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醜いオークに秘策あり

「ルイ様!」


 ブルーノの家から出てきてすぐ、イルゼがパアア、と笑顔を見せた。

 ほんのちょっとしたことだけど、こうやって僕を待っていてくれる人がいるって、メッチャ嬉しい。


「テ、テメエ! カーヤに変な真似してねえだろうな!」

「ハア……あのね、僕達はエキドナ病の薬を煎じて飲ませてあげただけだよ。ここにいるナタリアさん……聖女様(・・・)の見立てでも、薬を飲み続ければ完治するから」

「あ……ほ、本当か……?」


 吠えるブルーノだったが、僕達の反応と聖女の名を聞いてようやく理解したんだろう。

 その表情は、明らかにホッとした様子だった。


「さて……それで、これでようやく僕達の話を聞く気になったかい?」

「……その前に、カーヤの様子だけ確認させてくれ」

「疑り深いなあ……まあいいや。イルゼ、いいかな?」

「はい。さあ、立ちなさい」


 イルゼはブルーノの右腕を(ひね)って身動きを取れないようにしたまま、僕と一緒に家の中へと入る。


「カ、カーヤ……」

「すう……すう……」


 多分、カーヤはエキドナ病の苦しみから、これまでろくに眠れていなかったんだろう。

 だけど、薬を飲んで少し症状が緩和されたからか、今は寝息を立てている。


「……カーヤがこんな安らかな顔で眠っているところ、久しぶりに見た」

「ならよかった。これから毎日この薬を飲めば、すぐに良くなるから」

「ああ……ああ……っ」


 カーヤを見つめながら、涙ぐむブルーノ。

 基本的にコイツもイケメンのため、もし女子がそんな彼の姿を見たら、絶対に惚れるんだろうなあ。チクショウ。


 まあ、それよりも。


「正直、僕としては君を一発ぶん殴ってやりたい気分だけどね」


 再び家から出てくるなり、僕はブルーノを睨んだ。

 といっても、前世でも喧嘩なんてしたことないし、そんな度胸は一切ないけど。


 でも、どうにも腹の虫が収まらない。

 だってコイツは、エレオノーラを警戒して弱みを見せないようにしたせいで、泣くほど大切な妹を放置していたのも同じなんだから。


「大体、エレオノーラが信用できないからって、少なくともそれなりに資金提供は受けているはずだろう。なら少々吹っかけられても、もっと早くに薬を入手すべきだろ」

「……返す言葉がねえよ」


 ブルーノは悔しそうに唇を噛みながら、目を伏せた。


「ち、違うんだ! ブルーノは薬を手に入れなかったんじゃなくて、まだ薬を買えるだけの金を受け取ってねえんだ!」

「は?」


 オフィーリアに打ちのめされて地面に転がっていたブルーノの仲間の一人が、必死に訴えた。

 だけど、まだお金を受け取ってないって、どういうこと……?


「……あの女からは、この貧民街をこの俺が掌握したら、その時に大金をくれるって約束になってる」

「そ、そう……」


 うわー……エレオノーラ、意外とセコいなあ。

 活動資金として、最初にドーン! と渡してあげたら……とも思ったけど、彼女だって貧民街の人間なんか信用できないって思うのも仕方ないか。

 ブルーノだってエレオノーラを信用してないんだから、お互い様だよね。


「ま、まあ、事情は分かったよ。それじゃ今度こそ、本題に入らせてもらうとしよう」

「…………………………」

「さっきも言ったとおり、君にはエレオノーラを裏切ってもらって、僕に協力してほしいんだ」

「……協力って、何をだ?」

「なあに、エレオノーラが依頼したことと一緒だよ。君にはこの貧民街をまとめ上げてもらって、このバルドベルク帝国を変えるために、“反バルドベルク同盟”を組織してもらいたいんだ……あ、いや、待って。名前だけもうちょっと考えさせて」


 よく考えたら、“反バルドベルク同盟”の『反』ってなんだよ。

 僕は今の帝国を変えたいとは思っているけど、だからって帝国(ほろ)ぼす気はないんだけど。


「とにかく、要はこれからは僕と一緒に、この帝国を変えていこうってこと。その手始めに……」


 僕はブルーノをはじめ、ここにいる全員にこれから何をするのか……僕の策を説明した。


「っ!? んなこと無理に決まってんだろ!」

「そう? 僕は充分可能だと思うけど」

「馬鹿言うな! この貧民街は、俺が生まれる前からあるんだぞ!? それがお前に言うとおり簡単に綺麗になって、生まれ変わるなんてあり得ねえ!」


 ブルーノだけでなく、オフィーリアや腹黒聖女達も同じ意見みたいで、眉根を寄せている。

 あははー、この中で僕の言葉を信じてくれているのは……うん、イルゼだけみたい。


「……ルートヴィヒさん、さすがにそれは夢物語です。彼の言うとおり、貧民街というものを分かっておりません」

「私もこんなことを言いたくはないが……どの国でも、こういった者達がいるのは、仕方のないことなんだ……」


 腹黒聖女は険しい表情になり、オフィーリアは落ち込んだ様子を見せる。

 だけど……だからこそ、やりがいがあるよね。


「あはは。それじゃ、まあ……この貧民街がこれからどうなるか、みんなよく見ててよ。あ、ブルーノにはしっかり働いてもらうからね」

「お、おお……?」


 首を傾げるブルーノに、僕はニコリ、と微笑んで見せた。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
[一言] おお、女性でない味方、が出来るか/w 後は彼の手腕次第、ですかねえ。
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