みんなでポルガの街を救うぞ
「それで、『石竜の魔石』に汚染された水を飲んで石化した人達は、助からないのですか……?」
「いや、もちろん助ける方法はある」
その答えを聞き、みんなは安堵の表情を浮かべた。
当たり前だけど、『石竜の魔石』に限らず石化状態自体は一般的なデバフだし、ルートヴィヒ側のユニットだって石化状態になったりする。
だから、それを回復させるアイテムも当然あるわけで。
「そもそも『石竜の魔石』というのは、まさに石竜の魔力を体内に取り込んだことによる副作用みたいなものなんだ。だから、その魔力自体を吸い取ってしまえば、石化も回復するはずだよ」
なお、ゲームでは『吸魔石』と呼ばれる石ころみたいなものこそが、石化をはじめとした魔法による状態異常系の回復アイテムだった。
言っとくけど、決して針なんかで回復したりはしないからね?
ただ。
「……今回は、ポルガの街の多くの住民が石化してしまっているから、全員助けられるだけの『吸魔石』を確保できるか……」
「うむ……」
それを聞いたみんなは、また表情を曇らせる。
全員を救えればいいけれど、さすがにそこまで虫のいい話なんてない。
僕達は、できる限りのことをするしかないんだ。
すると。
「……ねえ、ルー君」
「ジル先輩、どうしました?」
「ボク……実家に帰って、父様にかけ合ってみる。『ありったけの『吸魔石』がほしい』って」
ずっとうつむいていた顔を上げ、ジル先輩が僕をジッと見つめる。
エメラルドの瞳に、決意を湛えて。
ああ……多分、ジル先輩も気づいてしまったんだろう。
ボルゴニア王国を苦しめている『石竜の魔石』は、ガベロット海洋王国が犯人に売りさばいたものだということに。
だって、『石竜の魔石』を扱っているのなんて、“死の商人”であるガベロット海洋王国以外あり得ないから。
「……分かりました。ジル先輩が『吸魔石』を手に入れてくれること、信じて待ってます」
「っ! う、うん!」
僕はジル先輩に拳を突き出すと、彼もまた、拳をコツン、と合わせた。
◇
「……ジルベルト殿が、無事『吸魔石』を持ち帰ってくれるといいのだがな……」
ポルガの街の港から、ガベロット海洋王国へ向けて出発した船を眺めながら、オフィーリアがポツリ、と呟いた。
「こればかりは、ジル先輩を信じて待つしかないよ。僕達も帝国やブリント連合王国に要請して、できる限りの『吸魔石』を確保できるように動こう」
「ですがルイ様、それであればボルゴニア王国やミネルヴァ聖教会の方々に、まずは病の原因についてお話ししておいたほうが……」
「こんな話、みんなだから信じてくれたけど、ボルゴニア王国や教会が信じてくれるとは思わないよ。それなら、あてにせずに今は僕達だけで動いたほうがいい」
なんてもっともらしいことを言ったけど、本当は違う。
さっきも説明したように、『石竜の魔石』を仕掛けた連中が必ずいて、それが何者なのか、僕達は分からないんだ。
なら、『これは『石竜の魔石』で汚染された水を飲んだことが原因なので、『吸魔石』で治療しましょう』なんて言ったら、その連中に逃げられる可能性だってある。
……いや、最悪僕達が狙われる可能性だって否定できない。
本当は、苦しんでいるポルガの街の住民のためにあらゆる手を使って動くべきだってことは理解している。
でも……ごめん。それ以上に僕は、大切な人達を危険な目に遭わせたくないんだ。
だから、まずは危険性の芽を全部摘んでからじゃないと。
そのせいで、多くの人々が苦しみ、死んでいくことだってあるかもしれない。
その時は……僕も、罪を背負うよ。
「そういうことだから、まずは帝国とブリント連合王国にそれぞれ連絡して、早急に『吸魔石』を送ってもらおう。それと……」
僕はイルゼに、そっと耳打ちをする。
「……かしこまりました」
「君にお願いばかりで、本当に申し訳ない……」
「ルイ様、そのようなお顔をなさらないでください。私はあなた様にこんなにも必要とされて、心から嬉しく思っております」
そう言うと、イルゼはまるで夜空に輝く月のような、柔らかい頬笑みを見せてくれた。
ああ……心が温かい、なあ……。
「うん……じゃあ、すぐに動こう!」
「うむ!」
「「はい!」」
僕達はまず、それぞれゲートで自国に戻り、『吸魔石』を送ってもらうよう手配することにした。
ブリント連合王国のゲートに出た時は、あの怖いリチャード国王がメッチャ待ち構えていたけど、逃げ……ゲフンゲフン。さすがに相手にしている余裕もないので、すぐに帝国へ転移した。
そして。
「ふむ……ボルゴニア王国に、『吸魔石』をな……」
「はい。ここで帝国が恩を売れば、今後を考えれば色々と有利になるかと。何より、外交は近攻遠交こそが基本ですから」
この『近攻遠交』というのは、隣接している国に対して侵略をし、離れている国とは友好的にするというもの。
僕は前世で『三国志』や『史記』が好きだったので、こういうことには詳しいのだ。
「ハハハ、まさかお主がそのように聡明だったとはな。よかろう、好きにするがよい」
「ありがとうございます!」
よし! オットー皇帝の了承は得たぞ!
さすがはルートヴィヒに甘々なだけのことはある!
「ルイ様、お疲れ様でした」
「イルゼ、こっちは上手くいったよ」
「さすがはルイ様です。そして……向こうはお任せください。あなた様が与えてくださった任務、必ず果たしてみせます」
「うん……だけど、無理だけは絶対にしないでね? 僕にとって、君よりも大切なものなんてこの世界に何一つないんだから」
いや、違うね。
前世だった向こうの世界も含めて、イルゼが一番大切だよ。
「本当に、あなた様は……っ」
「あ、あはは……」
僕の手をギュ、と握りしめ、藍色の瞳を潤ませるイルゼ。
あまりにも綺麗な彼女に見つめられ、僕は照れ笑いをした。
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