一騎討ちの申し出
「ルートヴィヒ殿下! 見損なったぞ!」
それでも何も考えずに平気で踏み込んでくる脳筋ヒロインが、この学院にはいるんだよなあ……。
人混みをかき分けて僕達の前に現れた、オフィーリアのように。
「お、落ち着いてください。そもそもあなたまでどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもあるか! 聞いたぞ! 貴殿が……いや、貴様が舞踏会のあった日の夜、その件で物申しに行ったソフィア殿下を辱め、穢そうとしたことを!」
「ハアアアアアアアアッッッ!?」
オフィーリアの口から放たれた言葉に、僕は絶叫した。
ゲームのルートヴィヒならともかく、なんで僕が!? しかも、あんな女なんかを!?
「なな、何かの間違いです! 僕は舞踏会の一件以降、彼女に会ったりなんてしてませんよ!?」
「しらを切るな! 従者の“トーマス”殿が気づいて止めに入らなかったら、どうなっていたか分からないと言っていたぞ!」
従者のトーマスって、あの同じクラスだというイケメンだったか。
「いやいや、その従者のトーマスって男、さっき廊下ですれ違って初めて知ったんですけど」
何なら、名前はたった今知りましたけど。
「見苦しい……! 貴様は、噂に聞くようなそんな男じゃないと、そう思っていたのに……っ」
「だ、だから本当にそんなことしてませんから! あの日の僕は朝までイルゼと一緒にいましたし!」
そうだよ! 僕はイルゼと一緒のベッドにいたおかげで、緊張で一睡もできなかったんだから……って。
「やっぱり……」
「なあんだ。結局あの女、噂どおり慰み者だったんじゃない」
「だったら、他の噂も事実だった、ってことだよな」
しまった……余計なことを言ったせいで、逆に誤解を生む結果に……。
「い、言っておきますが、僕はイルゼに手を出したことなんてない! あの日だって、ただ一緒にいただけです!」
「それを、この私に信じろと?」
オフィーリアは黄金の瞳で僕を見据える。
まるで、僕の心の内を見透かすように。
といっても、見透かされたところで本当にやましいことなんて何もないから、全然問題ないんだけど。
「……よかろう」
「っ! じゃ、じゃあ!」
「貴様の言葉が真実か、それとも嘘なのか、我が剣で確かめてやる!」
「なんでそうなるんですか!?」
ああもう! この脳筋ヒロインめ!
大体、剣で確かめるって、どうせ一騎討ちだろ! コッチは知っているんだよ!
「フン。剣を交えれば、その相手の心底を量れるというもの」
「いやいやいやいや!? ちょっと待って!?」
「む、なんだ?」
腕組みしながら、ウンウン、と頷くオフィーリアを制止すると、彼女はジロリ、と訝しげに睨む。
「そ、そもそも僕とオフィーリア殿下じゃ実力が違い過ぎるでしょう! これじゃフェアじゃありませんよ!」
「そうか? なら、貴様の従者であるイルゼも加えた二対一でも構わんぞ」
そう言うと、オフィーリアはニヤリ、と口の端を持ち上げた。
あはは……僕とイルゼの二人がかりでも問題ないって、そう考えているんだな。
「受けないのであれば、貴様のしたことは事実。そして、従者のイルゼは“醜いオーク”の慰み者ということだな」
「っ!」
煽るように言い放ったオフィーリアを、僕は思わず睨みつけた。
僕はいい……僕は、あの“醜いオーク”で、何もしなければゲームと同様、西方諸国の国々を攻め滅ぼして、ヒロインを凌辱する、そんな最低の人物なんだから。
でも……イルゼを貶したことだけは許せない。
彼女はもっと優しくて、純粋で、汚れてなくて、僕の傍にいてくれることが奇跡だと思えるような、そんな素敵な女の子なんだ。
だから。
「……分かったよ」
「…………………………」
「貴様との一騎討ち、このルートヴィヒ=フォン=バルドベルクが受けてやる! そして……イルゼを侮辱したことを、絶対に謝罪させてやる!」
「言ったな! ならば今日の授業が終わった後、訓練場で待っているぞ!」
そう告げると、もう用はないとばかりに、オフィーリアは悠々とこの場から去っていった。
「ル、ルイ様! あのような要求、お受けになる必要は……っ!?」
「駄目だよイルゼ。それじゃ、君が侮辱されたままになっちゃう」
必死に詰め寄るイルゼの唇を僕は人差し指で塞ぎ、そう告げてニコリ、と微笑んだ。
そうだよ……こんな僕の傍にいるせいで、君が理不尽な思いをすることが、どうしても許せないんだ。
「それに、僕はオフィーリア王女に負けるつもりなんてない。僕達は勝って、絶対に君を侮辱したことを、後悔させてみせるよ」
「ルイ様……ルイ様……っ」
僕の胸に抱きつき、肩を震わせるイルゼ。
おかげで僕は、緊張で身体が硬直してしまい、彼女を押し退けるようなことをするのは色々な意味で無理だとも。
「だから……勝とう、イルゼ」
「はい!」
顔を見上げ、藍色の瞳を潤ませるイルゼと見つめ合うと、僕達は強く頷き合った。
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