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暴走モードに移行。敵を全て排除する

「ば、馬鹿な……っ」


 結局、炎の槍が一発も被弾しなかったことで、セルヒオは(おのの)く。


 いやいや、ちょっとレベル低すぎじゃない?

 というか、コイツ自身は道具に頼って別に何かしたわけじゃないし、この程度で驚いているのだったら本当に拍子抜けなんだけど。


「っ! …………………………」


 呆れた僕が、『どうするの? これ……』という思いを込めて目配せすると、意図を理解したソフィアは悔しそうに唇を噛む。

 僕が攻撃に関して平凡だということを考えると、これじゃ永遠に試合が終わらない気がしてきた。どうしよう。


 やっぱり当初の予定どおり、棄権してしまおうかなあ……。

 聖女も、僕をメッチャ睨んでいるし。


「ハア……とりあえず、どうしよ……っ!?」


 ――ヒュン。


 突然、僕の頬を極小の【ファイアボール】がかすめた。

 こんな真似ができるのは、一人しかいない。


「…………………………」


 僕のパートナーである、カレンだ。


「ええと……これは、どういうつもりですか?」

「……悪いけど、マスター(・・・・)を傷つけさせるわけにはいかない」


 表情を変えず、淡々と告げるカレン。

 いや、絶対に悪いなんて思ってないだろ。


 そして、彼女が言い放った『マスター』という言葉。

 つまり、ソフィアとセルヒオのどちらか……まあ、セルヒオだろうな。彼がカレンを操り、支配しているということか。


 『醜いオークの逆襲』においても、彼女や『魔導兵』に指示を出す『司令部』と呼ばれるモブユニットがいて、それを壊滅させることで彼女達を行動不能にすることができた。


 なら……手っ取り早く、セルヒオを倒せばいい。

 見た限り、“コラーダ”くらいしか攻撃手段もないみたいだし。


 そういえば、『司令部』もモブユニットでも一、二を争うくらい弱々ユニットだったなあ。

 なら、僕でも簡単に倒せそう。


 とはいえ。


「ああもう! 鬱陶(うっとう)しいなあ!」

「…………………………」


 カレンに魔法攻撃を仕掛けられ、とてもじゃないけどセルヒオを倒しに行けない。

 オマケにセルヒオとソフィアも攻撃してくるものだから、完全に一対三の状態なんだけど。


「せ、先生! これ、いいんですか?」

「え……? そ、そうだ! お前達、攻撃を止めろ! この試合は無効……っ!?」


 あまりの事態に呆けていた教師だったけど、僕の一声で我に返って止めようとするものの、まさかのカレンから魔法攻撃を受けて弾き飛ばされてしまった。


「っ!? カレン=ロサード=イスタニア! 今すぐ止めないと落第にするぞ! セルヒオ=ロサード=イスタニア、それにソフィア=マリー=ド=ベルガ! 二人もだ!」


 さすがにマズイと思った教師陣が、一斉に舞台へと詰めかけ、三人を制止する。

 それを受け、ようやく三人が攻撃を止めた。


「カレン、兄であるセルヒオに加担したい気持ちも分かるが、これは実技試験だ。悪いがカレンについては失格とする。それと、セルヒオとソフィアにも厳重注意だ」

「「…………………………」」


 柳に風とばかりに素知らぬ顔をするカレンとは対照的に、ソフィアとセルヒオは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 さすがにこれは、二人にとっても予想外だったみたいだ。


 と、思ったんだけど。


 ――ニヤ。


 セルヒオが口の端を吊り上げた瞬間、カレンのアメジストの瞳からハイライトが消え、服の(えり)や袖、隙間から湯気のようなものが立ち(のぼ)った。


「っ!? みんな、逃げろおおおおおおおおおおおッッッ!」


 それを見た瞬間、僕は訓練場全体に響き渡るほどの大声で叫ぶ。

 これは……暴走(ぼうそう)状態だ。


 ――ドドドドドドドドドドドドドドッッッ!


 両腕を大きく左右に広げ、先程僕に向けて放った極小の【ファイアボール】を大量に、そして無差別に放った。

 それは、まるで前世にあった武器、ガトリングガンで撃ち放つかのように。


「あ……ぎ……っ!?」

「が、げげ……」


 周囲にいた教師の何人かがカレンの【ファイアボール】の餌食になり、何発も浴びたせいでまるで踊るような動きを見せた後、地面に倒れる。

 今のカレンは暴走(ぼうそう)状態だから、魔法攻撃力は通常の二倍。下手をしたら、倒れた教師達の命が……。


 そう考えるものの、僕も炎の弾丸を弾いて自分の身を守ることで精一杯。

 唯一の救いは、生徒達が逃げ出してくれたことだ。


 その時。


「【リフレクション】!」


 光の壁が展開し、カレンの【ファイアボール】を弾いた。


「ナタリアさん!」

「ルートヴィヒさん、無事ですか!」


 見ると、聖女をはじめ、オフィーリア、クラリスさん、ジル先輩、そして……イルゼがこの場にまだ残っていた。


「みんな! 怪我をして倒れている先生達を、早くこの場から避難させて!」

「っ! ル、ルイ様はどうなさるのです!」

「僕は……この『魔導兵器』、カレン=ロサード=イスタニアを止める!」


 そう言うと、僕はみんなのいる方向とは逆の方向へと駆け出す。


「ほらほらどうした! 僕はこっちだよ!」

「……排除、する」


 ぎこちない動きをしながら、カレンが一歩ずつゆっくりと僕のほうへと向かってくる。

 よし……上手く誘い出しに成功したみたいだ。


 『醜いオークの逆襲』において、暴走状態となったカレンの攻略法の一つに、誘導(・・)というものがある。

 それは、暴走状態のエネミー判定範囲である八マスの範囲に一つのユニットだけを残し、つかず離れずの状態で誘い込んで複数のユニットで一気に叩くというもの。


 これを応用し、僕はカレンを誘導して倒れている教師達から距離を取ったんだ。

 こうすれば、あとは聖女が治療し、イルゼ達が無事に避難させてくれる。


「さて……もう行き止まりみたいだ」


 訓練場の端まで来てしまった僕は、いよいよカレンに向き直る。

 ここから先は、小細工はなしだ。


「さあ、始めよう。僕と君の、二人だけの戦いを」

「……敵……殲滅……す、る……」


 僕は口の端を持ち上げ、(あお)るようにカレンを手招きしてみせた。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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