いざ、ボルゴニア王国へ
「そんな……」
その二週間後、僕達の元に届いたのは、聖女がその原因不明の病に侵されたとの知らせだった。
「そ、それで、バティスタの手紙には何と?」
「あ、う、うん……」
オフィーリアに急かされ、僕は改めて手紙に目を通す。
そこには、原因不明の病の治療のための有効策は見つかっておらず、患者が日を追うごとに増え続けていること。
病床に臥せる聖女は連日高熱にうなされ、このままでは命の危険があること。
「……そしてバティスタからは、僕とオフィーリアを通じてバルドベルク帝国及びブリント連合王国に支援要請をしてほしい、と」
「そう、か……」
要請先にガベロット海洋王国が含まれていないのが気に入らないけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
あの聖女がそんな目に遭っている以上、それを助けないでどうするんだよ。
「ルイ様、いかがなさいますか?」
「うん……バティスタも慌てていたのか、具体的にどんな支援をしてほしいのかが記されていない。これじゃ、闇雲に手を打っても下手したら無駄になっちゃう」
「そうだな……」
僕達は、腕組みをしながら考え込む。
けど……だったら、まずすべきことは。
「よし! 僕達も、ボルゴニア王国に行って確かめよう!」
「っ!? い、いけません! 確認だけならこの私一人で充分です! ルイ様にもしものことがあっては……!」
僕がそう告げた瞬間、イルゼが真っ先に反対する。
だけど、僕が君を犠牲にするような真似、認めるわけがないじゃないか。
「ううん、皇帝陛下に要請するにしても、僕が確認しないと上手く説明できないよ。それに……僕だって、君だけを危険な目に遭わせたくない」
「あ……わ、私は……っ!?」
「イルゼ、何度も言ってるよね? 僕にとって、君がどれだけ大事かってことを」
「は、はい……」
「なら、分かってくれるよね?」
そのすべすべした柔らかい両頬に手を添え、藍色の瞳を見つめながら諭すと、イルゼは納得しないまでも無言で頷いてくれた。
それで。
「むうううう……っ」
どうしてジル先輩は、そんなに頬っぺたを膨らませて拗ねてるんですかね?
「それじゃ、イルゼには悪いけど、ゲートの使用手続きをお願いしてもいいかな?」
「お任せください。すぐに手配いたします」
「うん、ありがとう。次にオフィーリアとクラリスさんには、ボルゴニア王国に行くための経由地としてブリント連合王国へ立ち寄らせてもらっても……」
「もちろんだとも」
「こちらで手続きをいたします」
バルドベルク帝国とボルゴニア王国は、国交を結んでいない。
そのため、両国間でゲートは開通しておらず、この二国と国交のある国を経由しないとたどり着けない。
ハア……こういう時、ガベロット海洋王国ほどではないにせよ、嫌われ者のバルドベルク帝国は面倒だよねー。
僕が皇帝になったら、絶対に西方諸国の多くの国との国交を回復しないと。
「ところで、ボルゴニア王国には当然私達も一緒に行くからな」
「あはは、オフィーリアは僕が拒否したって来るでしょ?」
「フフ……よく分かっているじゃないか」
僕とオフィーリアは、口の端を持ち上げながらコツン、と拳を合わせた。
「ボ、ボクも! ボクも一緒に行くからね!」
「ジル先輩も!?」
これは予想外だった。
というか、ジル先輩にとって腹黒聖女は決して仲が良いとは言えないし、そもそもボルゴニア王国には縁も義理もない。
それどころか、国交も断絶しているから逆に嫌な目に遭わされる可能性だって……。
「ほ、本当にいいんですか……?」
「もちろんだよ! そ、その……大事な後輩の君が危険を冒して行くんだもん。ボ、ボクも先輩として、君を守らないと……」
ウーン……気持ちはありがたいけど、どちらかというと僕が守る側のような気がしないでもない。守れるだけの実力はないけど。
「わ、分かりました。じゃあ準備が整い次第、この五人でボルゴニア王国に向かうことにしましょう」
「「「「おー!」」」」
ということで、各々準備に取りかかる……といっても、僕は簡単な着替えを用意するくらいしか考えてないけど。
そもそも、まずはボルゴニア王国の状況を確認して、それを踏まえてオットー皇帝に進言するのが目的だからね。
だけど。
「『醜いオークの帝国』に、そんなシナリオや設定があったかなあ……」
僕の記憶の限りでは、原因不明の病が登場したりはしなかったはず。
あるのは、あくまでも戦闘パートでの敗北や『暗殺エンド』『反乱エンド』『自殺エンド』『毒殺エンド』などなど……って、やっぱりバッドエンド多すぎるんだけど。
でも、病死がなかったことだけは間違いない。
「……ひょっとして、ゲームとシナリオが変わってきている、とか……?」
僕がバッドエンドのフラグを折るために、本来のルートヴィヒとは違う展開をしていることで、シナリオが改変された可能性もある。
それだったら僕のバッドエンドを回避することができるという証明だから、喜ぶべき……ともいえない。
だって、そのせいであの聖女が苦しんでいるんだから。
「いずれにしても、前世の知識もフル回転して、絶対にあの腹黒聖女を救ってみせる」
未だに何を考えているか分からないし、すぐに僕を困らせるような真似をするし、イルゼとはますます険悪になるしで、色々と気苦労は絶えないんだけど……。
……うん。それでも、僕にとって彼女はもう大切な仲間なんだ。
だから。
「待っててね……ナタリアさん……」
そう呟くと、僕は決意を込めてギュ、と拳を握った。
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