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正体がバレバレでした

「一応、念のために確認しますけどー……うちのお店にはデートで来たわけじゃないですよねー……?」


 お姉さんが、ジト目で睨みながら尋ねる。

 えー……またこのネタ? それはさっきの屋台のおじさんだけで充分なんだけど。


「も、もちろんです! 僕達は情報ギルドに依頼したいことがあって、ここを訪ねてきたんですから!」


 よくよく考えたら、さっきの屋台のおじさんの時は曖昧な返事をしちゃったから、イルゼの機嫌を損ねたに違いない。

 なので、同じ失敗をしないよう、ちゃんと目的を明確にしておくのだ。


 とはいえ、不安なものは不安なので、念のためイルゼの様子を(うかが)うと。


「……ふふ」


 あ……今、口元を緩めながら嬉しそうに微笑んだ。

 お姉さんへの答え方が正しいのだと安心するとともに、僕は彼女の表情に釘付けになってしまう。


 ……イルゼが好きになる男、絶対に幸せ者だよなあ。

 優しいし、綺麗だし、スタイル抜群だし、何でも完璧にこなすし、それに……こんな素敵な笑顔をいつも(そば)で見られるんだから。


 しかも、自分のためだけに向けてくれる、最高の笑顔を。


 喪男の僕には永遠にあり得ないと知りつつも、やっぱり羨ましいなあ……。

 もしイルゼに好きな男が現れたら、僕は間違いなく悔しさと羨ましさで血の涙を流しながら呪うね。


「それで、帝立学院の制服を着ているということは貴族ですよねー? それがこんな情報ギルドにくるなんて、どんな用件なんですかー?」

「あっ、はい」


 おっと、イルゼに見惚れている場合じゃない。

 僕はこのお姉さんに、自分達の素性を偽りつつエレオノーラの身辺調査を依頼した。

 特に、学院以外で接触した者について。


「……このエレオノーラって子、あのシュヴァルツェンベルク公爵家の令嬢じゃないですかー。ギルドに危ない橋を渡れっていうんですかー?」

「別に深入りしてほしいと言ってるわけじゃないんです。ただ、エレオノーラが帝立学院の外に出てきた時に、どんな者と接触したのか、それを教えてほしいんです。もちろん、接触した者の素性まで調べてくださったら、報酬は上乗せいたします」

「ふうん……」


 するとお姉さんは、僕とイルゼを交互に見やると。


「そんなに綺麗な女の子が(そば)にいるのに、ストーカーみたいなことしちゃうんだー」

「ハア!?」


 いやいや、いきなり何を言い出すの?

 いくら僕が“醜いオーク”だからって、そんな目的なんかじゃないし。


 それに、喪男は自分から積極的に動いたりしないんだ。僕達みたいな人種は、常に待ちの姿勢なんだよ。


「僕はエレオノーラに、異性としての興味は持っていませんから」

「ふうん……そうらしいですよー」


 何故かお姉さんは、ニヤニヤしながらイルゼのほうを見ている。

 というかイルゼ、なんで明後日の方向を向いているの?


 ま、まあいいや。


「話を戻しましょう。それで……僕達の依頼、引き受けてくださいますか?」

「んー……私の一存で決められませんので、とりあえずは保留(・・)ですねー」


 なるほど……ひょっとしたらお姉さんは、情報ギルドの受付嬢的な役割なのかな。

 それで、ギルド長や幹部に受けるかどうかを確認するのかもしれない。


 まあ、少しでも侮ってもらえるように、僕達もわざと制服を着てきたんだ。

 侮られ過ぎて相手にされなくても困るけど、少なくとも受付はしてくれたんだから、受けてくれる可能性はそれなりにあるだろう。


「分かりました、それで構いません」

「へー、聞き分けがいいんですねー」

「あはは、そうですね」


 まあ、僕達の素性は貴族の子息令嬢って位置づけにしてあるし、それだったら依頼を保留にされた時点で癇癪(かんしゃく)の一つや二つ起こすはずだろうから、僕の反応が意外だったのかもしれない。


「じゃあ、三日後にもう一度訪ねるってことでいいですか?」

「ええ、構わないわー」


 よし、ひとまず交渉終了。

 来る前は話も聞いてもらえずに門前払いか、もしくは怪しまれて襲われたりするかのどちらかだと思っていたけど、意外と聞いてもらえてよかったな。


「では失礼します」

「失礼します」


 僕とイルゼが、扉を開けてくれたお姉さんの前を通り過ぎる、その時。


「……んふふー。またねー、“醜いオーク”さん」

「っ!?」


 耳元で僕だけにしか聞こえない声でささやかれ、思わず凝視する。

 この人、最初から僕のことを知って……って!?


「ルイ様、行きましょう」

「う、うん……」

「ありがとうございましたー……って、そうそう」


 少し眉根を寄せたイルゼに手を引っ張られながら店を出ようとしたところで、お姉さんに呼び止められた。

 ま、まだ何かあるのかな……。


「ご注文の『季節のフルーツのフラペチーノ』のトールですー」

「「…………………………」」


 手渡されたのは、ストローが二本刺さった大きめの紙コップになみなみと注がれた、イチゴのフラッペだった。


 というか、本当にあるんだ……。

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【余命一年の公爵子息は、旅をしたい】
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