末娘を溺愛するのは万国共通らしいです
「ルー君、父様が変な挨拶をしちゃって、本当にごめんね……」
僕の隣に座ったジル先輩が、申し訳なさそうに謝る。
その姿は、まさに飼い主に叱られたチワワと一緒だった。
「あはは、気にしないでください。帝国とガベロットが手を結ぶことは、お互いにとってよいことは間違いないですし、ジル先輩のおかげでこうして仲良くできたことも本当なんですから」
「はわ……で、でも、それはルー君がボクのことを助けてくれたから……」
「それだけだったら、僕もこんなにジル先輩のことを尊敬したりなんてしませんよ」
ただ、最初から女子だと分かっていたら、緊張しすぎてここまで仲良くなれなかった可能性も無きにしも非ずだけど。
「ほ、本当にルー君って、そういうことを平気で言うよね……」
「?」
もじもじしながら上目遣いで僕を見つめるジル先輩、可愛い。
これでゲームではヒロインじゃなくてただの商人だったっていうんだから、驚き以外の何物でもないんだけど。
「そ、そうだ! それより、今日はたくさん食べてね! この日のために、美味しい魚をたくさん用意したんだから!」
顔を真っ赤にしたジル先輩が、少し誤魔化すかのようにテーブルの上をアピールする。
前世でも魚は好きだったので、実は結構楽しみにしていたんだよね。
……といっても、前世ではコンビニ飯かカップ麺ばかりで、食べる機会はほとんどなかったけど。
「では早速……」
フォークとナイフを手に取り、給仕としてせわしなく働いているイルゼを見やった後、前菜となる目の前の魚のカルパッチョを口へと運んだ。
「! 美味しい!」
「えへへ……でしょ? ガベロットは島国だから、中央海の新鮮な魚がたくさん獲れるんだ」
僕の様子を見て小さくガッツポーズをした後、ジル先輩が少し得意げに話す。
いやいやジル先輩、その反応と仕草は、さすがに可愛すぎますよ。
「カレンはどうだった? 美味しいよね!」
「……おかわり」
どうやらお気に召したらしく、カレンはとっくに平らげていた。
というか、カレンって“醜いオーク”の僕よりも大食漢なんだけど。その小さな身体のどこに入っているんだろう。
「どんどん出るからね! カレンちゃんも、もっと食べていいんだよ!」
「……ジルベルタ先輩、マスターの次に好き」
どうやらカレンは、すっかり餌付けされたみたいだ。
でも、先輩であるイルゼは一体カレンの中で何番目なんだろう。聞いたら聞いたで大変なことになりそうなので、あえて聞かないけど。
その後も、僕達のテーブルには次から次へと魚料理が運ばれてくる。
さ、さすがの僕もお腹が苦しいけど、カレンは全然平気みたいだ。
それよりも。
「ジ、ジル先輩、僕も国王陛下や殿下達に挨拶をしたほうがいいと思うんですが……」
鋭い視線をこちらに向ける、フランチェスコ国王とアントニオ王子。
ヒャッハーなお兄さんことマッシモ王子に至っては、眉間に青筋を何本も立てながら、メッチャ歯ぎしりしているし。
「いいのいいの。特にマッシモ兄様は、絶対に口きいてあげないんだから」
「あ、あははー……」
プイ、と不機嫌そうに顔を背けた瞬間、今にも泣きそうな表情を浮かべるマッシモ王子。可哀想……とは一切想わないけど。
だって僕、あのお兄さんに海に沈められるところだったし。
すると。
「ふむ……そろそろ私は失礼させてもらうとしよう」
フランチェスコ国王は立ち上がり、従者を連れてホールを出ようとして。
「ルートヴィヒ殿下」
……なんでコッチに来るんでしょうか?
「は、はい」
「……ジルベルタのこと、よろしく頼みますぞ。何といっても、私が目に入れても痛くないほど可愛い娘なのでな」
「あ、あははー。もちろんですとも……」
ぎり、と肩をつかまれ、僕は思わず冷や汗を流す。
というかこの国王、メッチャ握力強いし。
それに、この眼光……オフィーリアの父親であるリチャード国王とそっくりなんですけど。
娘溺愛系のパパンは、みんな同じなのかな? 同じなんだろうなあ……。
「では、楽しんでくれたまえ……ゴホ」
「っ! 父様!」
僅かに咳き込んだ様子を見て立ち上がるジル先輩を、フランチェスコ国王は制止した。
「……大丈夫だ」
「だ、だけど……」
フランチェスコ国王は、フ、と微笑み、今度こそホールを後にした。
「……父様はかなり前からご病気で、普段はいつも寝室で臥せてるんだ……」
「そ、そうですか……」
悲しそうな表情を浮かべて肩を落とすジル先輩に、僕は何も言えなくしまった。
こればかりは、僕にもどうすることもできないし……。
その時。
――ガタンッッッ!
「ハッ! こんな奴と一緒にメシなんて食ってたら、気分悪くなっちまうわ!」
マッシモ王子が、突然立ち上がって吠えた。
最初、僕のことを言っているのかなと思ったけど、どうやら兄であるアントニオ王子に向けたものみたいだ。
「フン……もう少し場所を弁えろ。お前は仮にも第二王子なのだぞ」
「知るかよ! つーか、俺はテメエなんざ認めねえからな!」
「それはこちらの台詞だ。この出来損ないのチンピラが」
「そっくりそのまま返してやるよ! 舵もろくに握れねえ、ガベロットの面汚しが!」
二人の王子は、互いを罵り合いながら会場から出て行ってしまった。
「兄様達の、馬鹿……っ」
「ジル、先輩……」
唇を噛んでうつむくジル先輩。
僕はただ、彼女を見つめることしかできなかった。
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