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一章 いつもと違う始まり

 目覚めた時、俺は身体を縛られていた。

「な、なんだよ、これ!?」

 動かせるのは首を腕だけ。そんな異常事態に、さすがの頭脳でも追い付かない。

『起床を確認いたしました。最初の試練を開始します』

 パニックになっていると、無機質な音声が流れてきた。

「さ、最初の試練……?」

『五分間以内に謎を解いてください。時間切れになった場合、処刑します』

 処刑、と言う言葉に頭が真っ白になった。こんな時に、自慢の頭が役に立たない。

 無情にも、カウントが始まってしまう。動かせる腕で触ってみるけど、どこにも謎解きの鍵となるものはなさそうだ。

 人間、命がかかるとパニックになってしまうものなのだとどこか冷静な頭で考える。

『残り一分です』

 刻々と迫りくる生命のカウントダウンに本格的に恐怖を覚える。

『残り三十秒です』

(し、死ぬ……!)

 嫌だ、死にたくない。

 誰でもいいから、助けて。

『残り……ガ、ガガッ……』

『とまれとまれ止まれ!』

 その時だった。あの無機質な声ではない、少女の声が聞こえてきたのは。

『最初の試練を停止します』

(な、何があったの……?)

 俺が目を丸くしていると、『レイさん!』とはっきり俺の名前を呼ばれた。

『足元のボタンを押してください!』

 なんで俺の名前を知っているのか、とか、何者なのか、とかそういうのは頭から消えていた。足元を見ると、赤いボタンが光っていた。言われた通り足でそれを押すと、縛っていた何かが外れる。

 暗さに目が慣れてくると、ギロチンがあることに気付く。何者かに助けられてなかったら……と考えるとゾッとする。

 声の主はなおも叫んでいた。時々名前のようなものも聞こえてきて、ほかにも巻き込まれている人がいるのだと分かった。

『こんの……!』

『ぐっ……!』

 時々、スピーカー越しから争っている音が聞こえてくる。同時に殴られている音も聞こえてきて、危険な状況から助けてくれたのだと気付いた。

『こんのガキが!ふざけんなよ!』

『がっ……!』

 やがて、その会話と鈍い音を最後にスピーカーが切れた。慌てて外に出ると、ほかにも同じように廊下に出た人達がいた。

「お、おい!やばくねぇか!?」

 褐色の肌の男性は慌てていた。命の恩人の身に何かあったかもしれないのだ、当然だろう。

 皆で走っていくと、電気がついている部屋が見えてきた。扉の上に監視室とあったため、おそらくそこから指示を出してくれていたのだろう。

 バンッ!と開けると、見覚えのある制服を着た茶髪の少女が血だらけで放置されていた。

「ちょ、重傷だよ!?」

 不思議なフードを被った女性がそれを見て手で口を隠した。かなりの衝撃だったらしい。

「だ、大丈夫!?」

 俺が真っ先に駆け寄ると、まだ意識があったらしく少女は俺の方を見た。

「……レイ、さ……よかっ……た……」

「今はしゃべらないで」

 明らかに虫の息だ。ここには救急箱すらなさそうで、どうしようか考えていると後ろから焦った様子の二人分の足音が聞こえてきた。

「シナムキ、早く!スズエさんが……!」

「分かってます!」

 振り返ると、救急箱を持ってきた水色の髪の女性と緑色の髪の男性が走って来ていた。

「お前ら、敵か?」

 褐色の男性が睨むと、「違うよ」と緑色の髪の男性が首を横に振った。

「ボク達は君達の味方だ」

「……何者なの?」

 警戒する俺をよそに、緑髪の青年はまず女性の方に「スズエさんをお願い」と一言告げる。そして質問に答えた。

「スズエさん……この子の幼馴染だよ。本当は敵役を演じて助けようと思っていたんだけど……この子が君達を助けてくれたみたいだからその必要もなくなったし。……シナムキ、スズエさんの方任せるね」

「分かりました」

「君達はこっちに来てくれる?……事情を説明するから」

 そう言われ、俺達は顔を見合わせた。

 ……嘘をついている雰囲気はない。

 それなら、今のところ信用していいだろう。そう思って俺達は彼の方を見る。後ろではシナムキと呼ばれた女性が茶髪の少女――スズエと言うらしい――の手当てをしていた。

「……奴らは「デスゲーム」をやろうとしているんだ」

 緑髪の男性が口を開く。

 どうやら目の前の男性と後ろの女性は、それを止めようと暗躍していたらしい。しかしその努力むなしく、ゲームは始まってしまった、とのこと。

「……スズエさん、本当は参加者じゃないんだ」

 その言葉に、俺は耳を疑う。

 それなら、なんでここに?

 その理由はすぐに分かった。

「スズエさんはね、不思議な力を持っているんだ。だから狙っているんだよ、奴らは」

 不思議な力……しかもそれを狙っている……。

「ねぇ、あなたはなんで彼女を……?」

 こげ茶色の髪の女性が尋ねると、「ボクは、彼女を守る血族……いわゆる「守護者」の家系の人間なんだよ」と答えた。

「本当はあと二人いるんだけど……一人は操られてるし、もう一人はほかの人を守るので精いっぱいなんだよ」

「そう、なんだ……」

 だからすぐに駆け付けたのか……。

「あ、そういえばボクの名前がまだだったね。ボクは高雪 愛斗。よろしく」

 自己紹介とともに手を差し出される。俺はその手を握った。

「ボクも、ここからみんなで脱出する方法を探してる。……手伝ってほしい」

「分かった」

 せっかく拾った命、誰かのために使おう。俺はそう心に決めた。



 ボクは周囲を見て、違和感に気付く。

(……あれ?スズエさんがいない……?)

 そう、いつもならシルヤ君と一緒にいるはずのスズエさんの姿がなかったのだ。代わりにラン君が首を傾げながらシルヤ君と話していた。それに、いつもならいないハズのナナミさんやアリカさんもいた。

「どうした?シルヤ」

「実は、一緒に連れ去られたハズの親友がどこにも見当たらなくて……」

「それは心配だな……」

「死んでたらどうしよー……」

 シルヤ君が泣きそうになってしまい、ラン君が「落ち着け!生きてるって!」となだめていた。

 シルヤ君からしたら唯一の姉なのだ、不安になるのも仕方ない。

「シルヤ君、落ち着いてください。きっとその親友も無事ですよ」

 エレンさんがシルヤ君に声をかける。

 彼はスズエさんとシルヤ君の実兄……なのだが二人がまだ幼い頃に七守家に引き取られてしまったため、二人は覚えていない。

「そう……っすかね……」

「えぇ。だから泣かないでください」

 ……そうやってシルヤ君の涙をぬぐうのは、いつも姉であるスズエさんの役目だった。

(本当に……どこ行っちゃったんだろ……)

 ボクは不安になりながらもシルヤ君とラン君と一緒に探索を始めた。

 食堂に向かい、いつもスズエさんが調べている椅子を観察する。

(……あれ?これ、外せそう……?)

 もしかして、いつもこれを見ていたのだろうか……?だからドライバーを探して……?

「……もしかしたら、探したらまだあるかもね……」

「どうしたっすか?ユウヤさん」

 ボクの呟いた言葉に、ラン君が反応した。

「ん?あぁ、ちょっとね。……これ、外せそうだなって思って」

「あ、そうっすね。それなら、ドライバーを探してみましょう」

 その提案に、ボクは頷く。



 俺はアイトに言われ、パソコンをかかっていた。

「えっと……これは……」

 謎解きをしながら、周囲に耳を傾ける。

 画面越しに見えるのはタカシさんが扉を壊そうとしているところ。

「タカシさん、壊さないでください。スズエが起きるかもしれないので」

「わ、分かってるって……」

 スズエの名前を出すと、タカシさんはバツが悪そうに拳をひっこめた。

 ここは診察室……のような場所。シナムキが眠っているスズエさんを診ているのだ。

「れ、レイさん、その……」

「大丈夫、これぐらいなら解けるよ」

 こう見えて、俺は頭がかなりいい。冷静である時ならなんでも覚えているぐらいだ。

「スズエの様子は?」

「先ほどよりはマシになっていますが……ここが山場かと思います」

 そう言われ、ギュっと拳を握る。

 ――俺達を守ったから……。

 参加者じゃないのに、勝手に巻き込まれた挙句殺されかけるなんて。しかも、話を聞けば彼女の父親が暴行を加えていたらしい。

(……本当に、胸糞悪いな……)

 パニックになったら、人間は冷静さを欠く。それを利用して俺達の最初の試練とやらは乗り越えられないようになっていたらしい。

 しかし、予想外のことが起こった。それが、今の状況だったようだ。そのため、ほかの最初の試練は出来ずそのまま始まってしまったらしい。

「スズエも災難だな……親友と誘拐されたんだろ?」

 タカシさんの親友、と言う言葉にシナムキが少し悲しげな表情を浮かべたのが視界の端に映った。

(……?何かあったのかな……?)

 そんな疑問を抱きながらこのパソコンの謎解きを解き終わった。

「……本当に、スズエがいなかったら俺達は死んでいたんだよな……」

 タカシさんの呟きにシナムキは「……そう、ですね……」と言いにくそうに頷いた。

 実際、あの状況だったら絶対に冷静になんてなれない。そう、普通の人なら。

「カメラ越しですけど……スズエさん、お父様に何度殴られても諦めなかったんです。だから、皆さんは助かりました」

「そうだったんだ……」

 シナムキの話が事実だとすると、どうやら三十分ぐらいは殴られ蹴られの暴行を受けていたらしい。そんな状況でよく俺達を助け出してくれたと思う。

「スズエさん、こう見えて意地っ張りだからね。どうしても君達を助けたかったんだよ」

 突然アイトの声が聞こえてきてビクッとする。振り返ると、モニターを抱えていた。

「スズエ、起きて」

「うーん……あれ?どうしたの?アイト君」

 アイトがモニターに声をかけると、画面がついて茶髪の少女が目を開く。どうやらスズエのAIらしい。

「ねぇ、スズエ。レイさんを手伝ってくれない?」

「うん、もちろん。どんな情報が必要?」

 ピョンピョンと画面内ではねているスズエが可愛いと思うのはいけないのだろうか?

 AIちゃんに「じゃあ、この情報くれない?」と頼むと「待ってて!」とファイルの中にもぐりこんだ。そして「これでいい?」と画面に広げてくれた。

「うん、ありがとう」

 ……もしかして、スズエも天才なのだろうか。

 かなり丁寧にまとめられている。アイトはここまでまとめないと思うし、シナムキも得意ってわけではなさそうだ。

「これ、AIちゃんがまとめたの?」

「うん!アイト君に頼まれたから!」

 やっぱり。

 AIちゃんですらこんなに頭いいのだから、本人はもっといいのだろう。

「分かりやすいよ」

「えへへ……」

 それにしても、このAIちゃんは本人より幼いように見える。どうしてなのだろうか。

「可愛いでしょ?」

「……い、いきなり何言ってるの?」

 アイトに後ろから声を掛けられ、俺は戸惑う。

「この子は、昔の性格のスズエさんだよ。……「あの事件」が起こらなかったら、このままだったんだろうなって」

「……?どうしたの、アイト君」

 AIちゃんはキョトンとしていた。どうやらこの子は分かっていないらしい。

「スズエは知らなくていいことだよ」

「そうなの?それならいいけど……」

 ニコッと笑うアイトに、AIちゃんは特に踏み込みはしなかった。

 アイトはどこか寂しそうだった。



「……なるほど」

 ボクは例の隠し部屋からドライバーを持ってきて、あの椅子を解体した。そこから出てきた紙を見て、ボクは誰にも知られず笑う。

 ――メインゲーム時、役職を持っていない者がいれば無効試合となる。

 そう書かれていた。なるほど、これならあとはカナクニ先生を救う方を考えるだけだ。こうやってヒントがあるならそっちもありそうだ。

 シルヤ君とラン君は別の部屋を調べているし、先にあの忌まわしい部屋を探索することにした。

 扉を閉めると、そこに紙が貼ってあった。

 ――ここでの投票は練習であるため、同数であれば没収試合とする。

「……つまり、これも同数にしてしまえば……」

 あとは誘導するだけだ。そう思いながら、あのロシアンルーレットをする部屋に向かった。

 ……しかし、今回はなぜかそれがなく、代わりにダーツが置かれていた。

「ユウヤ君、これは……?」

 アリカさんが冷や汗を流しながら聞いてくる。「分からないですね……」とボクは首を振った。

「あーはっはっは!そのダーツはお前達の「命」さ!」

 突然そんな声が聞こえてきて驚く。

「ダーツぐらいは分かるだろ?代表が十発投げて、点数が四百以上なければその首輪が発動する」

 ……十発……。

 すべて真ん中に当てるとして、外していいのは二発……別のところに刺さってしまうとほぼ不可能になってしまう。あとは二十のダブルに当てるか。

「……では、私がやりましょう」

 ボクが立候補する前に、エレンさんが手を挙げた。

「エレンが?……ちょっと心配だなー……」

 ケイさんが不安そうな表情を浮かべているけど、ボクは知っている。

「……では、いきます」

 一回目。ダブル・六十。

 二回目。ダブル・六十。

 三回目。ブル・五十。

 四回目。ブル・五十。

 五回目。ダブル・六十。

 六回目。ブル・五十。

 七回目。ブル・五十。

 八回目。ダブル・六十。

 九回目。ブル・五十。

 そして十回目。ブル・五十。

「おー!すごいなぁ!五百四十!楽勝だったか?」

 そう、エレンさんは集中力がかなり高く、百発百中の実力者だ。ボクも彼にかなり鍛えられたから、命中率はいい方だと自負している。

「よかったなぁ、こいつがいてくれて!」

 それにしても、この男の声は一体……?

 モリナでも、ナシカミでもない。ましてや兄さんでもない。

 扉の開く音が聞こえる。一度出て、今度は身体集めを始めた。



「レイ、なんか見つかったか?」

「タカシさんは適当に探索しててください」

 画面とにらみ合いをしながらタカシさんに告げる。

「俺が探索したら壊す自信しかないぜ?」

「……分かりました。何もしなくていいので邪魔だけしないでください」

 この脳筋が。

 そう言いたかったけど、なんとか喉奥に抑え込んだ。

「お前、失礼なこと考えてないか?」

「気のせいです」

 適当に受け流しながら、どこかに情報がないか探してみる。

「……うん?」

 不意に、名前が目に入った。

 「成雲 慶介」。

 その名前はかなり有名で、知らない人はいないだろう。

 かの有名な成雲家のお嬢様の父親で、現当主。割と好印象を抱くような男性だと記憶している。

 しかし、ここに書かれている彼は違った。

 彼は「モロツゥ」と繋がっており、世界を滅ぼすために娘を利用しようと考えている。そのため娘を虐待しているようだ。

「……酷い……」

「どうした?」

 いつの間にか声が漏れていたらしく、タカシさんに覗き込まれた。

「成雲……?なんだ、こいつ」

「成雲 慶介。世界的な名家ですよ」

 まさか知らないとは……。

「お前、心の中で馬鹿にしていないか?」

「気のせいです」

「そうか?」

 適当に流し、「その人が娘を虐待していたみたいですよ」と答えた。

「マジか……」

「そのお嬢様、テレビとかでよく出てるけどそんな感じしなかったんですよね……」

 でも、虐待なんてなかなか見つけられないものだ。だから他人が知らなくてもおかしくない。

「てか、なんでそんな奴の名前がここに?」

「分からないですよ、さすがの俺でも。……うん?この名字……」

 もう一つ、見覚えのある名字があった。

 森岡 謙治郎。

 森岡……スズエの名字だ。それにこの人、妻とともに十数年前に亡くなった有名な研究者だ。確か放火魔が家に火を放って、孫娘を守るために自らが犠牲になったとか……。

(……孫娘?)

 ……年齢的にも、スズエは条件に合っている。もしかして……。

「森岡……この名字、どこかで……?」

 その言葉には、答えることが出来なかった。



 ボク達は人形の身体の部位を集め終わって組み立てようということになった。

「あの、少し待ってくれませんか?この部屋も探索した方がいいと思います」

 ボクがそう言うと、「それもそうだな」とマミさんが頷いた。

 あえて扉を閉めると、そこに例の紙が貼ってある。「なるほど……」とアリカさんが呟いた。

 組み立てると、煙とともにルイスマが現れた。

「ウフフッ!よく組み立てることが出来ましたねぇ!」

 笑い人形、と自称しているようにニコニコしている。そんな彼女に、シルヤ君が詰め寄った。

「おい!あいつは……スズはどこにいる!?」

 シルヤ君からしたら、気が気じゃないだろう。実の姉がどこに行ったのか分からないのだから。

 すると、ルイスマはケラケラと笑いだした。

「スズエちゃんですか?

 死にましたよ。正確には殺した、と言うべきですか?」

 その言葉に、ボクはハンマーで殴られたような感覚に陥った。

 ……スズエさんが、死んだ……?嘘、だ……。

「う、嘘だ!スズが死ぬわけ……っ!」

「ウフフッ!ではこれを見てくださいな」

 シルヤ君が信じたくないと言いたげに叫ぶが、ルイスマはスクリーンを見せる。

 そこには、ボロボロになっているスズエさんが映っていた。

『……っう……』

 スズエさんの声が聞こえる。

『あいつは……シルヤは、無事なのか……?』

『もちろんよ。彼は生きているわ』

 どうやら目の前には女性がいるらしい。それを聞いたスズエさんは口の端をあげた。

『それなら、よかった……』

 そのまま、スズエさんは目を閉ざした。

 シルヤ君はドサッと力が抜けたように崩れ落ちた。

「シルヤ、あんなの嘘だ!」

 ラン君が焦った様子でシルヤ君の肩を揺さぶったが、シルヤ君から反応はない。ただ、スクリーン越しのスズエさんをジッと見つめているだけだ。

 ラン君だって気付いているハズ。あの様子だと、死んでいたっておかしくないと。

「素晴らしい友情ですねぇ!死ぬ直前までシルヤ君のことを心配してくれていたんですよ、スズエちゃん」

「てめっ……!」

 ミヒロさんが怒りのあまり殴りかかろうとしたが、それをマミさんが止める。

「落ち着け、ミヒロ」

「そうだよー。ここで殴ったら何されるか分からないからさー」

 ケイさんも緊迫した空気をまといながら告げる。

「ウフフフ!スズエちゃんがあなたを守りたいって思う理由、分かる気がしますねー!」

 ルイスマは面白がっているようだ。本当に趣味が悪い……と思いながら「……早く話を進めてくれない?」と言った。思ったより低い声が出て、自分でも驚いた。エレンさんに至ってはフライパンを握ってフルフルと震えていた。

「あらあら、怖いですねー!」

 全然怖がっていないとすぐに分かる。というより、彼女に恐怖という感情はないのだろう。

「安心なさいな、今回はシルヤ君のその顔を見られて満足したのでここでの投票はやりませんよ」

 せいぜい生き残ってくださいねー、とルイスマはどこかに消えていった。

 エレンさんがシルヤ君を立ち上がらせる。

「大丈夫ですか?シルヤ君」

「…………」

 いつもなら前向きな彼も、姉が死んだと聞いて元気がなくなっている。……シルヤ君はいつも、スズエさんのためにどんなつらい状況でも前を向いていたのだと思い知らされた。

「……スズ……」

 放心状態でスズエさんの名前を呼んでいる彼に、ケイさんも「シルヤ君、どこかに座ろうかー」と支えて部屋から出した。

 ……スズエさん……。

 本当に、死んでしまったの?ボクのやってきたことは……無駄、だったの?

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