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二人きりの夜、二人だけの約束

「……イルゼ、待った?」

「いえ、私も今来たところです」


 月明かりの下、イルゼは優雅にカーテシーをして出迎えてくれた。

 いよいよ期末試験を明日に控え、実技試験に向けた最後の追い込みということで、イルゼにトレーニングに付き合ってもらうことにしたんだ。


 もちろん、オフィーリア達には内緒で。


 元々、僕のトレーニング方法は特殊だし、ずっと付き合ってくれたイルゼがいないと効果は期待できないからね。

 僕の我儘(わがまま)で付き合わせることになったのは申し訳ないと思うけど、夏休みにそのお返しはするということで、許してもらうことにしよう。


 ……なんて言い訳じみたことを考えてみたけど、結局は僕がイルゼと二人きりになりたかっただけ、なんだけどね。


 あのボルゴニア王国の一件からずっと、試験勉強なんかもあって二人きりになれる時間がほとんどなかった。

 約束していたフラペチーノを二人だけで一緒に飲みに行くのだって、まだ果たせずじまいだし……って。


「あ……イ、イルゼ……?」

「い、いえ……なんでもございません」


 いつの間にか僕の顔をおずおずと(のぞ)き込む彼女に気づくと、イルゼはふい、と顔を逸らしてしまった。

 僕、変な顔でもしていたんだろうか……気をつけよう。


「さ、さあて、それじゃ早速始めようか」

「はい」


 ということで、僕はイルゼとともに実技試験を想定したトレーニングを開始する。

 この場合、重要となるのはパートナーとの連携なんだけど……うん、そんなものは一切期待できないので、主に一対多での戦闘について重点的に行った。


 だけど。


「あ、あははー……イルゼだから、どうしても君を当てにしちゃうね」

「それは仕方ないかと」


 苦笑する僕に、イルゼは澄ました表情で頷く。

 でも、口元が少し緩んでいるのは気のせいじゃないはず。


 もう、イルゼとは一年以上の付き合いだから、あまり感情を見せない彼女だけど、僕には手に取るように理解できる。

 ゲームをプレイしていた時には全然分からなかったけど、本当の彼女はこんなにも表情豊かで、ゲームの彼女より何倍も可愛らしい。


 こんなにも素敵なイルゼを、『醜いオークの逆襲』のシナリオではあんなに酷い仕打ちを……酷い仕打ち、なのかなあ? オープニングで恍惚(こうこつ)の表情を浮かべていたし。


 い、いや、あの表情もルートヴィヒがイルゼを壊した末の姿なんだと考えれば、やっぱり酷いことだよ。

 僕は絶対に、そんな真似はしないぞ。


「それよりも、そろそろ休憩にいたしますか? かれこれ二時間は休みなくトレーニングをしておりましたので」

「あ、そうだね」


 中庭のベンチにハンカチを敷いてイルゼを座らせ、その隣に僕も座る。

 正直このベンチ、木製なのでいつ潰れるかと思うとなかなか緊張感があるけど、今はイルゼに集中しよう。


「それにしても……ハア、実技試験のパートナーをこちらで自由に組んでよかったのなら、イルゼと一緒だったのになあ……」


 僕は溜息を吐き、夜空を眺める。

 この帝立学院での生活についてはゲーム本編とは関係ないため、僕も展開の予想がつかないというのが正直なところだ。


 だから明日の期末試験なんかも、色々と予想外のことも覚悟しておかないと。


「……その場合、ルイ様はオフィーリア様やナタリア様、それにクラリス様とパートナーを組むという選択肢はないのですか……?」

「え? あの三人と?」

「はい」


 んー……真面目に考えると、オフィーリアはヒロイン最強の攻撃力を誇り、聖女は魔法に関して最強の一角を担っている。防御特化型の僕との相性は悪くないだろう。

 クラリスさんにしても、モブ親衛隊とはいえ攻守にバランスが取れている上に、空気を読むことに非常に長けているので、連携だって期待できる。


 でも。


「悪いけど、あの三人という選択肢はないよ」

「でしたら、ジルベルト様……」

「仮にジル先輩が同学年だったとしても、答えは同じかな」


 答えを聞いたイルゼがジル先輩を引き合いに出そうとしたので、僕は先んじて答えた。

 まあ、要するに。


「僕がパートナーを組むのは……いや、組みたいのは、やっぱりイルゼだけだよ」

「あ……」


 そうだとも。

 僕のことを誰よりも理解してくれて、そして、前世のゲームを含め、誰よりも理解しているのはイルゼなんだ。


 ……まあ、イルゼに拒否されたらそれまでなんだけどね。いくら主人だからって、無理強いなんて絶対にしたくないし。

 だからお願い、その時はお情けでも何でもいいので、僕のパートナーになってください。


「……私も」

「…………………………」

「私も、あなた様以外の方と、パートナーになどなりたくはありません。私は、あなた様の隣だけがいいのです……」

「イルゼ……」


 彼女の藍色の瞳が、淡い月の光と涙でキラキラと輝く。

 その美しさも相まって、とても幻想的で、綺麗で、目が離せなくて……。


「イルゼ……期末試験が終わったら、夏休み……始まるよね……」

「はい」

「その……もしよければ、僕と二人きりで……一緒に、過ごしてほしいんだ」

「はい……私はいつも、ルイ様のお(そば)に……」


 僕は“醜いオーク”で喪男で、本当はこんなことをするのは似合わないし、相応しくないと思う。

 でも……それでも……。


「イルゼ……」

「ルイ、様……」


 今、この時だけは、イルゼを抱きしめたいんだ……。


 誰よりも愛しい、イルゼを。

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