表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/144

たくさんの初めてをくれた人

■カレン=ロサード=イスタニア視点


 ――ウチはただ、愛されたかっただけなんだ。


 イスタニア魔導王国の第一王女として双子の兄、セルヒオと一緒に生まれたウチは、その時から空気のように扱われ続けていた。

 ……ううん、空気のほうがよかったかもしれない。


 だって、少なくとも生きていくためには必要だから。

 でも、ウチは無用の存在なのだから。


 セルヒオはイスタニア魔導王国のたった(・・・)独りの(・・・)後継者として、両親に、家臣に、全ての国民に愛された。

 そんな彼には、“太陽王子”なんて二つ名までつけられて。


 ウチなんて、誰も覚えてもくれないのに。

 実の両親ですら、ウチは名前も顔も知らないくらいなのに。


 それなのにウチときたら、構ってほしくて、褒めてほしくて、笑いかけてほしくて、優しくしてほしくて、意味もなく頑張って(・・・・)みせて(・・・)

 でも、誰もウチなんて見てくれなくて、ただ空回りしているだけで。


 十歳を迎える頃には、使用人達に着せ替え人形のように世話をされて、ただベッドに寝ながら息を吸うだけの存在でしかなかった。

 でも、それも仕方ないのかもしれない。


 だってウチ、身体が(・・・)欠けて(・・・)いる(・・)んだもの。


 食事をするのもままならず、身じろぎ一つできず、天井を見つめるだけの日々。

 幼い頃は、それでも頑張って努力しようとしたけど、もう諦めた。


 家族からの愛さえも。


 ある日、ウチは車椅子に乗せられて外に出る機会があった。

 新米の使用人の一人が、わざわざ気を利かせてくれたみたい。


 ……一か月もすれば、すぐにウチのことなんて無関心になるけど。


 既に何一つ期待していないウチは、ただされるがまま車椅子で運ばれる。

 後ろで使用人が何か話しかけているみたいだけど、ウチにはそよ風ほどにも感じなかった。


 その時だ。


 ウチは、聞いてしまった。

 扉の隙間から漏れた、複数の男達の声を。


「『魔導兵器』の()の試験体は手に入ったのか?」

「それが……やはり、必要となる魔力の量が多い者となると、平民の中からはなかなか見つかりません……」

「うむう……では、魔術師達の中から選抜するか?」

「っ! 陛下(・・)、それはいけません!」

「イスタニアは魔導の国。彼等の反感を得てしまっては、我が国は立ち行かなくなってしまいます」

「むう…………………………む?」

「誰だ!」


 勢いよく扉が開き、男達がウチと使用人に詰め寄る。

 どうやら、今の話は聞かれてはいけないものだったみたい。


 でも。


「……なんだ、出来損ない(・・・・・)か」

「っ!?」


 一番立派な服を着た偉そうな男が放った、何気ない一言。


 これが、ウチが初めて家族からかけられた言葉。

 これが、ウチが初めて見た、父親の姿。


「あ……そ、その……ウチを(・・・)使って(・・・)ください(・・・・)……」

「む……?」


 ウチは一体、何を言っているんだろう。

 ……ううん。そんなの、分かっている。


 ウチはただ、初めてできた家族との繋がりを手放したくなくて、縋ったんだ。

 先程の会話の意味を考えたら、何をされるのか、ある程度の想像はついているのに。


 でも……試験体になれば、家族がウチを見てくれる。


 死ぬかもしれなくても、ただそれだけを望んで。


「ふむ……どうだ?」

「……調べてみなければ分かりませんが、王族であれば魔力量も充分かと。欠損部位があることも、兵器を搭載するには向いておりますので」

「そうか。なら、それで進めよ」

「「「「「はっ!」」」」」


 ウチを一瞥(いちべつ)してこの場から立ち去る父親。


 私は……その背中を、目でずっと追い続けていた。


 ◇


 その後、父親……いや、()父親が進めていた研究は成功し、ウチはイスタニア魔導王国における『魔導兵器』第一号として生まれ変わった。


 様々な実験などを行い、この小さな身体も改良を重ね続けた。

 その結果、ウチの人間として(・・・・・)の部分(・・・)は、もう半分も残っていない。


 結局、求めていた繋がりであるはずの()父親とは、実験の時にしか顔を合わせたことがないんだから、結局はウチの覚悟も想いも、無駄にしかならなかった。

 双子の兄のセルヒオも、『魔導兵器』であるウチをただのモノ扱いしかしたことがないし。


 そんな折、ウチはセルヒオと共に、バルドベルク帝国へ留学するように命令(・・)された。

 セルヒオはもちろん、イスタニア魔導王国の“太陽王子”として……未来の国王として、研鑽を積むために。

 ウチは……“商品”のサンプルとして、各国に自分を売り込むために。


 だから、今回の期末試験ではウチの性能(・・)を見せる絶好の機会ととらえ、セルヒオをウチのマスターとして登録し、その披露に挑んだ。

 だけど……双子なのに家族としてではなく、()道具(・・)としての関係なんて、皮肉としか言いようがない。


 そんな期末試験の場で、ウチは……“醜いオーク”と呼ばれるバルドベルク帝国の皇太子、ルートヴィヒ=フォン=バルドベルクと……ううん、ウチの真の(・・)マスター(・・・・)と肩を並べることになった。


 だけど。


「……えへへ。マスター、今日も優しかった」


 寄宿舎の窓から星が輝く夜空を眺めながら、私はマスターのことを思い浮かべる。

 あの日……とうとう家族にはっきりと棄てられ、居場所がなくなって生きる意味をなくしたウチに、たくさんの初めて(・・・)をくれた人。


 マスターの従者になってから今まで、毎日が新鮮で、毎日が幸せで……。


 それに、マスターはあのイスタニアの連中のように……家族だと勘違いしていた連中のように、『魔導兵器』のウチを実験台にしたり、物扱いしたりすることなんて絶対にない。

 ただウチを、大切な仲間(・・・・・)として、言葉どおり大切に扱ってくれる。


 そんなマスターを想うだけで、ウチのこの小さな胸がぽかぽかと温かくなる。

 思わず、また(・・)暴走してしまったのかと、勘違いしてしまうほどに。


 だけど。


「……あのイルゼは邪魔」


 マスターはウチにたくさんのものをくれたけど、まだ(・・)もらえていないものがある。

 オフィーリアにも、ナタリアにも、クラリスにも、ジルベルトにも見せない……イルゼだけに向けられた、あのまなざし、あの笑顔。


 ウチも、このまま従者を続けていたら、それ(・・)がもらえるのかな。


「……胸に損傷。これは修理が必要かも」


 ウチは煌々(こうこう)と輝く月を見上げ、ちくり、と痛む胸をそっと撫でた。

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼8/19に書籍第1巻が発売します! よろしくお願いします!▼

【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
[一言] それを貰うのは、きっとなかなか難しい… 果たしてどこまで懐に深く入り込んでいけるでしょうか。
[良い点] 好感度と忠誠度が既にmax [気になる点] 「あのイルゼは邪魔」がヤンデレだとすると 恐ろしい展開がまってそうで怖い
[一言] 太陽王子? 電球の間違いでしょ。 中身スッカスカだし電気がなければ全くの無能だし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ