年齢不詳な美人教皇、アグリタ=マンツィオーネ
「まあまあ、間に合って何よりですね」
どこか気の抜けたような、のんびりした女性の声。
僕は、この声が誰のものなのか知っている。
それは。
――ミネルヴァ聖教会教皇“アグリタ=マンツィオーネ”、その人だった。
その姿、『醜いオークの逆襲』のナタリアの思い出の回想シーンで見た教皇のスチル、そのままだ。
ホワイトブロンドの髪を巫女さんのように垂髪にまとめ、開いているかどうか分からないような切れ長の垂れ目。
最強クラスの悪魔的スタイルを持ち、見た目二十代前半……いや、イルゼと同い年と言っても通用するくらいの顔立ちであるものの、その年齢については不明となっている。
まあ、女性の年齢を詮索するのは、マナー違反なのかもしれないけど。
だけど、どうしてここに?
いくら今回の一件が教会の不祥事だからって、わざわざ教皇自ら足を運ぶとは思わなかった。
「それで……話は伺いましたが、私の可愛い聖女ナタリアに罪を着せ、捕らえようなどとしたのには、相応の理由がおありなのでしょうね?」
「「「「「っ!?」」」」」
顔はにこやかなのに、教皇のプレッシャーが半端ない。
連中も、暑苦しい顔から大量の冷や汗を流しているし。
「まあまあ、こちらとしてもナタリアは関係ないという証拠をお持ちしましたので、ゆっくりと話し合いましょう? ええ、それはもうゆっくりと」
「「「「「…………………………」」」」」
こうなると、側近の連中は蛇に睨まれた蛙みたいになっている。
だけど……教皇の言う証拠というのは……?
「うふ♪ 彼等をここに」
「はっ!」
教皇の指示を受け、聖騎士の一人が縄に縛られた中年の男が十人ほど前に出てきた。
あ、ひょっとして。
「あ、あの、教皇猊下。この者達はロレンツォ枢機卿とその一味……でしょうか?」
僕は右手を上げながら、おそるおそる尋ねた。
「まあまあ、あなたはバルドベルク帝国のルートヴィヒ皇太子殿下でよろしかったかしら?」
「は、はい」
「うふ♪ ナタリアがお世話になってます」
「あ、い、いえ、こちらこそ……」
お辞儀をする教皇に、僕もつられてお辞儀で返す。
「ルートヴィヒ殿下のお見込みのとおり、この者達はミネルヴァ聖教会に泥を塗った不届き者ですわ」
「やっぱり」
「本当はもっと早くこの者達を引っ張ってきたかったのですが、全員を捕らえるのに少々手間取ってしまいました」
「そ、そうですか……」
頬に手を当てながら、眉根を寄せる教皇。
だけど、その言葉を額面どおりにとらえるわけにはいかない。
「それで、こうして愚かな者達をわざわざ連れてきましたし、今回の件に関わった方々が大勢いるようですので、せっかくですからこの場で事の顛末を全て明らかにしてしまいましょうか」
教皇は『それがいいわ』と両手を合わせ、ニコリ、と微笑んだ。
そんな彼女の美しさに、側近の連中が目を奪われているし。チョロイな、コイツ等。
僕? 僕はさすがに守備範囲外だよ。
オマケに、聖女ですら持て余しているのに、さらに面倒なキャラなんて相手にしていられないよ……って。
「ナタリアさん、どうしたの?」
「あ……いえ、少し意外でした。今まで、男性の方は教皇猊下を一目見たら、必ずといっていいほど心を奪われるんですけど……」
「そうなの?」
「はい……」
いつの間にか傍に来ていた聖女が、胸を撫で下ろしながら頷く。
この反応を見る限り、本当に男連中は魅了されていたんだろうなあ。
それは置いといて、どうして聖女がそんなことを心配するのかな?
「さあ、ロレンツォ枢機卿……いえ、今は主ミネルヴァに背いた、ただのロレンツォですね。さあ、早く説明なさい」
「…………………………」
「まあまあ、恥ずかしくて言えませんか? でしたら、私が代わりに語りましょう。あなた方の犯した所業を」
教皇は、今回の顛末の全てを詳細に語り始めた。
教会内での地位を盤石のものとし、なおかつ教皇以上の支持を集めるため、ロレンツォ一派は信徒の少ないボルゴニア王国に目をつけ、布教活動を行うことにした。
だけど、単なる布教活動に留まっていては、とてもじゃないけど教会の教えが行き渡るのに時間がかかり過ぎてしまう。
なので、手っ取り早く信徒獲得するために、ロレンツォ達は考えた。
『だったら、ボルゴニアの民に試練を与え、私達がそれを救済しよう』
と。
ロレンツォ一味はある国を通じて『石竜の魔石』を入手し、ボルゴニア王国第二の都市であるポルガの街に目をつけると、その用水池に投げ込んだ。
あとは、石化に苦しむ民を救済しつつ、用水池が汚染されていることを教会に仇なす者の仕業としてでっち上げる。
ここまでがコイツ等の企みのワンセットで、そのことは僕達も理解している。
ついでに言えば、救済にかこつけて聖女を亡き者にしようとしたというのもあるけど。
「うふ♪ 面白いのは、ロレンツォ達の『石竜の魔石』の入手方法です」
「と、というと?」
「ロレンツォ達はあろうことか、ベルガ王国から『石竜の魔石』を購入したんです。そのベルガ王国も、ダルタニア王国から購入したようですが」
……まさか、ここでもベルガ王国の名前が出てくるとは思わなかった。
ディニス国王の話では、目の前にいる側近の連中もベルガ王国の王族である先代王妃の支持者だったということらしいし、とても偶然とは思えないんだけど。
「ルートヴィヒ殿下、あなたが今お考えのとおりだと思いますよ?」
「っ!?」
教皇が、いつの間にか僕の顔を覗き込んでいた。
な、なんだか心を読まれているようで、気持ち悪い。
そして。
「うふ♪ そう……この国の貴族にあてた手紙が、ロレンツォ達の屋敷などから発見されました。もちろん、その反対にボルゴニアの貴族からロレンツォ達にあてた手紙も」
教皇は、とどめとなる事実を言い放った。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!




