また関わってるの? うんざりなんだけど
「おおー、派手に飛んだなあ」
「はい」
オフィーリアの剣撃を食らって吹き飛ぶ対戦相手を見て、僕はそんな感想を漏らした。
まあ、二百キロの体重がある僕ですら軽く飛ばされるんだから、僕の三分の一程度の体重しかない者なら、当然もっと吹き飛ぶよね。
「勝者、オフィーリア・フィリップ組!」
勝ち名乗りを受け、悠然と舞台を降りるオフィーリア。
その堂々とした華のあるたたずまいに観客である生徒達が目を奪われる中、試合中も一切活躍せずに空気のように扱われたオフィーリアのパートナー。
その哀愁漂う姿に、喪男の僕は同情を禁じ得ない。
「フフ、どうだ? ルートヴィヒ」
「いやいや、すごかったよ。あんな攻撃、僕も絶対に弾き飛ばされていたと思う」
「謙遜しなくていい。君なら、簡単に受け止めていただろう」
オフィーリアは、不敵な笑みを浮かべる。
あれ? ひょっとして、僕と戦いたがっている? この戦闘狂め。
「……私としては、ルートヴィヒさんとイルゼさんの距離が近いことが気になりますが」
「へ?」
聖女の言葉の意味が理解できず、僕はキョトン、としてしまう。
いやいや、イルゼとの距離って何その指摘。
僕はチラリ、と隣のイルゼを見やるけど、彼女も特に変わった様子はない。
聖女の言う距離感だって、いつもと……うん、ほんの数センチだけ、近いかもしれない。
「ま、まあ、気のせいじゃない?」
「……そうでしょうか?」
しつこく疑いの目を向ける聖女に、僕はとぼけてみせた。
これ以上追及されたら、それはそれで面倒そうだ。
その時。
「ん? あれは……」
生徒達によってできた人混みの中で、あのソフィアと一人の男子生徒が談笑している姿を発見してしまった。
だけどあれは……カレンの双子の兄、セルヒオだよね?
気にし過ぎかもしれないけど、ソフィアが誰かと絡んでいると何かを企んでいるんじゃないかと考えてしまう。
「……イルゼ、あそこにいるソフィアとセルヒオ王子の会話、読み取れる?」
「お任せください」
イルゼは気配を消しながら、二人に近づいていく。
そのあまりに見事な動きに、僕は思わず惚れ惚れしてしまった。
「ルートヴィヒ、どうしたのだ……?」
「ああいや、大したことじゃないんだけどね」
僕はソフィアとセルヒオの会話が気になったのだと、簡単に説明した。
「ふむ……確かあの二人、先程一緒に試合に出ていたから実技試験のパートナー同士なのだろう。なら別に不思議ではないのではないか?」
「ウーン……」
そうは言うけど、僕にはどうも腑に落ちない。
というか、これはもう完全に僕の勘でしかないんだけど。
「それとも、ひょっとしてルートヴィヒはまだ彼女に、その……未練があるのか……?」
「いやいやいやいや! そんなわけないよ! むしろ永遠に関わり合いになりたくないから!」
おずおずと顔を覗き込むオフィーリアに、僕は全力で否定した。
真面目に『醜いオークの逆襲』のバッドエンドフラグを折ろうとしている僕にとって、従者を使って僕の評判をさらに貶めようとしたり、エレオノーラと裏で繋がっていたりしているアイツに、そんな感情が湧くわけがない。
……いや、ちょっとだけ嘘を吐いた。
前世の人格メインの僕自身には一切の感情はないけど、以前のルートヴィヒの記憶には、初めて出会った時のソフィアの面影が今も残っている。
本当に、自分のことながら何に縋っているんだか。
「ルイ様、聞き取ってまいりました」
「イルゼ!」
いつの間にかイルゼが僕の背後にいた。というか、この登場の仕方は心臓に悪いので、普通に声をかけてほしいなあ……って。
「……イルゼ、何かあったの?」
「実は……」
イルゼが、二人の会話の内容を詳細に報告してくれた。
最初は実技試験のことについて普通の生徒と同じように会話していたのが、途中からカレンの話題に切り替わったらしい。
特に、カレンの能力についてセルヒオが第一試合の結果を交えて殊更アピールし、ソフィアが興味深そうに頷いていたとのこと。
「……何より、カレン王女の能力のことを、わざわざ『性能』と表現しておりました」
「ほう? それはおかしな話だな」
「「…………………………」」
興味深そうにするオフィーリアとは対照的に、僕と聖女は無言になってしまう。
イルゼの報告を要約すると、これはイスタニア魔導王国がベルガ王国に売り込みをしているということなのだから。
「それと……『第三試合では、さらなる性能を披露する』とも言っておりました」
「そっか……」
次の試合で、カレンが何かをやらかすのは間違いなさそうだ。
それも、対戦相手が危険に晒されてしまうほどの。
どうする……? 第二試合と同じように、開始直後に棄権するか……?
「ルートヴィヒさんが、今考えておられるようにしたほうがいいと思います」
「僭越ながら、私も同意見です」
普段はいがみ合う聖女とイルゼが、真剣な表情で告げた。
やっぱり、そのほうがいいよね……。
「分かった。次の試合も、開始早々に棄権するよ」
僕の言葉に、イルゼと聖女が頷く。
オフィーリアはカレンの正体を知らないので不思議そうに首を捻るも、クラリスさんは空気を読んでなんとなく理解したようだ。
あとは、一応念のため。
「さあて……僕、ちょっとやることを思い出したから、ちょっと席を外すね」
「失礼いたします」
「ん? あ、ああ……」
キョトン、とするオフィーリア達を置いて、僕はイルゼと一緒にその場から離れた。
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