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短編「例えば君が傷ついて」  作者: 此傘線綉
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安心は感覚を狂わせる

あなたにはまず、友人の家を想像してもらいます。

そこにはあなた一人しかいません。

玄関から入り、お茶の間に行きソファーを陣取る。ここまでがあなたのルーティンです。

そこに例えばです。例えばの話です。

目の端にあるものが映りこむ。遺体です。身元不明の遺体。顔は布で隠されています。どうですか?

普通なら遺体に触りたくないやら、その遺体が友人だと知りたくないやらで顔の布は取らないはずです。


ここで、疑問に思うはずです。

友人の家に遺体がある理由は?遺体は本当に友人なのか?なぜ玄関が開いていたのか?

遺体があるのになぜ自分を呼んだのか?

疑問に限りはないので一旦大きいのだけ消化しましょう。


まず、友人の家に遺体がある理由について。

見る限り、背丈は友人と同じ。服装も同じ。直感がこの遺体は友人だとささやくはずです。

そうなると、友人宅に遺体がある理由は明白。家の主が何者かに殺されてその家で死んでいる。ただそれだけ。犯人はきっと証拠隠滅という言葉を忘れていたのでしょう。一番大きな証拠を、布一枚で、顔だけ隠して、去ったのだから。


そして、遺体は本当に友人なのかについて。

ここであなたがいち早くやっておきたいこと。それは通報です。警察に来てもらい、身元を特定して友人かどうかを判断したい!ところですが残念。ここで一つ障害が生まれます。あなたは遺体を見た拍子に驚いてしまい尻もちをつきます。右手にねっとりとした感触、生暖かいような、ひんやりしたような感触。そう、血の付いた包丁です。ベタな展開です。包丁も展開もベタベタです。そんななか通報したらどうでしょうか。第一発見者兼殺人犯になってしまいます。本当に友人なのかはあなたが自分で布をめくって確かめるほかありません。でもめくる勇気がない。この件は保留ですね。


次になぜ玄関が開いていたのか?

まぁ、これは簡単です。外からの侵入者がこじ開けてそのままなのかもしれませんし、地方のほうでは鍵をかけない集落もあるそうなので、そういった場所に住んでいるのかもしれません。

こんな状況で鍵がかかってたら逆に怖いですし、なんならどこぞの意味怖にあるような物語になってしまいます。開いていてホッとしたな。くらいにとどめておけばいいでしょう。


最後に遺体があるのになぜ呼んだのか

この疑問は今までとは違う角度で見ていきます。まず遺体は友人ではないという前提です。

家主である友人がなぜ遺体があるにもかかわらずあなたを呼んだのでしょうか。

これは友人があなたに濡れ衣を着せるための罠だったんです。わざと触れやすいような場所に凶器を置いてあなたに触らせてから外で第一発見者として通報する。

なんて完璧な作戦なんだ!こんなことをしている場合ではない!友人が通報する前に逃げないと!

あなたは慌ててお茶の間の扉へ走ります。


そこで何の影響でしょうか、布が落ちます。エアコンの風なのか、死後変化なのかはわかりません。ただ、落ちるんです。半狂乱に陥っているあなたはそこで我に返ります。遺体の顔は友人のものでした。あなたは奇妙な感覚に陥ります。死んでいたのが友人でホッとしてるのです。ホッとするべきではないのですがあなたが犯人だと通報される心配がなくなった瞬間にホッと胸をなでおろすんです。凶器に触れたことも、血の感触も忘れ、少し安心するのです。親しくしていた友人の遺体が傍にあっても安心してしまうのです。


ここでもう一度言っておきます。

これは例えばの話です。例えばの話。

どれだけ絶望的な状況に陥っていたとしてもちょっとした希望があれば安心できるんです。

例え話が少々尖っていたとしてもこれはフィクションだから大丈夫と安心して読めるんです。

あなた方はどうでしょうか?安心しましたか?安心しませんでしたか?

どちらにしろ友人はなぜ殺されていたのか、なぜ顔だけ隠されていたのか。

疑問はそのまま迷宮入りです。


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