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『石竜の魔石』、回収完了

「(これ……だ……っ)」


 全身の七割ほどが石化し、無理やり足を引きずってたどり着いた場所には、禍々しい紫色の淡い光を放つ直径三十センチほどの球体を発見した。

 あれこそが、『石竜の魔石』だろう。


 僕は袋からありったけの『吸魔石』を取り出して口に含み、両手にも抱える。

 あははー、石化と解除が交互に目まぐるしく変化して、僕の動きがメッチャギクシャクしているし。


 でも……うん、これなら何とかなりそうだ。


 僕は石化していたほうの足が動くことを確認し、構えて『石竜の魔石』を見据えると。


「(うおおおおおおおおおおおおおおッッッ!)」


 目標へ向け、一気にダッシュした。


 全身が石化でバッキバキになりながらも、勢いのついた二百キロの身体は『石竜の魔石』に突撃する。


「(あと……少、し……っ)」


 口の中の『吸魔石』を噛み砕いてしまうほど食いしばり、僕は……とうとう『石竜の魔石』を両腕に抱えた。

 それと同時に、命綱を引っ張る。


 あとは、二人が僕を引き上げて……くれ、る……はず……。


 石化が一気に進んでしまい、僕は意識を失いそうになる。

 あ、あは、はー……ひょっとして、間に合……。


 ――ザバアッッッ!


「っ! ルートヴィヒ! ルートヴィヒイイイイイッッッ!」

「ルートヴィヒさんッッッ!」


『石竜の魔石』が僕の両腕から離れ、ゴロリ、と地面に転がり、オフィーリアとクラリスさんが僕の名前を叫ぶ。

 どうやら僕は、賭けに(・・・)勝った(・・・)みたいだ。


「あ……あ……」


 声を絞り出そうとするけど、石化が激しいため、全然声にならない。

 もう、仕方ないなあ……。


「ルートヴィヒ! ルートヴィヒ! この……馬鹿者が……っ」


 ああもう……石化した身体をそんなに強く叩かないでよ……。

 しかも、脳筋イケメンヒロインのくせに、そんなに泣きそうな顔しちゃって……。


「クラリス! 全部の『吸魔石』をルートヴィヒに与えるんだ! 早く!」

「はい!」


 う、うわー……全身『吸魔石』まみれで顔だけ出したこの状態、なんだかシュール。

 だけど、体内にある石竜の魔力が一気に浄化されていくのが分かる。


 それに合わせて、顔の表情もようやく少し動かせるようになった。


「オ、オフィーリア……さすがにこの量は、やり過ぎじゃない?」

「っ! ルートヴィヒ!」


 心配しないようにできる限り明るい声でおどけたのに、オフィーリアの黄金の瞳が涙で(あふ)れてしまった。

 彼女の涙なんて、『醜いオークの逆襲』でルートヴィヒに凌辱されている時だって、見せたことがないのになあ……。


「心配……したんだぞ……っ」

「あはは、ごめんごめん」


 胸に(すが)りついたオフィーリアの輝く黄金の髪を、僕はようやく動くようになった右手で優しく撫でた。


 その時。


「ルイ……様……?」

「あ……」


 ヤバイ。

 ヤバイヤバイヤバイ。


 オフィーリアに抱きしめられているところ、イルゼにバッチリ目撃されちゃったよ!?


「ルイ様!」


 一気に駆けたイルゼが、オフィーリアを押し退けるようにして抱きついてきた。


「もう……もう……! どうしてあなた様は!」

「え、ええと、これには色々と事情がありまして……」


 オフィーリアとのことについて必死に言い訳を考えるものの……普通に詰んでるよね。どうしよう。


 僕達は決してやましいことをしていたわけじゃないってオフィーリアに説明してもらおうと、必死に彼女へ目配せする。


「グス……ルートヴィヒはポルガの街を救うために、自ら池の中に入って『石竜の魔石』を……っ」


 いや、説明してほしいのはそっちじゃなくて、君が僕に抱きついたことについてだね……って!?


「ルイ様は、そんなに私を困らせたいのですか……? そんなに、私を悲しませたいのですか……?」


 オフィーリア同様、藍色の瞳からぽろぽろと涙を(こぼ)すイルゼに、僕は何も言えなくなってしまう。


「……ごめん」

「もう……もう二度と、このようなことはなさらないでください……私は、あなた様がいなくなったら、私は……っ」


 かろうじて謝罪の言葉を声にすると、とうとうイルゼは肩を震わせ、嗚咽(おえつ)を漏らしてしまった。

 うん……彼女が望むとおり、こういうことがないようにオフィーリアにはちゃんと釘を刺しておこう。


 多分オフィーリアも脳筋な性格なので、そういう(・・・・)こと(・・)に疎いだろうし、同性の友人感覚でこういうことをしていると思うから。

 せめてもう少し、男女の関係というか、機微というか、そういうことに敏かったらいいのになあ。僕も喪男のくせに、どの口が言っているんだって話ではあるけど……って。


「え、ええと……クラリスさん?」

「……ルートヴィヒさん。おそらく、そういう(・・・・)ことじゃ(・・・・)ない(・・)と思います」


 何かを察し、呆れた表情でかぶりを振るクラリスさん。

 お願いですから、そんな残念なオークでも見るようなまなざしを向けないでください。


「グス……ルイ様! 聞いていらっしゃるのですか!」

「は、はい!」


 その綺麗な顔を涙で濡らしながら怒るイルゼは初めてなので新鮮に思いつつも、女性関係には絶対に気をつけようと心に誓った。


 ……まあ、僕なんかが女性関係を心配する必要なんて、本当はないんだけどね。


 あははー…………………………ハア。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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