圧倒的イケメンでした
「お待ちください」
観客の中から、トーマスの主人……ソフィアが現れた。
それを見た瞬間、そのトーマスの表情に笑みが零れる。
おそらく、主人であるあの女が自分を助けてくれる、そう思っているんだろう。
それに、今回の件はソフィアの指示でしでかしたことだろうし。
だけど……それで収拾がつくなんて、本気で思っているのかな? 思っているんだろうなあ。
「何か用かな、ソフィア殿下」
「はい……そちらの、トーマスの件についてですわ」
「ほう……?」
愁いを帯びた表情を浮かべるソフィアを、オフィーリアは興味深そうに見つめる。
もちろん僕も、ソフィアがこの後どうするのか、非常に興味深いとも。
「だが、このトーマスはあろうことか嘘を吹聴してバルドベルク帝国の皇太子、ルートヴィヒ殿下を陥れようと画策し、ブリント連合王国第四王女であるこの私をも謀ったのだ。悪いが貴殿の話を聞くつもりはない」
「ええ、もちろんそれは存じ上げておりますわ」
オフィーリアの言葉にも動じず、ソフィアは澄ました表情で答えた。
だけど、じゃあ何しに現れたんだ?
「私が申し上げたいのは、この私のあずかり知らないところで、これだけの無礼を働いたトーマスは私の……いえ、ベルガ王国の恥。汚名をそそぐためにも、是非とも極刑にしてくださいますかしら」
「っ!?」
ソフィアの放った言葉に、僕は怒りを覚える。
正直、僕はソフィアがこのトーマスを切り捨てるだろうことは予想していた。
だけど、だからって平気な顔をしながら命で償えだなんて、従者として仕えてくれた者に対して、どうしてそんなことが言えるんだ。
しかも、自分が命じたくせに。
「よいのか? ならば、この場で即刻首を刎ねてやるが」
「ええ、構いません」
「で、殿下!? それはあんまりです! 俺は……俺は、あなたのために!」
「私のために、なんですか?」
「っ!? …………………………」
冷たい視線を向けられ、トーマスは唇を噛んでうつむいてしまった。
ひょっとしたら、何か弱みでも握られているのかもしれない。
例えば、ベルガ王国の実家が人質に取られていて、それで従者として従わざるを得ない、とか。
イルゼが、実家の支援を条件に僕に仕えているように。
「よかろう……と言いたいところだが、最も侮辱されたのはルートヴィヒ殿下であり、従者のイルゼだ。なら、この男の処罰はルートヴィヒ殿下に委ねるのが筋というものだな」
ええー……まさかここで、僕に振るんですか?
この男に思うところはありますが、正直相手にするのも面倒なので勘弁してほしい。
「ルイ様、始末いたしますか?」
「よしイルゼ、一旦落ち着こうか」
ダガーナイフを取り出して殺る気満々のイルゼを、とりあえずなだめる。
オフィーリアもそうだけど、なんでこの世界の人間は一切躊躇がないんだよ。
「トーマス」
「…………………………」
「貴様のしたことは、この国の皇太子として到底許せるものじゃない。それは、貴様に迎合して騒いだ、観客である生徒達もだ」
「「「「「っ!?」」」」」
当たり前じゃないか。
騙されたから関係ありませんなんて、通用するとでも思っているのかな?
「とはいえ、それを判断するのは僕じゃなく、このバルドベルク帝国の司法が判断すべきと考えている。だから、これは全て司法に委ねることにするよ」
まあ、トーマスはともかく、観客の生徒達にはお咎めはないだろうな。というか、生徒達の実家のこともあるから、そんなことをしたら帝国が崩壊するし。
なので、精々実家の貴族家に対して厳重注意が関の山かな。
だけど。
「トーマス。これから取り調べが行われることになるが、それは全て非公開だ。つまり……貴様が供述したことは、国内は当然のこと、ベルガ王国にも決して漏れることはない」
「っ!? …………………………」
あはは。ソフィアの奴、メッチャ僕のこと睨んでるし。
そりゃそうだよね。トーマスが裏切って本当のことを話したら、自分の立場が危うくなるんだからさ。
でもオマエは、それをトーマスのせいにすることはできない。
だって、オマエには取り調べに関与する術はないんだから。
「さすがです、ルイ様」
「あはは、ありがとう」
少し興奮した様子で頷くイルゼ。
彼女にも満足してもらえたようで何よりだ。
「フフ……ルートヴィヒ殿下、見事な裁きだった。そして……観客の中には、イルゼや私の従者のクラリス、それにトーマスのような従者がこの中にも多くいるだろう」
「…………………………」
「なら、よく見ておくがいい。あの舞踏会での出来事を踏まえた結果の、それぞれの従者の顛末を」
オフィーリアが観客達に語りかけると、観客達はうつむいてしまった。
ただし、主人への身の振り方について真剣に悩む従者と、従者の反抗を恐れる主人という、それぞれ違う理由でだけど。
特に。
「…………………………」
観客の中から、僕を射抜く視線。
それは、生徒会長のエレオノーラだった。
図らずも舞踏会での彼女の言葉が裏目に出たんだから、悔しいだろうなあ。知らないけど。
と、思ったんだけど。
――ふ……。
エレオノーラが表情を緩め、一瞬微笑んだ?
ええー……これ、どういう意味だろう。
ま、まあいいや。それよりも。
「オフィーリア殿下……ひょっとしてですが、最初から……」
「フフ、さあな」
含み笑いをするばかりで、答えてくれないオフィーリア。
チクショウ、脳筋ヒロインのくせに、格好いいじゃないか。
「さて、もうこんな時間だ。私は引き上げるとしよう」
オフィーリアは大剣を鞘に納め、それを肩に担いで訓練場の出口へと向かう。
そして。
「ルートヴィヒ=フォン=バルドベルク! 貴殿の本当の姿、しかと見せてもらったぞ!」
「失礼します」
「あ……」
左手を振りながら、お辞儀をするクラリスさんを連れて訓練場を出て行った。
というか、何あのイケメン。本気で惚れそうなんだけど。
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