未来の革命軍を懲らしめてみる
「……ルイ様、様子が変です」
一旦建物の陰に隠れて様子を窺う中、いつになく真剣な様子でイルゼが告げる。
「どうしたの?」
「物陰に隠れて十分経過しましたが、人の気配がありません」
『醜いオークの帝国』のメインヒロインの一人であるイルゼには、特殊スキルの一つに【千里眼】というものがある。
これは、遠く離れたユニットや地形効果によって姿が確認できないユニットであっても、半径十五マス以内なら把握できるというもの。
かなりの範囲で人の動きを察知できる彼女が、人の気配を感じないなんてことは、たとえ貧民街であったとしても考えにくい。
つまり。
「……みんな、いつでも動けるようにしておこう。ひょっとしたら僕達は、罠にはまったのかもしれない」
「「「「……(コクリ)」」」」
同じくイルゼの言葉を聞いたみんなが、全員武器の柄に手をかけた。
僕も、双刃桜花をいつでも抜刀できるように体勢を構える……っ!?
「皆様! 右手の方向から火属性魔法の反応が!」
「任せてください! 【リフレクション】!」
――ドン! ドン! ドン!
イルゼの叫びに合わせて聖女が展開した光の壁に、サッカーボールの大きさの火球が立て続けに撃ち込まれたけど、あっさりとはね返す。
だけどこれ……【ファイアボール】か!
「俺の縄張りに入り込んでくるなんざ、いい度胸だな」
「あれは……」
太陽を背に路地に現れたのは、二桁の人数はいると思われる集団。
その先頭には、灰色の髪をオールバックにまとめた男がこちらを睨んでいた。
おそらく、この男こそが後の“反バルドベルク同盟”のリーダー、ブルーノだろう。
「ふむ……いきなり見ず知らずの者に攻撃魔法を放つとは、関心せんな」
「うふふ、そうですね」
腕組みをしながら眉根を寄せるオフィーリアと、クスクスと嗤う聖女。
さすがはそれぞれ最強の一角を担うメインヒロインだけあって、あの程度のモブなんて歯牙にもかけないか。頼もしい。
「ウルセエよ。人ん家の前でワラワラとたむろしやがって。オイ」
やっぱり、あの男がブルーノで間違いない。
で、後ろにいる連中に声をかけると、そのうち三人が前に出てきて両手を突き出した。
なるほど。さっきの【ファイアボール】は、あの三人が放ったんだな。
「フン、舐められたものだな。クラリス」
「はっ!」
鼻を鳴らすオフィーリアとクラリスさんが剣を抜き、低く構えたかと思……ってえ!?
「おおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
「やあああああああああああああッッッ!」
二人共、叫びながら突進して行っちゃったんだけど!?
「ああもう! ナタリアさん、あの二人の援護をお願いします!」
「はい! 【プロテクション】!」
聖女の魔法によって、オフィーリア達を光が包む。
あの補助魔法なら、物理防御と魔法防御の両方でバフがかかるから、あの二人……特にオフィーリアは問題ないだろう。
……いや、むしろ向こうの連中の命のほうが危ないような気がしてきた。
「オフィーリア! クラリスさん! その連中は絶対に殺さないで!」
「分かった!」
「はい!」
僕の意を汲み取ってくれたようで、二人が返事をしてくれた……んだけど。
「ぐわっ!?」
「げはあっ!?」
いやいや、普通に連中を思いきり弾き飛ばしているじゃん。死んでないよね?
「ルイ様、私も」
「オーバーキルが過ぎるからやめようね」
ダガーナイフを逆手に持ち、駆け出そうとしたイルゼを制止する。
これ以上は可哀想だし、あんまりやり過ぎるとこの後が上手くいかなくなるからね。
そして。
ブルーノをはじめ、連中は全員オフィーリアとクラリスに叩きのめされ、地面でうめき声を上げている。やり過ぎだ。やり過ぎだよね?
「ええと……それで、君がブルーノで間違いないよね?」
「…………………………」
お腹を押さえて苦しみながらも、ブルーノは強がって顔を背けた。
「ルイ様がお尋ねなのですよ。答えなさい」
「が……っ!?」
「よし、イルゼ。ちょっと落ち着こう」
無表情のままブルーノの顔を蹴り上げるイルゼを、僕は慌てて止める。
どうしてこう、メインヒロインは一切躊躇がないんだろう。
「それで……僕としても、君が答えないことで怪我を負ったりするのは不本意なんだ。だから、早く教えてくれると助かるんだけど」
「…………………………そうだ」
このままだと、もっと酷い目に遭うって理解したのだろう。
渋々ながら、ブルーノは答えた。
「ありがとう。次に、君は帝都の貧民街の東地区を縄張りにしているギャングのリーダーで、周りで寝転がっているのは全部君の仲間ってことでいいよね?」
「…………………………」
「答えなさい」
「げはっ!? ぞ、ぞうだよ! ぞのどおりだ!」
今度は喉を踏み潰され、ブルーノはだみ声になりながらそれも認める。
うん……情報ギルドの調査結果のとおりだ。
「そして、次が一番大事な質問。すぐに答えてくれなかった場合は、その……ごめんね?」
「っ!?」
息を呑むブルーノに、僕は苦笑しながら謝る。
ここまですれば、この後どんな最後を迎えるか理解して、全てを答えてくれるだろう。
イルゼ……君をダシに使ってごめん……。
「ブルーノ……君は、バルドベルク帝国の最大貴族であるシュヴァルツェンベルク公爵家の令嬢、エレオノーラ=トゥ=シュヴァルツェンベルクと面識があるね?」
「…………………………ああ」
ブルーノは、観念したかのように力ない声で答えた。
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