たまには屋上でランチでも
「なあ、そろそろ一週間経ったのだから、情報ギルドに顔を出してもいいんじゃないか?」
朝の中庭で、十三回目のダイブを敢行したところで、オフィーリアが僕の顔を覗き込みながら尋ねた。
「ウーン……確かに、進捗くらいは確認しに行ってもいいかも」
「だろう? なら、今日の放課後にでも行こうじゃないか」
嬉しそうな表情で、オフィーリアがうんうん、と頷く。
剣術の稽古一辺倒の彼女にしては、外出を喜ぶだなんて珍しいな。
あれかな? ここ一週間、僕が彼女の稽古に付き合ったから、機嫌がいいのかな?
それに反比例して、イルゼの機嫌がすこぶる悪いけど。
「……オフィーリア様、情報ギルドへはルイ様と私だけで行ってまいりますので、剣術の稽古に勤しんではいかがでしょうか」
「まあ、そう硬いことを言うな。私も、あのフラペチーノを飲みたいからな」
前回の反省を全く活かしていないオフィーリア。
これこそが、脳筋ヒロインが脳筋ヒロインと呼ばれる所以だよね。
「うふふ。ですが今回も、同じようにこの六人で行ったほうがよろしいと思いますよ?」
「ナタリアさん、それはどうしてですか?」
「前回は私達とルートヴィヒさんとの関係を向こうも測りかねていたと思いますが、仲間だということを認識してもらえれば、今後いざという時にやりやすくもなりますし」
「あー……確かにそうですね」
この前はただの同級生くらいにしか見られてなかったかもだけど、ちゃんと目的も情報も共有する仲間だと分かってもらえれば、僕やイルゼが動けない時とかでも情報の受け取りをしてもらえたりと、色々とメリットがあるからね。
「分かりました。今回は六人で行きましょう」
「はい」
腹黒聖女が、微笑みながら頷く。
今のところ企みや打算なんかはなさそうに見えるけど、油断はしないでおこう。
それよりも。
「…………………………」
「♪」
このメッチャ不機嫌なイルゼとは対照的な、鼻歌交じりにご機嫌な様子のオフィーリア。
オフィーリアはともかく、イルゼにはその……後でちゃんと機嫌を取っておこう。
僕も、『暗殺エンド』は嫌だからね。
◇
「イルゼ、早く行こう!」
「は、はい」
昼休みになり、僕は隣の席のイルゼの手を引いて急いで教室を出る。
オフィーリア達に捕まったら、面倒だからね。
「ですが……今日の昼食は、オフィーリア様達はご一緒しなくてよろしいのですか?」
「えー。放課後も一緒に行動するんだし、お昼ぐらいは、その……ねえ」
うん、最近はあの四人も一緒にいることが多くなっちゃったから、イルゼと二人だけになる機会が少なかったんだよね。
まあこれは、たまにはイルゼと二人きりになりたいっていう、僕の我儘だ。
オフィーリアや腹黒聖女、それにクラリスさんと打ち解けてきて、喪男の僕でも話しかけやすくなったとはいえ、一番気心が知れているのはイルゼだし、その……一緒にいて落ち着くというか、安心するというか……。
ま、まあ、それ以上にドキドキすることのほうが多いんだけど。
「だ、だからさ、今日は二人で食事にしようよ」
「は、はい!」
よかった、一応はイルゼも喜んでくれているみたい。
さすがに僕のことを異性として見てはいないと思うけど、それでも、出来の悪い愛弟子くらいには思っていてくれているよね? お願いだからそうであってほしい。
ということで。
「へえー、こんな見晴らしのいいところがあったなんて」
食堂で食べるとオフィーリア達が絶対に絡んでくるので、僕達は売店でパンとお惣菜を買って屋上に来た。
フフフ……まさか彼女達も、ここにいるとは思うまい。
「はい……清々しい青空ですし、風も気持ちいいです」
そよ風がイルゼの藍色の髪を揺らし、彼女は髪を耳にかける。
そんな彼女の何気ない仕草と綺麗な横顔に、どうしようもなく胸が高鳴ったことは悟られないようにしないと。
「さあ、食べよう」
「はい」
床にハンカチを敷いてイルゼを座らせ、その隣に僕は座る。
なお、売店で購入したのはバゲットと呼ばれる短いフランスパンを一つと、ブルーベリーのジャムにクリームチーズ、それとブロッコリーと枝豆をバジルとオリーブオイルで和えたサラダだ。
「ルイ様、どうぞ」
「あ、ありがとう」
ダガーナイフで薄く切ったバゲット受け取り、その上にジャムとクリームチーズを塗ってかじりつく。
「ん! 美味しい!」
「はい……今日の昼食は格別です」
可愛らしい口ではむ、とパンをかじるイルゼ。
いやもう、そんな彼女をこうして見つめているだけで、僕はお腹いっぱいなんですけど。
というか、喪男で“醜いオーク”のがこんなに幸せでいいのかな?
同じ喪男に目撃なんてされでもしたら、絶対に明日の朝には全裸で川に浮かんでいるよね。気をつけよう。
「? どうなさいましたか?」
「へ? あ、いや、何でもないよ」
「?」
おっといけない。警戒してキョロキョロしたもんだから、イルゼが不思議がっているぞ。
大体、彼女のほうが警戒能力は圧倒的に高いんだから、僕は大人しくしていよう。そうしよう。
などとくだらないことを考えながら、パクリ、とパンを頬張ると。
「……ルイ様」
イルゼが、低い声で耳打ちする。
何事かと思い、警戒しながら周囲を見回すと。
「あれは……」
屋上へと通じる入口に現れたのは、生徒会長のエレオノーラと、ソフィアだった。
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