モブ聖騎士との一騎討ち
「……知りたくば、腕ずくでこい。この“醜いオーク”風情が」
バティスタは、鞘からゆっくりと剣を抜いた。
どうやらコイツは、僕達と戦うことを選択したみたいだ。
「いいのかい? こっちはイルゼ、オフィーリア、それにクラリスさんがいる。お前一人じゃ相手にならないことくらい、分かるよね?」
「舐めるな。俺は西方諸国に名を轟かす、ミネルヴァ聖教会の誇る聖騎士だぞ」
いや、何を言っているんだろう。
聖騎士は上位ユニットではあるけれど、所詮はモブだよ? モブ。
メインヒロインのイルゼやオフィーリアの足元にも及ばないんだけど。
「まあ、“醜いオーク”の貴様は、俺のように一人で戦うことなどできんだろうがな」
嘲笑を浮かべ、煽るバティスタ。
ああ、なるほど。僕を煽って、一対一に持ち込もうとしているのかな?
「貴様にその度胸があるなら、一対一で相手してやってもいいぞ? まあ、所詮は“醜いオーク”、そこの従者とオフィーリア殿下の陰に隠れるくらいしかできんだろうがな」
「貴様!」
「言わせておけば!」
いやいや、なんでイルゼとオフィーリアが挑発に乗っているんだよ。
コイツが何を言ったって、相手にしなければいいだけなのに。
とはいえ。
「いいよ」
二人を制止し、僕は表情も変えずに頷いてみせた。
「ほう……いいのか? 貴様ごとき、この俺の相手ではないぞ?」
「そんなこと、やってみないと分からないだろ」
「いいや、分かる。所詮、貴様の剣は防御のみ。それではこの俺に勝つことは無理だ」
得意げに語るバティスタを、僕はどこか呆れながら見ている。
まあ、コイツの言うとおり、攻撃に関してはからっきしではあるんだけど
「ルイ様が手を煩わせることなどございません。このイルゼめに、目の前の不遜な男を消せと、そうお命じください」
「いや……コイツとは、僕が戦いたいんだ。だからイルゼは、僕を応援してよ」
「で、ですが……」
「イルゼ、ルートヴィヒの好きにさせてやるんだ。なあに……ルートヴィヒなら、このような輩に後れを取るなど絶対にあり得ないさ」
納得できないイルゼを説得し、オフィーリアがこちらを向いて微笑んだ。
そんなに信頼してくれるのは嬉しいけど、後れを取った時はごめんね。
「フン……まあ、度胸だけは買ってやる。それと、この俺が勝ったら貴様等は手を引け」
「あー、言うと思ったよ。だけど、僕が勝ったら、全部吐いてもらうから」
「プ……ハハハハハ! それだけは絶対にあり得ん! あり得んが、いいだろう!」
馬鹿にしながら腹を抱えて笑うモブ聖騎士。
イラっとするけど、そんな未来が待っていそうで、素直に反論できない。
まあ、負けたら負けたで、そんな約束は反故にするけど。
「じゃあ、始めようか」
僕は双刃桜花を鞘から抜き、切っ先をバティスタへ向ける。
「フン……身の程を分からせてやるッッッ!」
その言葉を合図に、モブ聖騎士が剣を構えて突進してきた。
なお、こうなることも想定してだと思うけど、バティスタは甲冑を着込んでいる。いや、やることが小さい。
――ギインッ!
「……これくらいは受けられるか。なら、これはどうだ!」
初撃を防がれたことが気に入らないのか、バティスタが少し顔を真っ赤にして連続攻撃を繰り出してきた。
だけど……うん、コイツと手合わせしたのは初めてだけど、そのー……オフィーリアと比べたら一撃一撃が軽いし、イルゼのような速さもないし、全然大したことないよね。
同じモブユニットのクラリスさんだって、もっと攻撃のバリエーションが工夫されていたりして、全然強いのになあ。
「バティスタ……これだけは今教えてくれ。どうして、ナタリアさんを裏切った」
「っ!」
どうやらこの質問が逆鱗に触れたらしく、モブ聖騎士の攻撃が勢いを増した。
それでも、オフィーリア達の足元にも及ばないけど。
すると。
「……貴様が」
「? 僕?」
「貴様が! 聖女様をたぶらかしたからだ! あの御方は女神ミネルヴァの御使いにして、この世界で最も崇高な唯一の存在! なのに……なのに、貴様が穢したからだろうがああああッッッ!」
「はあああああああ!?」
バティスタのとんでもない発言に、僕は思わず声を上げた。
いやいやいや、コイツ、何言ってんの!?
いくら聖女がビッチとはいえ、僕はまだノータッチだよ!?
「……ルイ様」
「そ、そうなのか……?」
待って待って!? イルゼもオフィーリアも、そんな目で見ないで!?
クラリスさんは……うん、苦笑してる。やっぱり色々と空気を読んで理解してくれるのは、彼女だけだよ……。
「デ、デタラメ言うなよ! イルゼに変に勘違いされるだろ!」
「何を言う! 貴様と関わってから、あの御方は変わってしまわれた! 聖女としての慈しみも、まなざしも、微笑みも、いつしか貴様にだけ向けるようになったのだぞ!」
鍔迫り合いで押し込もうとするバティスタだけど、僕は見た目こそ痩せているとはいえ、“醜いオーク”よろしく二百キロもあるんだよ? ヒロインでもない、ただもモブでしかないオマエじゃ僕を動かすのは無理だよ。
だけど……それって勝手にコイツが勘違いして、逆恨みして、腹いせに聖女を死の淵に立たせて、素知らぬ顔で心配するふりをして。
馬鹿だなあ。
本当に、馬鹿だよ。
――ギャリッ!
「っ!?」
「この……っ! フザケルナアアアアアアアアアアアアッッッ!」
渾身の力でバティスタを吹き飛ばし、僕は大声で叫んだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!




