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僕は、この国を変えようと思う

「それで……どういうことなのか、説明してくれるか?」

「「…………………………」」


 フラペチーノを飲み終わり、僕とイルゼは今、寄宿舎の裏で腕組みするオフィーリア達に絶賛問い詰められております。

 というか、あんなことをコースターになんか書いたら、四人にバレるに決まってるから。お姉さんも、ちょっと配慮が足らないんじゃないかなあ。


「それで、あの食堂は何なのですか? そして、ルートヴィヒ殿下が依頼されたものとは?」


 腹黒聖女が、ニタア、と口の端を吊り上げながら、すごい質問攻めしてくるー。

 そもそも今回の件は帝国内の問題なんだから、他国の人間である四人は関わらないでください。


「ルイ様、いかがなさいますか?」


 どうやらイルゼは、僕に判断を委ねてくれるみたいだ。

 ……オフィーリア達を巻き込んじゃいけないんだろうけど、かといって黙っていたらこの二人、メッチャキレそう。


 どうしたものかと首を捻ってみると。


「わっ!?」


 突然オフィーリアに両肩をつかまれ、僕は驚きの声を上げた。


「ルートヴィヒ殿下。剣を交え、少なくとも私は貴殿達とお互いを理解し合えたと思っている。そして、この帝立学園において……いや、これから先も、貴殿達となら友誼(ゆうぎ)を結びたいとも」

「…………………………」

「だから私は、貴殿にはそのように壁を作ってほしくない。困っているのなら、助けが必要なら、この私を頼ってほしいのだ」

「あ……」


 輝く黄金の瞳で見つめるオフィーリア。

 隣のイルゼへと視線を向けると、彼女も頷いてくれた。


 ……本当に、もう。


「ハア……分かったよ」

「! では!」

「うん……ちゃんと話すから」


 そう告げると、オフィーリアが破顔する。

 ああもう、こんなの反則だよなあ。


 前世でも喪男で、この世界でも“醜いオーク”だから、その……こうやって優しくされたりすると弱いんだよ、僕は。


 肩から手を放し、黄金の瞳を輝かせながら説明を待つオフィーリア。

 そんな彼女を見て、不覚にも嬉しくなってしまった僕は、ついつい口元を緩めた。


 ◇


「なるほど。あの生徒会長のエレオノーラ殿が、な……」


 四人にエレオノーラの件について一通り説明を終えると、オフィーリアが静かに目を閉じて考え込む。

 腹黒聖女とクラリスさんも同様で、頬に手を当ててみたり、口元を押さえてみたりと、思案していた。


 そんな中、モブ聖騎士のバティスタだけは、ただ一人つまらなそうにしていた。

 この男、基本的に聖女以外に関しては興味がないのな。


「うん。それで僕達は、もし革命に向けて動き出しているんだとしたら、既に協力者……というか革命の同志と接触しているんじゃないかと思って、情報ギルドを通じて身辺調査をすることにしたんだ」

「そういうことだったんですね……では、これからどうなさるのですか?」

「いずれにしても、情報ギルドの身辺調査が済んでからじゃないと動きようがないからね。それに、今日明日で革命が起きるような状況じゃないだろうし」


 大体、『反乱エンド』が発生するのはゲームの本編が始まってからなんだ。

 つまり向こう四年間は、そんなイベントが起こらないってことだからね。


 何より、エレオノーラはまだ十八歳で、生徒会長とはいえしがない帝立学院の一生徒なんだ。そんな大それたことができるだけの力なんて、持ち合わせていないはずだよ。


「でも、だからといってこのまま放っておいたら、それがいずれ帝国を(むしば)む大病にまでなってしまうかもしれない。なら、今の内から刈り取っておかないと」

「ルートヴィヒ殿下の言うとおりだな」

「ええ」


 オフィーリアも腹黒聖女も、頷いて同意を示した。


「それで……皇太子であるルートヴィヒ殿下が、帝国のために動かれるというのは理解できるのですが、エレオノーラ会長の思想には、全て反対なのですか?」


 いつもの聖女然とした穏やかな表情は鳴りを潜め、いつになく真剣な表情で尋ねる腹黒聖女。

 質問の意図が分からないけど、ちゃんと真面目に答えたほうが良い気がする。


「いいえ。僕が言うのも何ですが、この帝国は間違った方向に進んでいると思います」

「「「「…………………………」」」」


 僕の言葉に、腹黒聖女も、オフィーリアも、クラリスさんも、つまらなそうにしていたバティスタまで、ジッと僕を見つめた。

 それだけ、この答えが意外だったのかもしれない。


「僕の父……今のオットー皇帝は、帝国の軍備の増強を進めています。それによって、貴族を通じて民にも高額な税の取り立てに遭い、日々を生き抜くのが精一杯の状況です」


 そのことについては、『醜いオークの逆襲』のあらすじやプロローグでも、一、二行程度ではあるけれど触れられていた。

 これは、元々侵略によって領土を拡大し、大きくなってきた歴史を持つ帝国の宿命かもしれない。


「これを本当に何とかするのなら、エレオノーラ会長が考えているような革命じゃなく、この帝国に暮らす全ての者が、自分達で考え、行動することこそが大事なんです。そうじゃないと……結局は国が混乱して、(ほろ)びてしまうだけですから」

「……ですが、それをどうやって実現するのです? 厳しいことを言いますが、貴族はともかく民衆にそんな国のことなんて考える余裕はありません。それに、民衆は別に変化を求めているわけではありませんから」

「ええ、聖女様のおっしゃることはごもっともです。その点については、僕も同じことをエレオノーラ会長に指摘しています」


 そう……だからこそ、革命には道標(みちしるべ)が必要なんだ。

 誰もがどうすれば幸せに暮らすことができ、大切な人を守れるのか、そのあり方を示すものが。


「……僕は“醜いオーク”で、誰からも疎まれ、味方だと思っている人なんてここにいるみんなで全てです……って、あはは、勝手に僕が思っているだけなので、気にしないでくださいね」

「っ! そんなことはありません! 私はいつだって、あなた様のお(そば)に!」

「私もだ! 剣を……心を交わした者を、友と呼ばずして何と呼ぶのだ!」


 イルゼとオフィーリアの言葉に、僕の胸が熱くなる。

 うん……こんなふうに言ってくれる人が二人もいるなんて、本当に僕は幸せ者だ。


 あの『醜いオークの逆襲』のようなバッドエンドのフラグなんて全部へし折って、本編すら開始させてやるものか。


 僕だけじゃなく、今、目の前にいる大切な人達を守るためにも。


 だから。


「僕は……このバルドベルク帝国の皇帝になって、この国を変えようと思います……いえ、変えてみせます」


 左胸に手を当て、僕ははっきりと宣言した。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
― 新着の感想 ―
[一言] エレオノーラに足りない所は民がどう考えてるのか理解出来ない。自分が貴族の公爵令嬢で上からしか見てないから民の心境が理解出来ない、彼女の限界。 革命に付き合わされる無関係な人間はたまったもんじ…
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