喪男にお茶会のお誘いでしてよ
「ルイ様、お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
日課である朝のトレーニングを終え、制服に着替え終えたところでイルゼがタイミングよくお茶を運んできてくれた。
いつも思うけど、彼女はその性格や容姿、戦闘能力だけでなく、礼儀作法からメイドとしての仕事ぶりまで、全てにおいて完璧だと思う。
とはいえ、毎朝こんなにも絶妙な頃合いでやって来るイルゼには、常に監視されているんじゃないかとの疑いを持ち始めているけど。
いや、だってさあ、この前だってたまたま授業の準備に手間取って着替えが遅れた時でも、ちゃんと着替え後に来たし。
あれかな? 僕の着替えを覗いているのかな? ……って、ないない。さすがにそれはない。
……まあ、鬼畜系同人エロゲのオークな主人公よろしく、僕のオークもまさしくオークなので、ちょっと自慢ではあるんだけど。
“醜いオーク”に絶望した僕だけど、これに関してはルートヴィヒに転生してよかったなあと、しみじみ思っている。使う機会はないだろうけどね。チクショウ。
「それと……手紙が届いております」
「僕に?」
はて? 僕宛の手紙ってなんだろう?
少なくとも、手紙を送ってくれるような親しい人間なんて皆無だからなあ……。
首を傾げつつ、イルゼから受け取った手紙を開封してみると。
「えー……」
差出人の名前を見た瞬間、思わず変な声を出してしまった。
いや、だって、あのエレオノーラの手紙なんだよ? きっとろくでもないことに決まっている。
「ルイ様、手紙の内容は何と……?」
イルゼにおずおずと尋ねられ、改めて手紙に目を通す。
「えーと……要約すると、エレオノーラ会長が僕をお茶会に招待したいとのことだ」
前置きの長い挨拶文は置いといて、どうやらそういうことらしい。
だけど、どうして“醜いオーク”の僕を誘ってきたんだろう……というか、裏があるとしか思えないんだけど。
大体、エレオノーラ=トゥ=シュヴァルツェンベルクというヒロインは、『醜いオークの帝国』において帝国の内外に革命軍を組織し、帝都から離れた辺境の貴族達と結託してクーデターを起こした張本人だ。
これを防ぐには、エレオノーラがクーデターを起こす前に拉致監禁し、僕のオークでアレをして従順度を一定以上上げる必要がある。
そうすることで、屈辱と快楽に屈服したエレオノーラは、革命軍や反乱を企てている貴族達の情報を漏らすのだ……って、あれ?
「そうすると、このタイミングで彼女と親密になっておいたほうがよくない?」
「っ!?」
ふと気づいたことをそのまま口に出した瞬間、イルゼが目を見開き、カップに注ぐお茶が溢れて床をびしょびしょにした。
「そ、その……ルイ様は、エレオノーラ会長のことを……?」
「ちょ、ちょっとイルゼ、どうしたの!?」
いつも冷静で表情を変化させることが少ないイルゼが珍しく、今にも泣きそうな表情を浮かべた。
おかげで、喪男でメンタルよわよわな僕は、どうしていいか分からずおろおろとしてしまう。
「で……ですが、ルイ様は確かに生徒会長と親密になりたいと、そうおっしゃいました……」
「え? あ、あー……それは今後の帝立学院での生活だったり、卒業後のことを考えたら公爵家の令嬢である彼女を味方につけておいたほうが、後々いいかなー程度のことで……」
どうやらイルゼは、僕がエレオノーラと親睦を深めることが気に入らないみたいだ。
ひょっとしたら、僕のいないところで彼女がエレオノーラに何かされたのかも……。
「も、もちろん、君が嫌だっていうなら彼女と親睦を深めたりなんてしないから! それより、もしイルゼが彼女に何かされたなら、ちゃんと僕に言ってね? 僕は生徒会長なんかより、君のほうが何倍も大切なんだから」
「あ……は、はい……っ」
イルゼの表情は一変し、頬を赤く染めながら蕩けるような笑顔を見せてくれた。
うわあ……普段は完璧クールメイドな彼女がこんな顔をすると、破壊力がチート級なんだけど。
ゲームでは絶対に見せることのない表情を見て、余計にそう思う。
やっぱり彼女も、メインヒロインの一人、なんだよね……。
「と、とにかくそういうことだから、お茶会については正式にお断り……」
「あ……いえ、やはりルイ様がおっしゃったように今後を考えますと、シュヴァルツェンベルク公爵家と誼を結んだほうがいいと思いますので、お茶会には参加なされたほうがよろしいかと」
「え? いいの?」
「はい」
イルゼの急な心変わりに驚きつつも、まあ彼女がいいならいい……のかな?
でも……ひょっとしたら僕を気遣って、無理をしてくれているのかもしれない。
「イルゼ、さっきも言ったように嫌なら嫌でいいんだよ? 僕は君がつらい思いをするほうが、そんなあやふやな将来のことよりも問題なんだから」
「あう……も、もちろんです。私は大丈夫ですので、どうかルイ様のことを優先なさってください」
しばらく押し問答を続けるけど、どうやら本当に大丈夫そうなので、お茶会に参加することにした。
だけど……喪男の僕がお茶会なんて、絶対に似合わないよね。
というか、女子しかいなかったらどうしよう。
「い、一応聞くけど……もちろんイルゼも一緒に来てくれるよね?」
「っ! よ、よろしいのですか?」
「もちろんだよ。僕は君がいないと、本当に駄目なんだ」
そうとも、異世界恋愛ラノベよろしく、お茶会と言えば貴族令嬢達がキャッキャウフフと社交界についてささやき合う場所。
そんなところに喪男の僕一人で放り込まれたら、格好の餌食どころか、場合によってはショックのあまり明日の朝には川に浮いている可能性だってあるかも。
なんとかメンタルをぎりぎり保つためにも、絶対に来てください。
「だ、だからイルゼ、僕のパートナーとしてよろしく頼むよ?」
「ルイ様……はい、どうぞよろしくお願いいたします……」
胸に手を当て、イルゼはもう一度咲き誇るような笑顔を見せてくれた。
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