全てを受け継ぐ者
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■オットー=フォン=バルドベルク視点
「例の書状は、ルートヴィヒには無事に届いているか?」
「はっ。ミネルヴァ聖教会の者に、確かに手渡しております」
「そうか」
部下の報告を聞き、余は胸を撫で下ろす。
あの書状には、バルドベルク帝国における全権を委任する旨の内容が記されている。
あとは、ルートヴィヒが上手く活用してくれることを祈るばかりだ。
「ハハ……そのような心配、もはや無用というものか」
そんなことを考えた瞬間、余は思わずくつくつと笑ってしまった。
思えばルートヴィヒは、一年半前に慰み者としてヒルデブラント家の令嬢をあてがってからというもの、見違えるように変わった。
ベルガ王国の第一王女、ソフィアに貶されるだけでなく、西方諸国中に悪評を振りまかれて引きこもっていた我が息子だったが、あの日を境にみるみる痩せ、その瞳に慈愛と勇気を湛えた、まさに皇太子と呼ぶに相応しい男に成長した。
帝立学院に入学してからも、ブリント連合王国のオフィーリア王女やミネルヴァ聖教会の聖女ナタリア、ガベロット海洋王国のシルベルタ王女、それにイスタニア魔導王国の『魔導兵器』であるカレン=ロサード=イスタニアを手中に収めた。
さらには帝都の貧民街をその見事な手腕によって蘇らせ、今や帝都だけでなく帝国全土の経済の中心にまで発展させた。
シュヴァルツェンベルク公爵家の娘がしでかそうとした国家転覆についても未然に防ぎ、潜入したベルガ王国の諜報員も逆に手玉に取って常に動向を監視している。
「……これで余も、いつこの世から去っても悔いはない」
ルートヴィヒに全権委任の書簡を送ったのも、全ては余亡き後のことを考えてのもの。
そもそも、あの御方はこのような結果は望んではおらぬのだからな。
すると。
「陛下……ロメル様が面会を求めておられます」
「……通せ」
さて……あの男は、どのような用件で顔を見せるのであろうな。
だが、ルートヴィヒへの書簡についてだけは、知られるわけにはいくまい。
このことが知られては、その時こそバルドベルク帝国も、ルートヴィヒも終わってしまうのだから。
「オットー皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」
「そのような社交辞令はよい。それで、本日はどのような用件でまいった」
傅き、通り一辺倒の言葉を並べるロメルを制止し、余は鋭い視線を向けた。
「……では、本題に入ります。お館様より、本日の夜お会いしたいとのことです」
「そうか……承知した。いつもの場所でよいのだな?」
「はい」
「分かった。では、すぐに帰ってあの御方に伝えるがよい」
余はこれ以上の会話は無用とばかりに、追い返すようにロメルを下がらせた。
「さて……一世一代の大芝居、打つとしようか」
謁見の間の天井を仰ぎ見ながら、余はポツリ、と呟いた。
◇
「ねえ、オットーさあ……僕がお前を呼んだ意味、何か分かるかい?」
「…………………………」
立方体のオモチャをこねくり回して遊ぶ、十五歳の少年容姿をした男の問いかけに、余は無言を貫く。
だが、正直言って余の心中は穏やかではない。
もし、ルートヴィヒに全権委任の書状を渡したことが、この男に知れたら……。
「知ってる? あの邪教徒の連中が、勝手に『反イスタニア連合軍』なんてものを結成したことを」
「そうなのですか?」
「そうだよ。本当に……どうせ結成するなら、反イスタニアじゃなくて、反バルドベルクでないと困るんだけどなあ」
立方体のオモチャを放り投げ、目の前の男はつまらなそうに頭の後ろで手を組む。
だが……全権委任についてのことではないことに、余は安堵の溜息を洩らした。
「それにしても、三番目のルートヴィヒも好き放題やってくれるよね。まあ、僕も面白そうだから好きにさせたんだけど」
「はっ……」
「ええと……確か、一番目のルートヴィヒはあのソフィアって女にフラれて自殺して、二番目が腹いせにメイドを犯した時に腹上死だったっけ?」
「そのとおりです」
男の問いかけに、私はゆっくりと頷く。
どのような魔法を使ったのか分からないが、この男は複数のルートヴィヒを生み出した。
残る二人のルートヴィヒも、今頃はこの男の思惑どおり、ソフィア王女に……世界に絶望して、あてがわれた従者を好き放題にしていることだろう。
「といっても、本番まであと三年半あるんだし、あと一年くらいは自由にさせてやるけど……その後はオットー、ちゃんと始末しておいてよね」
「……かしこまりました」
まあ、そんな命令聞くつもりはない。
あと一年の間に、ルートヴィヒが力をつけてバルドベルクを……この男を討つだけの力を手に入れてくれることを祈るばかりだ。
そのための布石として帝国の影であるヒルデブラント家をあてがい、ブリント連合王国やミネルヴァ聖教会にも裏で手を回してきたのだから。
「あはは、本当に待ち遠しいよ。一年後に三番目のルートヴィヒが絶望し、オマエも一緒に絶望し、そして四番目又は五番目のルートヴィヒが、西方諸国を支配する日が」
「っ!?」
まさか……私の思惑を知った上で、泳がせているつもりか……?
「心配しないでよ。少なくとも僕がどうこうするつもりはないから。
「…………………………」
男はポン、と肩に手を置くが、余は目を伏せる。
だが、ルートヴィヒよ……他の四人が絶望から闇へと堕ちた中、ただ一人光へと這い上がったお前なら、必ずやこの男の思惑を打ち破ってくれると、そう信じている。
――初代皇帝“フランツ=フォン=バルドベルク”の魂と肉体、その全てを受け継ぐお前なら。
「だけど楽しみだなあ。三百年前の復讐を、いよいよ果たすことができるんだから。しかも、今度の僕は前回と違い、暴君ではなくて英雄になるんだから」
「はっ……そのとおりです。二代皇帝“ガイウス=フォン=バルドベルク”陛下」
ニタア、と口の端を三日月のように吊り上げる男……ギュンター元皇帝に、私は恭しく一礼した。
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かつて追放した仲間にざまぁされた職業[英雄(偽)]の俺ですが、死に戻ったら実は伝説の英雄も俺と同じ職業だと知りました〜二度目の人生は、最強の人々が住む街で大切な幼馴染と一緒に幸せに暮らします〜
追放ざまぁもの(ただし、ざまぁされる側が主人公)です!
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