑うと、「そうですか?それならいいですけど」と戻っていった。



 お母さん、生きててよかったニャ……。

 ぼくはお母さんの隣に座って作業を見ていた。

「フウ、大丈夫か?」

 頭を撫でられて、本当のお母さんを思い出す。

 優しくて、人のために何でもできるお母さん。ぼくの自慢ニャー……。

「スズエさん、フウ君、お茶飲む?」

 ユウヤさんがお茶を持ってぼく達のところに来た。

 お父さん。

 思わず抱き着いてしまう。

「おっと、どうしたの?フウ君」

 お父さんは優しく頭を撫でてくれた。

 ねぇ、お父さん。ぼく、お母さんを守れるかな……?

「ユウヤさんも座ったらどうですか?たまには休むことも大事ですよ」

 お母さんに言われて、お父さんは「そうだね……そうしようかな」とぼくを抱き上げて座った。

「……でも、本当に無事でよかった……」

「私も正直、死ぬかと思いましたからね……」

 あはは……と困ったように笑うお母さんにお父さんは「まったく……」とギュッと抱きしめた。

「ゆ、ユウヤさん?」

「……ごめん、少しだけこのまま……」

 少しだけ震えている。……怖かったんだ。それに気付いたみたいで、お母さんも優しく抱き返していた。

(あぁ、ぼく、本当に幸せ者ニャー……)

 だって、この二人に愛されているんだもん。



「……私達って、鏡合わせの存在なのかもしれませんね」

 眠ってしまったフウ君を撫でていると、不意にスズエさんがそんなことを言ってきた。

「どういうこと?」

「だって、そうじゃないですか?どっちかが死ねば、どっちかは生きる。……鏡合わせって、絶対に交わることはないんですよ」

 ……言われてみれば、確かにそうだ。

 でも、彼女はその「鏡」を破ってボクとここにいる。それがどれほどの奇跡なのか。

「……多分、チャンスは今回だけ」

 スズエさんの口が紡がれる。

「今回を逃したら……今度は、私が繰り返すことになる。だからここで決着をつけないと」

 そう言われ、ボクは同意するように頷いた。

「……ねぇ、ユウヤさん」

「どうしたの?」

「私、きっと地獄に落ちるわ。それでも……私についてきてくれる?」

 その言葉に、ボクはニコッと笑った。

「当然だよ。だってボクは君の「守護者」なんだから」

 その返答に、スズエさんは安心した表情を浮かべた。



 これは何だろうかと俺はスズエを呼びに行く。

「すみません、フウを見ててください」

「了解」

 すっかり打ち解けてしまったらしいユウヤに眠ってしまっていたフウを任せ、スズエは一緒に来てくれた。

「これなんだけど……」

 謎の生体認証を見せると、「あー、これは……」とスズエは不意に前髪をあげる。そしてカメラに向けると、

『認証確認しました。ロックを解除します』

 無機質な声が聞こえてきた。キョトンとしていると、

「あいつら、なぜか私の生体認証を使っているんですよね……いつの間に取ったのだか」

 はぁ……とため息をつかれた。「まぁ、このおかげで首輪の解除が出来たからよかったですけどね」と呟いていた。

「そうなんだ……」

「これ、こうするんですよ」

 前の周回とやらでやっていたのか、慣れた手つきでどんどん解除していく。早い……さすがというべきだろうか。

「これで罠を解除できたと思います。また何かあったら呼んでください」

「うん、ありがとう」

 スズエがロビーに戻ると、俺はあることに思い至る。

 ……スズエ、なんであそこまでハッキング出来るの?

 普通に考えて、高校生がハッキング出来るなんてありえない。相当精通していないと……そもそもハッキングする機会なんてない。情報屋ではあるみたいだけど……。

(後で聞いてみようかな……?)

 そう考えながら、俺は探索を再開した。



 スズエさんが戻ってくると、「フウ、まだ寝ているんですね」と微笑みかけてくれた。

「うん、そうみたいだ」

「相当疲れていたんですね……」

 彼女が隣に座ると、フウ君は袖をギュッと掴んで「お母さん……」と寝言を言った。

「スズエさん、本当に懐かれてるね。相当お母さんに似ているみたいだ」

「そうですかね?」

「うん。フウ君も君に似てるし」

 ボクが撫でていると、「うー……お父さん……」と今度はそう呟いた。

「ユウヤさんも、お父さんに似ているみたいですよ」

「うーん……少し複雑だなぁ……」

 この子が、スズエさんとの子供だったら。

 そんなことを考えて、いやいやと頭から振り払う。ボクは彼女の守護者であり、恋愛感情なんて持ってはいけないんだ。

「……です」

「うん?なんか言った?」

「んー?何でもないです」

 スズエさんが何か言っていたみたいだけど、聞き逃してしまった。

 ここから脱出したら、また聞こう。

 そう思いながら、ボクはわずかに頬を染めているスズエさんを見ていた。

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