妹さんはすごく可愛らしい
「じゃあ、僕とナタリアさんで様子を見てくるから、イルゼとオフィーリア達はここで見張っていてもらってもいいかな?」
「わ、私も行きます!」
ブルーノの家に入ろうとしたところで、イルゼはブルーノを押さえつつ懇願した。
うーん……別に連れていくのは構わないんだけど、ブルーノの仲間が他にいないとも限らない。
そうなると、イルゼの【千里眼】が最も役に立つことを考えれば、オフィーリア達とともにここで警戒してもらったほうがより安全ではあるんだけど……。
「うふふ……ひょっとしてイルゼさん、自信がないんですか?」
「っ! ……どういう意味でしょうか」
いやいや、ちょっと待って!?
この腹黒聖女、イルゼを煽り過ぎじゃない!?
「だってそうでしょう? 私とルートヴィヒさんが二人で少し建物の中に入るだけですのに、そんなに慌てていらっしゃるのですから」
「…………………………」
クスクスと笑う腹黒聖女とは対照的に、ギリ、と歯噛みしながら射殺すような視線を向けるイルゼ。
……多分、主人である僕のことを心配してくれているからだろうな。
「イルゼ」
「っ!? ル、ルイ様……」
「大丈夫だよ。僕だって君に鍛えてもらったおかげで、そこそこは自分の身を守れるし、ナタリアさんだって聖女なんだ。貧民街の連中が潜んでいても、何かあるようなことはないと思うから」
「い、いえ、そういうわけでは……」
あれ? おかしいな……。
ちゃんと大丈夫だって言ってるのに、納得してもらえない。
「ほ、本当だよ! ブルーノの妹の様子を見たらすぐ戻るから、心配しないでここで待ってて! 僕のいる場所は、君の傍だけなんだから……ね?」
「あ……ほ、本当ですか……?」
するとイルゼは一転、暗闇でも分かるほど顔を真っ赤にし、僕の顔を覗き込みながらおずおずと尋ねる。
「もちろん。だから……ほんの少しだけ、待っていてね」
「は、はい……絶対に、すぐに戻ってきてくださいね……?」
「うん!」
拳を握りしめながら力強く答えると、僕はイルゼだけでなく、オフィーリア達も見やると。
「みんなは強いし、何も心配はしてないんだけど、万が一……ううん、ちょっとのかすり傷でも負う危険性があった場合は、躊躇も遠慮もいらないからね」
そう言い残し、腹黒聖女とともに今度こそ建物の中に入った……って。
「……なんですか?」
「いえいえ。ルートヴィヒさんもなかなかどうして、悪い御方ですね」
含み笑いをしながらそんなことを言う腹黒聖女に、僕は首を傾げる。
いやいや、絶対に君みたいに悪くないと思うんだけど。
「ですが、せっかく彼等を殺さないでおいたのに、最後のおっしゃったことは矛盾しているように思いますが」
「そんなことないですよ。そりゃ、誰も殺さないに越したことはないけど、それもみんなが無事だってことが大前提ですからね」
そうだとも。
確かに『反乱エンド』を避けるためには、ブルーノ達を生かしておく必要があるけど、それ以上にみんなのほうが大切だからね。
ブルーノを殺さなきゃいけなくなったのなら、またその時に『反乱エンド』回避のための策を練ればいいんだから。
「……なるほど。本当に、聞いていた“醜いオーク”とは違います。これなら……」
「? 何か言いました?」
「うふふ。いいえ、何も」
うーむ……はぐらかされてしまった。
絶対に僕の話をしてたと思うんだけどなあ……。
色々と腑に落ちないものの、家の奥の部屋へ足を踏み入れると。
「ゴホ……お兄、ちゃん……?」
藁ぶきのベッドに寝ながら、か細い声で尋ねる一人の女の子。
彼女がブルーノの妹、カーヤに間違いなさそうだ。
「ううん……僕は君のお兄さんの知り合いで、ルートヴィヒって言うんだ。そしてこちらがナタリアさん。なんと、彼女は聖女様なんだよ」
「っ!? 聖女様!? ゴホッ! ゴホッ!」
あー……やっぱり驚くよね。
勝手に紹介したのは謝るから、腹黒聖女もそんなジト目で睨むのはやめてもらえませんかね?
「ゴホ……だ、だけど、どうして聖女様が私のお家に?」
「もちろん、君の病気を治すためだよ」
なんて言ったけど、エキドナ病に聖女の……いや、全ての回復魔法は効果がない。それどころか、むしろ悪化させることになる。
というのも、回復魔法はあくまでも治癒能力を爆発的に促進させるもので、それによって怪我の治療や再生を施すもの。
逆に、エキドナ病のように内科的な疾患に関しては、病原菌や悪性細胞そのものを爆発的に活性化させてしまうからね。
なお、これは前世のゲームの知識じゃなく、以前のルートヴィヒの記憶の受け売り……というか、この世界の一般常識なんだけど。
「(どうするのですか? 私の力ではエキドナ病を治すことができないことは、あなたもご存じでしょう)」
「(もちろんです。だからあなたが、この薬を彼女に飲ませてください)」
眉根を寄せながら耳打ちする聖女に、薬を手渡した。
というか、僕みたいな“醜いオーク”なんかより、聖女の肩書を持つ彼女のほうが、絶対に信用してもらえるからね。
「ふう……仕方ありませんね」
「あはは……よろしくお願いします」
苦笑しながらも腹黒聖女は薬を煎じ、カーヤに飲ませた。
「どう?」
「ゴホ……す、少し、胸のつかえが取れました……」
「それはよかった」
カーヤの表情が少し和らいだのを見て安心するも、所詮僕は医療的なことに関しては素人だ。
だから、目くばせしながら腹黒聖女に確認をすると。
「……(コクリ)」
聖女はニコリ、と微笑みながら頷いた。
どうやら、手遅れの状態じゃないみたいだ。よかった。
「さあ……あとはこの薬を毎日飲んで、たくさん寝たら、きっと良くなるからね」
「ゴホ……うん……ありがとう、聖女様……お兄さん……」
僕はシーツをカーヤの肩までかけてあげると、静かに部屋を後にした。
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