僕が、全部受け止めてあげるから
「あはは! もう終わりかい?」
「……はい、じょ……」
訓練場に備え付けられている時計の針は、十五時二十二分。
暴走状態となったカレンとの一対一の戦闘を開始してから、既に十分以上が経過したことになる。
『醜いオークの逆襲』では、カレンが暴走によるオーバーヒートで行動不能に陥るまでの時間は五ターン。
現実だとどの程度の時間でそうなるのかが読めないけど、それでも、彼女の身体から放出される湯気の量やおぼつかない言葉遣いを見る限り、その時は確実に近づいていると見ていいだろう。
「それにしても、やっぱりこの“繁長の鉄盾”の性能は破格だよなあ……」
カレンの魔法攻撃をことごとく弾くヒートシールドを見つめながら、僕は感嘆する。
これも『醜いオークの逆襲』において“デュランダル”と並び、イージーモード限定で購入可能となるチート防具だ。
あくまでも盾で受け止めることができた場合という前提条件があるけれど、受け止めさえすれば物理攻撃と火属性魔法は完全防御、その他の属性魔法についても威力半減という、最強の盾。
こんなことを言うのはちょっと癪だけど、オフィーリア曰く僕は防御に関してはかなりの腕前だって褒めてくれたし、結構自信があるからね。
そして。
「…………………………っ」
訓練場の端、カレンのエネミー判定の範囲に入らない位置から、今にも泣き出しそうな表情で……今にも飛び出しそうになるのを、唇を噛みながら必死に堪える、イルゼの姿があった。
時折こうやって僕が来ないように目配せしなかったら、イルゼは間違いなく飛び出し、カレンに襲いかかろうとしただろう。
だけど、いくらイルゼがヒロイン最速を誇るとはいえ、全方位に弾幕を張れるほどの魔法攻撃を放てるカレンとは、相性が悪い。
イルゼだって、防御力はヒロインの中でカレン、ソフィアに次いで三番目に低いから。
あはは、そんな心配そうにしないでよ。
僕は、絶対に負けないから。
「おっと、甘いね」
「…………………………」
ひょい、と盾でパリィし、【ファイアボール】は訓練場の空へ一直線に向かう。
いやあ、カレンが火属性魔法に特化しているおかげで、大分楽だね。
というかさあ……攻撃方法が魔法というより重火器だし、まるでゲームやアニメに出てくる戦闘用の自動人形みたい。
あ、『醜いオークの逆襲』はゲームだった。ただし、鬼畜系同人エロゲだけど。
でも。
「ああもう……イライラするなあ」
あの食堂で、彼女とセルヒオのいざこざに遭遇した時にも感じたこと。
僕は、暴走によって自ら身体を壊しながら戦う彼女の姿が……彼女の境遇が、どうしても歯がゆくて、許せなくて。
前世でゲームをプレイしている時は、『兵器系ロリヒロインって胸熱』なんて呑気なことを考えていたけど、実際に現実として目の当たりにすると、こんな馬鹿な話はない。
だって……カレンというヒロインは、たとえ国王や双子の兄から疎まれ、虐げられていても、家族の一員になりたくて、少しでも自分を見てほしくて、まだ十歳の時に『魔導兵器』の実験体になることを自ら申し出て、そして……って。
「え……?」
突然、カレンの攻撃がピタリ、と止んだ。
彼女を見るが、まだオーバーヒートになった様子も見受けられない。
じゃあ、どうして……。
「……ひとつ、おし……え、て……」
「っ!?」
どういうこと!? なんで暴走状態になっているのに、理性があるんだよ!?
それに、『一つ教えて』って、一体……。
「……どう、して……あなた……は……ずっと、なきそう、な……かお、している……の……?」
「あ……」
ハア……もう、僕は何をやっているんだよ。
彼女はセルヒオに操られた『魔導兵器』で、暴走して、なにがなんでも止めなきゃいけないのに、同情している場合じゃないだろ……。
自分の馬鹿さ加減に、思わず額を押さえる。けど、盾が邪魔だなあ。
まあいいや。
「そんなの……気のせいだよ。それより、まだ僕と戦うのかい?」
「……そ……れ、が……めいれ……い……だから……セル……ヒオ……よろこん、で……くれる……から……」
ああもう、なんなの?
どうしてカレンが、こんな思いをしなきゃいけないんだよ。
本当に、このゲームを作った奴に正座させて、説教してやりたい気分だよ……。
「……こんなことを言うのもなんだけど、君の双子の兄であるセルヒオは、僕を倒したところで絶対に君のことを褒めてはくれないよ?」
「…………………………」
「それに、僕は君に負けるつもりなんてこれっぽっちもないし、放っておいても君は暴走による反動で行動不能になるよね? そうなったら、逆にセルヒオは君を見限ると思うけど」
「……うる……さい」
無表情な彼女が見せる、僅かな怒りの表情。
でも、僕にはその表情が、どうしても泣いているようにしか見えなかった。
「あはは、本当に君って可哀想だよね。家族に相手にされず、ようやくたどり着いた結果が捨て駒のガラクタだもんね」
「……だまれ……だまれ……だまれ……だまれ……だまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれえええええええええええええええええッッッ!」
散々僕に煽られて、壊れたように絶叫する。
ああそうだ、いっそ壊れちゃえ。
壊れて、気づかないふりもできなくなって、そして、吐き出してしまえばいい。
おそらく……カレンが稼働できる時間は、残り数分。
その間は、僕が全部受け止めてあげるから。
君の想いも、悲しみも、苦しみも、口惜しさも、全部。
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