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過酷な特訓の末に

「あ、僕の朝食……というか、これから朝昼晩の食事は野菜中心で、もっと量を少なくしてください」

「え……?」


 朝からテーブルの上に所せましと並べられている豪華な肉料理の数々を見て、僕は胸やけを起こしつつイルゼにそう告げた。

 だけど、そんなに目を見開いて驚かなくてもいいと思うんだけど。


「や、やはりどこかお身体が……」

「いやいや、僕もそのー……少し痩せようと思って……」

「ルートヴィヒ殿下が!?」


 だから、いちいち驚くのはやめてください。


「それで……食事が終わった後、もしイルゼさんの手が空いていたら、お願いしたいことがあるんだけど……」

「あ……」


 そう言った瞬間、イルゼの表情が変わる。


「……かしこまりました。では、支度をいたしますので、少々お時間をいただいてもよろしいですか……?」


 あ、これ、絶対に勘違いしているやつだ。


「え、ええと、僕がお願いしたいことというのは、瘦せるための訓練に付き合ってほしいというか、指導をお願いしたいんだけど……」

「え!? あ、そ、そちらでしたか……」


 うん、やっぱり勘違いしていた。

 というか、この僕だよ? 前世プラスルートヴィヒの年齢イコール彼女いない歴の僕に、イルゼみたいな綺麗な女子に手を出すなんてハードルが高すぎる。


「ですが、どうして私にそのようなお願いを? 訓練であれば他にも騎士団長など、適任者がいると思いますが……」


 僕の顔を(うかが)いながら、イルゼはおずおずと尋ねる。


「んー……イルゼさんって、実はかなりの実力者ですよね?」

「っ!?」


 僕の言葉に、イルゼは息を呑んだ。

 この世界の元となっている『醜いオークの逆襲』の戦闘パートはタワーディフェンス系となっており、戦闘は全てヒロインといくつかの兵科で構成されるモブ兵士のユニットが行う。

 ルートヴィヒ? チェスのキングのように、最後尾から一歩も動きませんが何か?


 その中で彼女は、ヒロイン中一位の素早さを活かした移動速度と複数回の連続攻撃を得意とし、斥候の役割を担っている。

 もちろん、彼女が例に挙げた騎士団長なんかよりも遥かに強い。


「お願いします! 僕……本気で変わりたいんです!」

「で、殿下!?」

「……ひょっとしたら聞き及んでいるかもしれませんが、僕は隣国の姫君に辛辣な言葉を投げかけられ、多くの国からも袖にされ、皇太子なのに婚約することすらできませんでした」

「…………………………」

「だから……だから僕は、ソフィア王女をはじめとした多くの連中を見返してやりたいんです! もちろん、劇的に変われるだなんて思ってません! でもせめて人並み……いえ、少し醜い程度くらいにはなりたいんです!」


 戸惑う彼女に、僕は椅子から転げ落ちて土下座をする。

 とても皇太子がメイドにするようなことじゃないけど、僕の本気を知ってもらうにはこれくらい誠意を見せないと。


 額を床にこすりつける中、沈黙が続く。


 そして。


「……かしこまりました」

「っ! じゃ、じゃあ……」

「このイルゼ=ヒルデブラント、何としても殿下の期待に応えてみせます」


 そう言って、イルゼは優雅にカーテシーをした。

 だけど……ちょっと目が怖いんだけど……。


 気のせい、だよね……?


 ◇


「ルートヴィヒ殿下! あと十周!」

「ルートヴィヒ殿下! 間食などもってのほかです! 我慢してください!」

「ほら、ルートヴィヒ殿下! もっとしっかり泳がないと、人食いサメに食べられてしまいますよ!」

「ブヒイイイイイイイイイ!?」


 イルゼとの訓練は、熾烈(しれつ)を極めた。

 あまりにもスパルタで、あまりにも体育会系で、一切容赦がなかった。


 それどころか、一歩間違ったら命を落としかねないようなものまで……。


 だ、だけど、こんなにたるんだオークみたいな容姿を人並みにしようと思ったら、並大抵のことじゃ無理だということも理解している。

 なので僕は、イルゼの訓練に必死に食らいついた。


 そんな僕とイルゼの様子に、皇宮の者達は口々に噂する。


『ああ……とうとう醜い皇太子は、頭までおかしくなってしまったか』


 と。


 だけど。


「言いたい者には言わせておけばいいのです。ルートヴィヒ殿下のお覚悟は、想いは、このイルゼが誰よりも理解しております」

「イルゼさん……っ」


 イルゼの……いや、師匠(・・)の言葉に、僕は心を震わせる。

 そうだ、僕はもう一人じゃない。


 あの引きこもって、自暴自棄になって、女性を滅茶苦茶にすることで憂さを晴らして壊れてしまった、ゲームの中のあのルートヴィヒじゃない。


 だから。


「ブヒイイイイイイイイイイイイッッッ!」


 イルゼと二人三脚で行う、厳しい訓練の日々。

 夏を越え、秋が過ぎ、冬を迎え、そして……花が芽吹く、春。


「イルゼ……僕はやったよ……!」

「お見事です、ルイ様(・・・)


 鏡に映る僕の姿は、この一年でまさに皇太子に相応しい姿に変貌を遂げていた。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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