孤独な世界はいかがですか
一人の少年がいた。どこにでもいるごく普通の少年。それは外面的な部分だけを見た場合の話。
少年は考えることが好きだった。自分の世界に入り込むのが好きだった。
ある時、少年は教わった。考えたことをそのまま口に出してごらんと。
そう教わったから。少年は自分の考えを表に出してみた。
そこには怪訝な目をした大人がいた。
そこにはあざ笑うような眼をした子供がいた。
少年は何も言えなくなった。自分の考えていることが普通ではないと分かったから。
自分の世界は異常だと分かったから。
少年は口を閉ざした。心を閉ざした。どうせわかってくれないと決め付けた。
だから考えを変えた。人に合わせて考えよう。自分の考えは不必要なものだと自分に言い聞かせた。
少年は変わっていった。人に合わせるだけで自分のことは二の次。
誰かが笑えば自分も笑う。誰かが泣けば自分も泣く。
そんな風に自分を消していった。
少年は青年になった。自分の考えを持たないまま。
青年は悩んでいた。時々、声が聞こえる。自分ではない誰かの声が。
青年は無視した。心なしか少年だった頃の自分の声に似ていたから。
青年はうなだれた。寝る間際、幻覚を見た。部屋の隅で誰かが泣いている。
青年は思い出した。小さいころの記憶。考えることを思いだした。
青年は思い出した。自分を蔑む目たちのことを。
青年は押し込めた。思い出したくなかった。考えたくなかった。
青年は押し込めた。聞こえる声、部屋の隅で泣く自分。すべてを。
青年から溢れ出た。それは自分の世界の住人。助けに来たよと囁いた。
青年は泣いた。謝った。そして受け入れた。
自らを追いやっていたのは周りの視線ではなく、自分自身だった。
青年は変わった。助けてくれたのは自分の世界だったから。自分の世界を信じた。
周りの目を気にせず、堂々と自分の世界を語った。
青年は賞賛された。それが個性だと認められた。
いつしか青年は大人になっていた。
「大人にはなりたくなかった」
そうつぶやく。返ってくるのは同情の声。
僕もそう思う!私も同じこと思ってる!返ってくるのはみんな同じ。
「みんなも同じこと思ってたんだね!」
いつの間にか個性は消え、みんなと同調する。
自分をよく見せることしか考えられなくなる。
「今日は流行りの○○に行ってきた!」
流行りに合わせ、それを個性とし、尊重する。
そんな仲間同士で集まり団欒する。
何も不自由なく、何も考えることなく、ただ生きる。
「そんな人生送りたかった」
そうつぶやくのは大人になりきれなかった青年。
青年は大人になっていた。なってしまった。なりたくはなかった。
青年は知っていた。知ってしまった。知りたくはなかった。
大人になれば自分の世界を持てなくなることを。
また抑え込むしかないことを知った。
だから選んだ。大人にはならない。自分の世界を保とうと。
少年は青年になり大人になった。やがて老人になり結果死に至る。
大人から老人になる過程はこれから体験することになる。
そうこれは僕の物語。自惚れた男の人生。
フィクションでもありノンフィクションでもある。