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そんな君だから、助けたいって思ったんだ

「こ、これは……」


 ブリント連合王国では色々とハプニング? があったものの、無事にボルゴニア王国にたどり着いた僕達は、案内されてやって来た、原因不明の病気が蔓延しているボルゴニアの都市、“ポルガ”の街の状況を見て絶句した。


 ボルゴニア王国でも二番目の都市であるにもかかわらず、ポルガの街の大通りには人影は一切見当たらず、まさにゴーストタウンと化している。


「皆様、こちらです」

「う、うん……」


 その大通りを進んで街の中央へ来ると、広場がテントで全て埋め尽くされ、中からはうめき声のようなものが聞こえてきた。


「……聖女様は、あちらの建物に」


 僕達は建物の中へ入り、聖女が療養している部屋へと入る。


「う……うう……」

「「「「「っ!?」」」」」


 シーツを握りしめ、うめき声を上げる聖女を見て、思わず息を呑む。


「ルートヴィヒ、それにオフィーリア殿下……ひょっとして、俺の手紙を受けて……?」


 部屋の隅で椅子に座りながら見守っているバティスタが、僕達に気づいておずおずと声をかけてきた。


「ああ……それで、ナタリアさんはどうなの……?」


 僕の問いかけに、バティスタは力なくかぶりを振る。

 どうやら症状は全く改善されていないみたいだ。


「ねえ、バティスタ。ナタリアさんの病状もそうだけど、原因不明の病気について、詳しく教えてくれないか?」

「……部屋を変えよう」


 バティスタの後に続き、僕達は隣の部屋へと移動した。

 ベッドが一つと私物があるところを見ると、ここは彼の部屋みたいだ。


「聖女様が例の病に(かか)られたのは、三週間前。主な症状は高熱と嘔吐(おうと)、それに……身体の皮膚が石化する(・・・・)というものだ」

「石化!?」

「ああ……そして、全身の皮膚が石化すると、患者は死に至る」


 バティスタの話では、二か月前に石化した住民が現れたことが始まりで、そこから爆発的に患者が増え続け、今では街のほぼ全員が、この病に(かか)っているとのことだ。


「……この病が万が一他の街……最悪、王都にまで広がってしまえば、この国は終わりだ……いや、さらに隣接する国へも拡大したら、世界はとんでもないことになる……っ」


 重々しく告げたバティスタは唇を噛み、目を伏せる。


「ルートヴィヒ……どうする?」

「どうするって、それは……」


 オフィーリアに問いかけられ、僕は口を濁してしまった。


 それよりも。


「……バティスタは、その原因不明の症には(かか)っていないんだよね?」

「ああ……幸いなことにな」

「そう……」


 どうやら、そういう(・・・・)ことらしい(・・・・・)


「……確かにこれは、由々しき問題だね」

「そのとおりだ。だからこそ俺は、恥をしのんで(・・・・・・)貴様に支援要請を依頼したのだからな」


 ハア……相変わらず、感じ悪いなあ。

 今は聖女が()せっていて、たしなめる者がいないから余計にね。


「とりあえず、僕達にも考える時間がほしい。それと……もう一度、ナタリアさんに会わせてよ」

「貴様が聖女様に面会など、言語道断……と言いたいところだが、いいだろう。今回は特別だ」


 僕達は聖女の部屋へ戻ると、彼女の(そば)に寄る。


「っ!? ルイ様、いけません!」

「イルゼ……大丈夫だよ」


 聖女に触れようとして慌てて止めるイルゼに、僕はニコリ、と微笑んだ。


「ハア……ハア……あ……ル、ルートヴィヒ……さん……っ」


 僕を見て、聖女が無理に身体を起こそうとする。

 彼女の身体は、その綺麗な顔の一部まで石化していて、見ているこっちが苦しくなるほど痛々しい。


「ナタリアさん、無理しないで。無理しちゃ駄目だよ」

「う……うふふ……情けない、姿……を……お見せして、しまい……ました……」


 そう告げる聖女の瞳から、一滴(ひとしずく)の涙が(こぼ)れ落ちた。

 そんな彼女の表情に、声に、瞳の色に、その何もかもに、僕は既視感を覚える。


 そうだ……石化の病はともかく、僕はこんな彼女の姿を見たことがある。

 もちろん、『醜いオークの逆襲』で。


 聖女の従順度が八十パーセントを超えると、ミネルヴァ聖教会から聖女の称号の剥奪(はくだつ)と破門を言い渡されるイベントが発生し、その後調教を行うと、聖女は憎むべき相手であるルートヴィヒにポツリ、と呟くのだ。


『……聖女でなくなった私は、何の価値もない、ただの(・・・)ナタリア、ですね』


 あの時の聖女のスチルも、今みたいに瞳に光を失っていたな。

 確か……キャラのプロフィールでは、元は貧しい農家の娘で、今の(・・)教皇に見出されて聖女になったはず。


 なら……聖女の役目を果たせないことは、彼女が最も負い目に感じることだろう。

 そして、そんなプレッシャーに負けたからこそ、聖女は悪魔ディアボロに身を捧げてしまったのだから。


 さて……それで、どうしようか。

 残念ながら、ゲームでは聖女の抱える闇が晴れるようなイベントはなかった。


 つまり、僕には彼女の心を救ってやる手段を持ち合わせていない。

 でも……うん、僕はモブ聖騎士からの手紙を読んだ時に、誓ったじゃないか。


 ――大切な仲間(・・・・・)である聖女を、絶対に助けると。


「……情けなくなんか、ないよ」

「ル、ルート、ヴィヒ……さん……?」

「僕は、君がすごい女性(ひと)だって知ってるよ。いつも聖女(・・)であろうとして、頑張って、努力して、このボルゴニアにも、危険を顧みずに救済に走って」

「…………………………」

「ね、ナタリアさん。そんな君だからこそ、僕達はここにやって来て、手助けしたいって思ったんだ。聖女だからじゃない。僕達の大切な仲間、ナタリア=シルベストリだから」

「っ!?」


 そう告げた瞬間、聖女はサファイアの瞳を見開いた。


「だから……あとは僕達に任せて。君が救おうとしたこの国を、僕達もできる限り救ってみる。そして……君のこの身体は、僕達が絶対に治してみせるから、ね?」

「は、い……」


 息が荒く、球のような汗を額に浮かべる聖女。

 でも、彼女のサファイアの瞳からは闇が消え、(あふ)れる涙と一緒に精一杯の笑顔を見せてくれた。


 そんな彼女のまだらに石化してしまった手を、僕は誓いを込めて優しく握りしめた。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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